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夜想の見た夢。 −憑者神と神語りの夕霧夢幻旅行記−  作者: 鳥路
序章:夕霧に向かう前の20日間は
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9月10日:虎野舞花と愛妻弁当

虎野舞花。リュミエール所属の新人営業マン


十月十三日生まれ。家族構成は両親・・・だが、あまり仲は良くない

金髪ツインテ−ルという浮ついた見た目に対し、中身は生真面目で努力家

若干気弱だが、仕事面では恵や覚、私生活では涼香と聡子に支えられつつ新生活を謳歌しているようだ


今は成り行きとはいえ一緒に暮らすことになった聡子と涼香と共に暮らし続けている。本人曰く「一人で暮らすより何かと安全とのこと」

しかしご飯の面倒は引っ越した後でも巽家にお世話になっている模様。勿論だが食費は出している


中学生までは柳栄で暮らしており、憑者神になった経緯等田舎特有の嫌な空気がまとわりついている


抱いた願いも境遇も不明な虎の神「桔梗」をその身に宿した今代の「寅の憑者神」

使用者の力量によってできる能力が広がっていく使用上、常に自己研鑽を怠らない彼女は割と「苦労性」だったりする


・・


九月十日


私は凄く焦っていた

凄くで済む話じゃない。これを見てしまったからには鈴から消されるんじゃないか

・・・かつて殴られた腹が非常に痛む。未だに私の身体は鈴から与えられた恐怖と打撃を覚えている

彼女には逆らってはならない。彼女にとって不都合なことは知ってはいけない

今日、私が手に入れてしまったものは重要な禁忌だ・・・


「どうしよう・・・」

「どうしたの、舞花。お弁当食べないの?鈴のお手製でしょ?」

「あ、恵先輩・・・」


恵先輩をあの緑の悪魔の暴力に巻き込むわけにはいかない・・・!けどここまできたら巻き込まないと乗り切れない・・・!

どうしよう、どうしようぅ!


「恵ちゃん、ご飯食べつつ今後の相談を・・・って、舞花ちゃん何かあった?」

「覚先輩、ちょっと舞花の様子がおかしくて・・・」

「実は・・・私、ヤバい物を手に入れてしまったのです」

「・・・何を、手に入れたのかね?」

「夏彦先輩の・・・愛妻弁当」

「よし。開けろ」

「いやこれをどう返品するか考えるところですよ!それにこれを見たことを知ったら」


覚先輩は私の叫びなんて聞くこともなく、その弁当の蓋を笑顔で開けていく


「お弁当の箱、色違いなだけなんだね。舞花、いつもはオレンジだったけど、今日は黄色だから」

「はい。鈴の話だとこれの使い勝手が一番いいらしくて・・・全員これに統一されています」


夏彦先輩はごく普通の男性向けお弁当を使えない

あの人は食べるようになったとはいえ、その辺の女子並みに少食なのだ・・・女性向けのお弁当を使っても問題ないぐらいの食事量をしている


ちなみにお弁当箱のカラーは、夏彦先輩はレモン。私はオレンジ

聡子はブルーハワイで、涼香はいちごだったりする。かき氷かな


そして今、目の前にあるお弁当はレモン色。まさしく夏彦先輩のお弁当なのだ


私達三人は自炊ができない

その為、鈴に食費を払って三食作ってもらっているのだ・・・


お弁当箱は色こそ異なるがメーカーは統一され、いちいち選ぶのが面倒だという理由で風呂敷は全員一緒なのだ

それでも私達が見間違わないのは、風呂敷についている花の刺繍

それぞれ憑いている神様と同じ名前の花が刺繍されているから、それで判別しているのだが・・・たまにこうして間違う

聡子は白詰草と含羞草だから判別が楽だけど、私達三人は皆青紫系の花

正直、これは間違えても仕方ないと思う・・・


それでも私達は間違えても開き直って「どうせ中身一緒だしいっか!」とそのまま自分の弁当箱ではないにせよ、そのお弁当を食べるという所業を行っていた


しかし今は状況が異なる

巽鈴は新婚で浮足立ってる新妻だ

私達三人の分とは変化をつけ、愛しの旦那に自分の愛情がたっぷり籠もった愛妻弁当を作ってもおかしくはなかった


「すげえなこれ・・・桜でんぶでハート作ってるよ大叔母様・・・甥っ子としては恥ずかしいな・・・」

「海苔で「ガンバレ!」って文字まで・・・これ絶対大変だったよね」

「おかずも夏彦先輩が好きなのばっかりなんですよ・・・・これを見たことが鈴にしれたら、腹パンされる気がしなくもなくて・・・」


二人共、私が鈴から腹パンされたのは知っている

もちろん、私が夏彦先輩に危害を加えようとしたから仕方ないとは言え、あれはトラウマ級に痛い思い出

・・・未だに消えてくれない


「・・・そこまで心配しなくても大丈夫だとは思う。けど、とりあえず夏彦に食わせないとだめなやつでしょこれ」

「流石に、見た程度なら大丈夫だと思うけど、舞花が食べたことがしれたら、大変なことになるかもしれない・・・事務課に行ってみようか」

「はい・・・」

「俺たちも付き合うからね。最後までお供するから・・・」

「ありがとうございます」


二人に連れられながら営業課から事務課へ向かう

そこでは・・・


「あ、さとちゃん先輩じゃないっすか。ちょうどよかった」

「よっ、雷間。夏彦は?」

「今死んでます」

「残念。もう手遅れだったらしい。南無彦南無南無」

「縁起悪いこと言わない!それで、雷間君。夏彦先輩、何があったの?」


確か、恵先輩と事務の雷間先輩は同期だっけ

憑者で一緒にいる時以外、恵先輩の砕けた口調は見ないから結構新鮮だな・・・


「どうやらお弁当を間違えたらしいんだよね。丑光ちゃんは知ってる?夏彦先輩の普段の弁当は黄色でしょ?今日は赤い弁当なんだよ」

「オレンジじゃなくて?」

「赤。そうっすよね、宇佐美さん」

「うん。赤いお弁当箱だよ」

「わー・・・今日の包み、蓮華の刺繍が入ってるわよ。本当に器用よね、課長の彼女さん」


事務課の面々が夏彦先輩の側にあるお弁当箱の特徴を述べてくれる

蓮華の刺繍がある包に、赤い弁当箱


涼香のじゃん。涼香の弁当じゃん


・・・ちょっとまって。私と夏彦先輩だけじゃないの?

今、私は夏彦先輩の、夏彦先輩は涼香の、涼香は私のお弁当箱を持っている

いつか起こると思っていたけど、このタイミングで起こらなくていいじゃないか・・・


「なんか今日は「特別」なお弁当を用意してもらってたけど・・・お弁当箱、間違えて持ってきたんだとか」

「どうじよう・・・」

「あの、夏彦先輩」

「どしたーまいかー・・・」


うわプライベートと職場の区別もつかないぐらい溶け切ってる


「私が夏彦先輩のお弁当箱を持っていっていたみたいで・・・」

「ほんとうか!」

「はい。私は涼香の分を食べますので、夏彦先輩は愛妻弁当を」

「「「ほお、愛妻弁当」」」

「ひっ!?」


事務課の三人が瞬時に私の手からお弁当箱を奪い、夏彦先輩を見下ろす

その表情は完全に餌を見つけた悪魔の顔だった


「夏彦先輩。ここに沼田時代の夏彦先輩の写真があります!」

「なんであるんだ」

「それを今からコピーにかけようと思います。大丈夫。社長とファンクラブの皆さんはきちんと買い取ってくれるわ」

「買取前提で進めるな」

「てかさ、夏彦くん。なんで僕らに結婚したこと黙ってんの?」

「そ、それは・・・」


黙ってたんだ夏彦先輩・・・

たしか、沖島次長が戻ってきたら話そうって言ってたような・・・

あ、愛妻弁当って言っちゃったからバレちゃったのか。申し訳ない・・・


「舞花、帰ろっか」

「えっ」

「事務課の連中はこういう空気になると日辻さん以外止められないからね。つまり奴らの熱が収まるまで止まらない。ほら、涼香の弁当。営業課戻ってお昼にしよう」

「で、でも夏彦先輩は」

「大丈夫だ。これぐらいどうにかできる」

「えぇ・・・」


夏彦先輩を放置して、私は覚先輩と恵先輩に手を引かれながら営業課に戻される


それからしばらくして終業時刻

退勤前に、私は事務課を覗いておいた

そこには「私は結婚したことを同僚に黙った上に、目の前で愛妻弁当を食べる大罪を犯しました」と書かれた看板を首から下げながら仕事をする夏彦先輩と、頭に大きなたんこぶを作った事務課の三人が黙々と仕事をしている光景が広がっていたが・・・


私は、何も見なかったことにした


一応、メッセージは夏彦先輩に送っておいた


「私の失言で大変なことになってしまい、申し訳ないです」


メッセージを一言送ると、返事はすぐに送られてきた


「大変なことだなんて・・・こんなの、些細なことだ。気にしないでくれ。お弁当、舞花が持ってくれていて助かったよ。ありがとう。気に病まないで、今日はゆっくりしてください」と余裕のある返事だった


ちょっとだけ気が前向きになりつつ、退勤した私は巽家へと向かっていく

お弁当箱を返す目的もあるけれど、帰ってきた夏彦先輩に改めてお礼を

それから鈴に、お弁当箱の判別がきちんと付くようにお願いしよう

今日みたいなことはもう絶対にごめんだから


もう二度と、受け取るべきではないものを受け取らないために

私ができることを、しっかりこなしておくのが、今回の罪滅ぼしになると信じて

おまけ「ちなみに今朝は」


鈴「ふう、これでお弁当は準備完了!後は刺繍部分を見えるようにして・・・これでよし。夏彦が起きる前に洗濯物を片付けに行こうかな」


涼香「やっば今日早番なのに寝過ごした!鈴いないけど・・・まあいいや。とりあえずこれ(聡子の弁当)で!聡子、私今日の朝ご飯はいらないって鈴に言っておいて!」

聡子「わかったー・・・あれ、僕のお弁当がない。まあいいや。これ(舞花の弁当)で。中身一緒だし気にしない気にしない。はい、舞花の分(夏彦の弁当)」

舞花「ありがとう。聡子。今日は何が入ってるかな〜楽しみ〜」

夏彦「ふわぁ・・・鈴ぅ・・・俺のメガネどこに・・・あ、弁当持っていかないと。あれ?俺の弁当ないっぽいな・・・。まあいいや。とりあえずこれ(涼香の弁当)で。中身一緒だし。弁当箱の差なんて大したことはなかったりするし」


・・


舞花「・・・ということを、常日頃から」

鈴「なん・・・だと・・・」


後日、この件を受けて、弁当の包みはそれぞれの好きな色に統一されたとか

そして・・・


鈴「涼香はこれね」

涼香「今日もありがとうございまーす!いってきます!」

鈴「いってらっしゃい。慌てて転ばないようにね。あ、聡子はこれね」

聡子「・・・今日は玉ねぎ入ってない?」

鈴「性質的に玉ねぎダメなんだよね。わかってるから、入れたことないと思うけど・・・」

聡子「昨日、肉じゃがの残りを詰めてたでしょ?その時少しだけ入ってた。犬は玉ねぎがダメだから・・・その」

鈴「最悪死にかけるんだっけ・・・わかった。気をつけるね」

聡子「作ってもらってる立場でああだこうだ言うのは申し訳ないけど、お願いします」

鈴「うん。舞花はこれね」

舞花「ありがとう!今日のメインは?」

鈴「ハンバーグ。あ、もちろんだけど聡子は玉ねぎ抜きバージョンだからね?」

聡子「感謝」

舞花「細かいねぇ・・・」

鈴「大事なところだから。あ、夏彦。おはよう」

夏彦「はよ・・・鈴、メガネは・・・?」

聡子(寝坊は珍しい。でも、なんで夏でもオカメなんだろう・・・)

舞花(オカメ着こなしてきてるなこの人・・・)

鈴「ここにあるよ。お弁当はこれね。今日はハンバーグ入れてるよ」

夏彦「そっか。楽しみだ」

鈴「お弁当、ちょっと恥ずかしかったみたいだからメッセージカードを入れておいたよ。お昼に読んでね?」

夏彦「ああ。楽しみにしておく。今日もありがとうな、鈴」

鈴「どういたしまして!」


お弁当を間違えて持っていかれないように、鈴が全員にそれぞれ手渡しするようになったとか


鈴「これで間違いなし!むっふん!」


おまけおしまい

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