第7歩 『みんなの優しさと偽物』
『紗代は......お前のこと好きじゃなかったぞ』
「えっ?!」
『寧ろ......嫌ってたよ』
「......は?」
紗代が俺のことを嫌っていたという信じられない情報が冴島から発せられた。確かに、結果だけ見てみれば俺は嫌われていたのかもしれない。でも、少なくとも付き合い始めたあの頃は俺と紗代の間には相手への好意があったはずだ。
「そんなわけないだろ!だって告白してきたのは紗代なんだぞ?なんで嫌いな俺と付き合うんだよ、意味わかんないだろ」
思わず声を荒げてしまう。冴島の話を信じることが出来ない―――違う、信じたくないんだ。
『紗代がモテるのは知ってるよな?』
「それは、まぁ」
紗代はその美しい容姿故に入学してすぐのころから、彼女の周りには男子がいるようになったと聞いている。毎日のように告白をされうんざりしていると。いっそのこと俺と付き合っていることを公表すれば収まるんじゃないか?と提案したが、拒否されてしまった。
『あいつはそれを自覚してたんだ。だから、自分に恋心を抱かない男子生徒を酷く嫌っていた。プライドが傷ついたんだろうな』
「......俺もその一人か」
『そういうこと。紗代が突然お前にちょっかいをかけるようになっただろ?』
俺は思い当たる節があったので静かに頷く。
『それがあいつの手口なんだ。ちょっかいをだして、自分へ好意を抱かせる。それで勇気を振り絞って告白してきたところを思いっきり振るんだ』
「『最低』」
雪と美喜多さんが声を揃えて紗代を非難する。
「冴島先輩はどうしてそんな最低最悪な女と仲良くしてるんですか?!まさかあなたもあの女のこと?!」
『違うから!最初は普通に仲良くなりたいって思ってた。でも、紗代の本性を知ったから、二年からは関わらないようにしようと思ったんだ』
『しかし、峰山くんが標的になってしまったわけですか』
『そういうこと。俺は紗代の邪魔をしようと、紅貴と一緒にいる時間をつくったんだ。紗代と二人きりにならないように』
冴島が二年になって少し経った頃から......紗代と同じタイミングで俺にちょっかいをかけるようになったのを思い出す。最初は二人して俺を罠にはめようとしているのかと疑っていたが、冴島に関してはそんな意味があったなんて。
『まぁ、紗代関係なしに紅貴とは友達になろうとしていたけどな』
少し照れてる様子の冴島、それを見て雪は―
「え?なんですか、冴島先輩その表情.....まさかお兄ちゃんのこと?!」
『さっきから妹ちゃんそっちの話にもってくのやめてくんない?!』
「否定しないんですか?!」
二人が楽しそうに言い合いをしている。俺はそんな中、先程冴島がしたみたいに挙手をして注目を集める。
「俺の話聞いていたと思うけど、俺は告白してない。紗代から告白してきたんだ。だからさっきの手口に当てはまらない」
そう、何度か述べているが俺と紗代が付き合うきっかけになったのは紗代が告白してきたからである。
「きっと、お兄ちゃんが全然告白してこないから計画を変更したんだよ。お兄ちゃんと付き合って、そして裏切ることへ」
もし、それが本当なら俺が絶望し、落ち込むことは全部紗代の計画通りだってことになる。
それに冴島がさっき言ってたことは矛盾があるように感じてしまう。自分のことを好きにならないやつを傷つけて、より嫌われるようなことをする。俺だったら告白を温和に断り、自分への好意を保つだろう。
『今は憶測で判断するのはやめた方が良いです。確実な情報だけを集めるのです』
美喜多さんの言葉で俺の思考が冷静になった―――確かに、色々判断するには情報が少なすぎる。だから、雪のさっきの話もあくまでも仮説でしかないんだ。
『それと冴島くんに二つ質問があります。いいですか?』
「もちろん」
冴島の返事を確認し、美喜多さんは指を一本立てる。
『一つ目。紗代さんの本性を知りながらどうしてあなたは今もなお彼女と仲良くしているんですか?』
『それは、紅貴の時みたいに紗代と二人きりにしないようにすれば紗代の計画を邪魔することができると思ったからだよ。そのためには紗代の近くにいて標的を知る必要があるだろ?』
『なるほど、理解出来ました』
なんか、冴島らしいなと思った。
雪は俺のことを優しいというが、本当の優しいやつは冴島みたいなやつのことを言うんだろうな。
『では2つ目。あの先輩は本物ですか?偽物ですか?』