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第24歩『対面』

「まんまと騙されてしまったみたいね」


 紗代は不満そうな表情を浮かべながら、俺が向かいの席に座るのを目で追う。

 不満の原因は分かってる。ここに彼女を呼び出したのは俺ではなく、美喜多さんなのだ。俺からの誘いは断られそうだったからな。

 

『紗代を、呼び出してほしい』

 

 そう、今朝に美喜多さんにメッセージを送ると、すごく嫌そうな感じの言葉とセットで了承してくれた。

 そして、指定された時間にこのファミレスを訪れたら、紗代が席に座っていたのだ。


「なにか頼んだのか?」

「見てわからない?コーヒーを飲んでるのだけれど」


 ファミレスに入って何も頼まないと言うのが居心地が悪かったのだろう──確かに、紗代の前にはコーヒーカップが置かれていた。そんなことにも気づかないなんて、俺は、自分が冷静でないことを自覚する。


 もう、こうして2人で話をするなんてことないと思っていた、紗代と向かい合うなんてないと思っていたんだ。

 そりゃあ、落ち着いてなんかいられない。


「それで、こんな手を使ってまで私を呼び出した理由は?.....ってまぁ、大体予想はつくけどね。そうね、謝るべきよね。あなたのことを利用してしまってごめんなさい......これでいいかしら?」

「......利用した?」

「あら?妹さんから聞いてないかしら?意外と口が堅いのかしら、それとも紅貴くんの性格を考えてのことかしら?」

「なんの話だ」

「.....まぁ、あの子の目的なんてどうでもいいし、話してあげる」


 そして紗代は俺と付き合った理由を話し出した。

 紗代の姉のこと、紗代が復讐をするために俺を利用して木下先輩と付き合っていること。

 

「そのことを知ってるのは、雪だけか?美喜多さんは?」

千沙ちさにはこのことは言ってない。あの子に話すと陣にバレる可能性があるから」

「でも、脅されてるって伝える方が.....」

「そうね、それは確かにリスクがあった.....でも、あなたが諦められるようにしてあげたかったの」

「俺が?」

「本当の彼氏ではなかったにしても、半年もの間私に付き合ってもらっていたんだから、それぐらいの配慮当然だと思うのだけれど?」


 別れを告げられた俺が紗代のことを想い続けないようにして、尚且つ、俺に落ち度がなかったようにするためにあんなことを美喜多さんに伝えたというのか?

 いや、クラスメイトの女子の大半が紗代を嫌っていたんだ。

 すべてを安易に信じるのは避けた方がいい。


「じゃあ、俺のことをストーカーだとみんなに言いふらしたのは?」

「あなたに私のことを嫌ってもらうためよ。目的はさっきのと一緒」

「それで俺の株が下がったら、配慮とは言えないんじゃないか?」

「本当に下がったのならね」


 ......確かに。

 最初の日こそ俺に向けられる視線は冷たいものがあったが、それも今では完全になくなっている。 

 

「冴島くんと茉莉まりがあなたに協力して、みんなの誤解を解く。ここまでが私の計画だった」


 吉田さんが動いてくれていたのは知っていた、ビデオ会議をした日にそう言ってくれていたから。

 でも、冴島まで動いてくれていたとは......きっと、あの日に吉田さんが動いてくれると知ったタイミングで動いてくれていたんだろう。

 心の中で、遅くなってしまったが2人に感謝をする。


「それだと、紗代だけが悪者にならないか?」

「そうね。でも構わないの、私の目的は復讐だから。それにクラスメイトの大半は私のことを嫌っていた、それか、よこしまな目で見ていたから、むしろみんなに嫌われた方がスッキリするわ」


 紗代はそれだけの覚悟があったのだ、すべてを捨てるだけの覚悟が。


「もしかして、男子から好かれていたのも紗代の計画通りか」

「まぁ、そうね。そうすればあいつから喰いついてくると思ったのだけれど......千沙の方に行ってしまったみたい。そりゃあ、そうよね......周りからちやほやされている私を玩具にしたら、自分の今までの悪行がバラされる覚悟がいるもの。それなら千沙のように地味だけど可愛い女の子に手を伸ばした方が賢明よ」


 確かに、現に美喜多さんと木下先輩の関係を知ってるのは片手で足りるほどしかいない。

 美喜多さんの友達が少ないのを利用したということか。


「だから、紅貴くんと付き合っているというブランドが欲しかったの」

「なんで、俺なんだ?」

「まぁ、あなたなら利用しやすそうだったから。それに、あなたが一番まともだったから」


 冴島から聞いた話を思い出す。

 紗代は自分に好意を抱かない相手にちょっかいを出して、相手が告白してきたら振る、という趣味の悪い遊びをしていた。

 そして、俺もその対象になったのだが、例外的に俺は紗代に告白することはなかった。

 いつしか紗代は俺に構わなくなったことから、紗代が諦めたのだろうと冴島は判断したらしい。

 

「私に好意を寄せすぎている相手を振るのは流石に罪悪感も湧くし、トラブルになりかねない。だから、紅貴くんを選んだの」

「まるで俺になら罪悪感湧かないし、俺が傷つかないみたいな言い方だな。こちとら、がん泣きしたぞ」

「あら、そうなの?あんなに綺麗に別れを告げてあげたのに?確かに多少傷つくかもしれないけど、完全に私に落ち度がある感じにしたし、がん泣きするレベルだったかしら?」

「あのな、俺みたいなボッチには半年間付き合っている彼女は特別なんだぞ。急に別れを告げられたら凹むし、あんなもん見せられたら余計に傷つく」

「あんなもの?」


 紗代は小首を傾げる......可愛いなちくしょう......じゃなくて!知らないのか?あの日俺が紗代と木下先輩がラブホテルから出てくるのを見たことを。

 てっきり、美喜多さんから聞いていると思っていたが......案外、彼女も紗代のことを信頼しきってなかったのかもな。


「ねぇ、あんなものってなに?」

「.....これだよ」


 そう言って、紗代に例の動画を見せてやる。


「これって.....」

「随分楽しそうにとんでもないところから出てきてるな。知ってるか、高校生は高校生は入っちゃダメなんだぜ」

「なんでこんなもの」

「たまたま見ちゃったんだ。図書委員に仕事終わって、本屋寄って、帰ろうとしたら見かけたんだよ」

「なるほどね。それは想定外にあなたを傷つけてしまったわね、ごめんなさい」

「そんなんで許されると思うなよ」

「え?」


「お前は気づいていないかもしれないが──いや気づかないようにしているかもしれないが、お前は木下先輩と同じことを俺にしてるんだぞ」

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