第18歩『いつもと違う家の中』
お風呂に入ろうとしたら美野里さんに遭遇する───なんていうお約束展開はまったくなく(もしそんなことが起これば今よりも気まずくなるから、全力で回避するけど)いつもよりも賑やかな夕飯を終え、俺は今自室のベッドで寝転がっている。
現状、雪の様子は昨日のこと何てなかったかのようにいつも通りで、美野里さんは俺の両親の前でも三森さんとして立ち回っている。
「あの感じだと、俺と会ったことは話してなさそうだな」
別に話されて困る内容は......いくつか恥ずかしいのが思いつくが、会ったこと自体を隠す必要はないと思うが、美野里さんが隠しているのならそれを尊重してあげないといけない。
「ねぇ、お兄ちゃん」
いつから俺の部屋の前にいたのか分からないが、足音もノックもせずに雪が俺の部屋に入って来た。兄の部屋だとしてもノックぐらいはして欲しい、男の子は一人で部屋にいるとき何してるか分からないんだぞ。
「どうしたんだ?」
「昨日は.....その、ごめん!私、むきになっちゃって」
表にはあまり出していなかったが、雪は昨日の件を反省していたらしい。俺は怒っていたわけでもないし、むしろ早く仲直りしたいと思っていたので素直に切り出してくれたのは嬉しい。
「俺の方こそ頼りない兄でごめん......」
「そんなことないよ!」
雪の言葉の強さに驚いたものの、すぐに彼女に笑顔を向けてやる。それに安心したのか、彼女もニコッと可愛い笑みを浮かべて、俺に背を向ける。
「美野里ちゃんが待ってるから戻るね!!」
───本名言っちゃってるし。
安堵からか、おそらく雪から始めたであろう偽名を自身で本名を暴露してしまう。
まぁ、でも隠したいのは苗字の方だろうから問題はないとは思うけど。
「あぁ、おやすみ」
「うん、おやすみ!お兄ちゃん」
そのことに関しては一切触れずに俺の部屋を去っていった。
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~雪 視点~
お兄ちゃんにちゃんと謝ることが出来た私は思わず顔がにやけてしまう。
──よかった......けど、気を抜かないようにしないと。
美野里ちゃんが木下陣の妹だと知れば、お兄ちゃんは紗代さんに関して色々聞くだろう。そして、美喜多さんの話と違う情報を聞いた場合、脳がパニックを起こして誰の話も信じなくなってしまうかもしれない。
美喜多さんが紗代さんに言われたことが、まったくの嘘で紗代さんの意思で木下陣と付き合っていることを証明できる手だ私にはない。
いや、あることにはあるが確証はもてない。
──木下陣をボコボコにするのは簡単なんだけど......。
美野里ちゃんを襲った証拠がない。いや、もしかしたらあるかもしれないが本気で助かる気のない美野里ちゃんからそれについて聞き出すことは不可能だ。そんな状態で、彼を殴れば私だけではなく私の家族にまで迷惑を掛けてしまう。
──美野里ちゃんの覚悟しだいか......。
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雪が去ってから暫く経ち、彼女とのわだかまりが無くなった俺は安堵からか睡魔が襲ってきていた。
すると、そんな俺の睡魔を払うように扉をノックする音がする。雪なら、そのまま入ってくるだろうから親が来たのかもしれない。
──でも、もう二人とも寝てる時間だよな?
俺は、ノックだけされて開かない扉に違和感を覚えながら、ドアノブに手をかけて回す。すると、そこには消去法で導いてはいたがそれでも意外な人物が立っていた。
「すみません、お兄さん。少しだけ.....お話がしたくて」




