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第一話 『とある日の話』

 今日は2年生に進級して、初めての委員会活動の日だ。


 楽そう――という理由だけで選んだのはいいが、想定を超える暇さによって若干選んだことを後悔していた。


 昼休みの間に来る生徒は疎らで、放課後も部活に励むか帰宅する生徒が殆どなので図書館に残って勉強するとか、本を借りていく人は少ない。


 今日はそんな生徒はおらず、図書室に立ち寄る生徒は一人もいなかった。

 そのため、図書室内は静寂で包まれていて、聞こえる音と言えば運動場で活動している運動部の声と、隣にいるもう一人の図書委員の女子生徒が本のページを捲る音だけが俺の耳に届いている。


 女子生徒と二人きりの空間というだけで緊張するのに、会話もないなんて気まずすぎる。

 

 俺は気を紛れさすために席を立ち受付を離れて、本棚の整頓をすることにした。ついでに、この暇な時間を潰せる漫画本を探してみる。

 

 あちこち探してみたが残念ながら目を引くようなものはなく、適当にページを開けば活字だらえの堅苦しい本か、辞典や図鑑が殆どだった。


 図鑑を読んでたら少しは時間が潰せるか?なんて考えていると――


「暇なら、帰ってもらって結構ですよ?」


 この場には俺と彼女以外いないのだから視線を向けなくても声の主はわかっていたのだが、礼儀として声のする方向に視線を向けると、先ほどまでと変わらず視線を手元の本に向けたまま、口を開くもう一人の図書委員。

 

「い、いやでも、一応委員会だし」

「どうせ誰も来ませんし、やることもないですよ。なら私一人でも問題はないです。  

 あ、それと、委員会の仕事に責任感をお持ちなら、暇つぶしに漫画本を探すのはどうかと思いますよ?」


 正論を食らうが、なんとなくここで引き下がるのが癪だったので、何も持たず受け付けに戻り、椅子に座る。


「帰らないんですか?」

「どうせ、後20分くらいだしな」

「時間の無駄だと思いますよ?」

「有意義――とは言わないけど居心地はいいから気にしないさ」


 嘘です。強がり言いました。すっっっごく緊張してます!!


 よくも知らない、しかも地味めに見えるが整った容姿をしている女子生徒と話すなんてレベルが高すぎるって!


「じゃあ、俺と話さない?」

「は?」


 いやいやいや、どうしたんだ俺?!緊張しすぎてナンパみたいな発言しちゃってるよ?!


「そ、そのほうが時間を有意義に過ごせるかなって......思ったんです」

「残念ですが、私はあなたと話すことを有意義だとは感じません。寧ろ不快です」

「うぐっ――いや、これからも一緒に仕事をする仲なんだし、少しくらい」

「必要ないです」


 何この人――人見知りの心を傷つけて、より人との関りを困難にさせてやろうという魂胆か?もしそうだとしたら大成功だよ!ちくしょう!


「というか、こんなところでナンパとかやめてもらえますか?峰山くん」

「違うからっ!――って俺の名前」

「同じ当番の人の名前くらい把握しています。でないと、あなたが問題行動を起こしたときに先生に報告する際、面倒ですから」

「さらっと酷いな!」

「まぁ、それでなくても、同じクラスの生徒の苗字くらい覚えていますよ」

「凄いな、俺は半分でも怪しいのに」

「私やあなたのような友達の少ない人間は嫌われやすいので、名前くらいは覚えておかないとトラブルの元ですよ」

「そうなのか?」

「ええ、そういうものですよ。――さてあなたの社会勉強が終わったところで、会話はここまでです。もう話しかけないでください」

「なんで?!」

「あなたとあまり話したくないので」

「もしかしてだけど俺のこと嫌い?」

「勘違いしないでください」


 ま、まさかこのセリフは、ツンデr


「私は男性が嫌いなので、あなただけを嫌っているわけではないですよ」

「なにそのフォローにも暴言にもなっていない、言葉?!」

「はぁ、もういいですか?あなたと話していると疲れますので」


 そういうと彼女は読書の世界に戻ってしまった。

 俺は特に会話の話題が見つからず、しかしすることもなく、仕方なしにスマホを取り出した。

 すると、画面には雪からのメッセージが届いていた。


『いや、お兄ちゃんきも』


 俺は急いで、図書室の出入り口に向かい扉を開け放つ。

 そして周辺を見渡すが、誰もいない、しかしメッセージの内容からして俺の醜態を見られたのは確実。

 帰りにお菓子を買って行こう、そして忘れさせよう。


「あなた、もしかして痛い人ですか?敵の攻撃が来たとか言い出すんですか?」

「違うわ!」


 必死に弁明をしていると、俺たちの帰宅兼部活動の終了時間を知らせるチャイムが校内に鳴り響く。


「よし、ちゃちゃっと戸締りして帰るか」

「鍵は私が返しておくのでどうぞお帰りください」

「それは優しさなのか?それとも俺といたくないという意思表示なのか?」

「ご想像にお任せします」

「せめて否定してくれ」


 結局、文句を言われながら一緒に鍵を返しに職員室に行った。

 鍵を返すと、さすがに「一緒に帰ろ」なんて言えるわけもなく、別々に帰宅した。


 俺は帰宅しながら考えていた。

 

『私は男性が嫌い』


 そう、彼女は言っていた。

 しかし、俺と話をしている彼女を見ているとてもそんな風には見えなかった。

 本当に嫌いなら、俺とあれだけ会話をすることはなかっただろう。


 あれは、冗談だったのだろうか。

 

「ってか、俺めっちゃ女子と喋っちゃった」


考えても仕方のないことを吹き飛ばし、俺にとってのイレギュラーな事実に向き合う。

 そして、思い出す。


「あ、雪のご機嫌取って口封じをしないと」


 でないと、今晩の食卓は俺の話題で持ちきりになる。

 仕方なしに、コンビニに寄って雪の好物を買っていくことにした。

 

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