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第9歩 『覚悟』

「お兄ちゃん、もうやめようよ。逃げても目を背けても何も解決しないよ」

「逃げてなんか―――」

「逃げてるよ」


 俺の否定を遮り、確信に満ちた眼差しを俺に向けてくる雪。


「分かってるんでしょ?クラス全員は難しくても大半は味方に付ける方法があること。でも、それをすると紗代さんが傷つくかもしれないって思ってる」

「......」

「自分のことを裏切った他人の心配なんてする必要ないじゃん!それに最初に嘘を吐いたのはあっちで、お兄ちゃんはそれを訂正するだけ。それで紗代さんが傷ついてもそれは仕方のないことなんだよ!」

「......分かってる、でも俺にはできない」

 

 雪はため息を一つ吐くと真剣な眼差し俺に向けてくる。


「紗代さんのことをまだ好きだから、だから傷つけたくないんでしょ?」


 俺は無言で頷く。


「その一方で紗代さんに騙されている今の彼氏を自分と同じ思いをさせてしまう前に助けてあげたい、そう思ってない?」

「本物かもしれないだろ」


 雪が首を横に振る。


「もし、あの彼氏が本物ならもっと早くにお兄ちゃんと別れてるはずだよ」

「......じゃあ、別れを切り出したことで俺との関係が気付かれるのが嫌だったとか」

「それも違う。それだったら今の彼氏と付き合う前にお兄ちゃんと別れてるよ。今回の紗代さんの行動で一番謎なのは二股をしていたことを周囲にばらしていること」

「それは、俺をストーカーにしたてあげることで違和感をなくせてるじゃないか」

「それは、一部の盲目なファンだけね。普通の人は『彼氏に頼んで追い払えばよかったじゃん』とか『付き合わなくてもクラスの男子にでも頼んで懲らしめればよかったじゃん』とかって疑問に思うよ」

「.......」

「全部、気づいてるんでしょ?」

 

 何故雪はこれほどまでに俺の思考や感情に対して自分のことのように語れるのだろうか?兄妹の絆のなせる技なのだろうか、それとも


「......はぁ――――お前はエスパーか」

「お兄ちゃん限定のね!」


 自信満々な笑みを見せる雪に対して、思わず諦めた表情を向けてしまう。彼女には俺の取り繕った言葉は一切通じない。それが分かってしまったんだ。


「逃げるなよ、お兄ちゃん」


 自分が我慢していれば、紗代には何も迷惑が掛からない。しかし、俺が否定をしなければ虚言が事実になり、雪や家族、美喜多さんや冴島にも迷惑をかけてしまうかもしれない。

 

「ふふっ、お兄ちゃ~ん」

「なんだね、妹よ」

「お兄ちゃんはどうしたいの?」


 その質問に対する俺の回答を彼女はわかっていて、それでも俺が言うことでそれは本当の言葉になるんだろう。


「紗代の虚言を何としてでも止めたい。例え紗代が傷つくことになっても」


 今は紗代よりも大事な人たちを守りたい。俺が傷ついていることを知り、支えようとしてくれている優しい友人と妹を。


「よく言えました」


 雪は自分のスマホの画面を俺に向けてくる。

 

「なんだ、忘れてたのかと思った」

「そんなわけないでしょ、まったく」

「ありがとう。待っててくれたんだな、俺の覚悟が決まるのを」


 俺は自分のスマホを机の上から拾い上げると、冴島にメッセージを送る。


『紗代を除いたクラスの女子を集めて会話グループを作ってくれないか?』


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