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勇者パーティーを追放された転生テイマーの私が、なぜかこの国の王子様をテイムしてるんですけど!  作者: 柚子猫


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82.追放テイマーと追放女神

 胸に手を当てて、ぎゅっと両手を握りしめる。

 

 ……大丈夫

 ……わかる。伝わってるよ。


 みんなとつながってる温かい気持ち。 


 ――だって。


 私は調教師(テイマー)なんだから!!



 契約した使役獣の感情がわかるのは、調教師(テイマー)の大事なスキルの一つ。

 使役獣を操るっていうのは、ゲームや小説とかなり違ってて。

 動物を自由に操れるわけじゃないんだよね。


 すごく簡単にいうと。

 相手の気持ちを理解しながら、こっちの希望をお願いする感じ。

 まぁ、当り前だよね。お違い生き物なんだし。


 お互いの信頼関係で成り立つ職業。

 

 ……。

 

 …………。


 だけど。

 だけど。

 うん、すごく温かい気持ちなんだけど。


 こんな風に一方的に感情が流れ込んでくるスキルじゃないんだけど!!

 聞いてる私が恥ずかしいレベルなんですけど!!

 

『ショコラちゃん、好き。大好き! 心から愛してます』

『ショコラ……国や王位を捨てたとしても……君のそばに……』

『マイヒロイン。この世界を君と一緒にいつまでも……』


 うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。

 どうしよう。


 罰ゲーム?

 なにかの罰ゲームなの?


「……水沢さん、どうしたの? 真っ赤な顔をしてますよ?」

「め、女神エリエル様。私ちゃんと覚えてます、忘れてなんていません」

「……ウソ? あはは、まさか異世界がある、なんて言いませんよね?」

 

 私は大きく深呼吸して、大きな声ではっきり答えた。 


「あります。だって私、そこでちゃんと生活してましたから!!」



**********


 校長先生……ううん、エリエル様は、私の言葉に驚いたような表情をする。

 

「そう……魔法を破ったのね、水沢さん。それじゃあ……仕方ないわね」


 彼女は大きなため息をつくと、少しづつ距離をつめてきた。

 さっきの記憶を閉じ込める魔法は……女神の力。

 

 今度はどんな魔法を……。

   

 ぎゅっと身構えた次の瞬間。

 女神様は、泣きそうな顔で私にしがみついてきた。


「えー。なんでよぉ。予定と全然ちがうじゃない!」

「予定ってなんです!」

「だってだって。こんなに一瞬で記憶が戻るとか、聞いてないんですけど!」


 涙で服の袖が濡れている。

 あー。

 やっぱり……私の知ってるエリエル様だ。

 

「しばらくこっちの世界で過ごして、何かをきっかけに思い出すのが定番なのに!」

「知りませんよ! っていうか、なんですか定番って!」

「どうしよおぉぉ、ねぇ、私どうしたらいいのぉ?」


 どうしたらって。

 私が聞きたいんですけど、それ。


「エリエル様、なんで私、いきなり前世に戻ったんですか?」

「ぐすぐす。それはあれ。例の女神の試練ってやつよ」

「試練?」

「そう。転生前の世界にもどった勇者が、異世界を思い出すっていう……よくあるやつよね!」


 確かに、ラノベで読んだことある気もするけど。

 よくあるのかなぁ……。


「せっかく、せっかく。ショコラちゃんのコンサートを我慢して準備を進めでだのにぃぃぃ」

「準備って?」


 エリエル様は顔を上げると、涙目でうったえてくる。


「例えばぁ。偶然、宅急便の黒猫マークを見て思い出すように、宅急便をたくさん依頼したり……」

「うわぁ……すごく迷惑……」


「商店街で乗馬体験が当たって……黒馬に乗馬するイベントがあったりぃ……」

「それは、ちょっと楽しそう」


「あとあと、謎の金髪好青年が転校してくるイベントも……」

「なにそれ!?」


「なのになのに。なんでこんなにあっさり思い出しちゃうのよぉぉぉ」

「なんでって言われても……」


 だって。

 今この瞬間も、みんなの感情が流れ込んできてるんだから。

 

 ……。

 というか。


 本当にこれ、聞いてて恥ずかしすぎる。


 どうしよう、何かの呪いみたい。


「ねぇぇ、ショコラちゃん。しばらく異世界忘れたふりしてもらってもいい? ねぇ、いい?」


 エリエル様は、再び私に抱きついてきた。


「え、エリエル様?」

「これバレたら、私今度こそ天界追放されちゃうから。ホント、ピンチだからぁぁ!!」


 頬をすりよせてくるから、私の頬も涙で濡れる。


「ちょ、ちょっと。わかりました。ふりをすればいいですね?」

「そう。あとで思い出したって感じで!」


 女神も……なんだか大変なんだなぁ。

 私は抱きつかれたまま、うなずいた。


「ありがとう! さすがショコラちゃんね。先輩として全力でフォローするからね!」

「先輩って?」

「いいのいいの、こっちの話よ。じゃぁ、さっそくだけど、何か困ってることある?」


 エリエル様は、指で涙をふくと、可愛らしく微笑んだ。


 困ってることっていったら。

 今緊急でなんとかしなくちゃいけないことが……。


「エリエル様、調教師(テイマー)のスキルが暴走してるみたいで……感情が流れ込んでくるんです」

「あー。そんなの簡単よ超天才女神、エリエル様に任せてよね!」


 彼女が小さく指で丸を描くと、周囲が光で包まれた。


「どう? これで静かになったでしょ?」


 ホントだ。

 さっきまで内側から聞こえてきた声が静かに……。


『ショコラ。もし元の世界にもどっていたとしても。必ず君を見つけ出すよ』

『マイヒロイン、ショコラ。もう、君のいない魔界なんて……考えられない』


 ……。


 ……あれ?


「サービスで、王子と魔王の感情だけ残しておいたわ。どう? 嬉しいでしょ?」


 エリエル様はいたずらっぽい顔でニヤッとわらっている。


 もう。

 もうもうもう!!!


「いいから、二人の感情も、早くなんとかしてください!!」


 私は両手で頬を押さえてその場にうずくまった。


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