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勇者パーティーを追放された転生テイマーの私が、なぜかこの国の王子様をテイムしてるんですけど!  作者: 柚子猫


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44.追放テイマーと雲の上の世界

 私と女神様がいる場所は、地面はふわふわとした雲のような白い絨毯。

 見上げるとどこまでも青い空間が広がっている。


 夢の中っていってたけど、ここはまるで。

 まるで絵本のお空の上にいるみたい。


 私ってそんなに乙女チックだったんだ。


「ショコラさんは、どこまで転生前の私との会話を覚えてますか?」


 女神エリエル様は、美しい金色の髪をなびかせながら微笑んだ。

 うわぁ。同性の私でも魅了されそうなくらい、可愛らしい笑顔。

 そ、そんな顔されても、許さないんだから!


「女神様。私、ルーレットが『?』にとまった後、全力で拒否しましたよね?」

「そこは、別に覚えてなくてもいいんですけどねー」



**********


 転生する前に能力を選ぶルーレットで、『?』だけは怪しかったから、自分で選ぶって宣言したのに。

 ルーレットはその瞬間に狙ったようにピタッと停止して、その瞬間頭上にくす玉が出現した。


『おめでとうございます。スペシャルマスに止まりました! さぁ、くす玉のひもを引いてください』 


 ……。


 …………。


 女神エリエル様は、満面の笑顔で私に近づいてくる。


 ひかなきゃよかったよぉ。

 なんでひいちゃったのよ、私。


 くす玉が割れて、紙吹雪と一緒に出てきた垂れ幕に大きく書かれていたのは、『勇者』の文字。


「勇者ですよ! 今ここに勇者が誕生しました!」



**********

   

「……ショコラさん、聞いてますか? なんで遠い目をしてるですかぁ?」

「……ちょっといろいろ思い出してました」


「スキルは女神の神秘的な力で選んだので、拒否とかないんですよ?」

「神秘的って、ルーレットで決めただけじゃないですか!」

「ですから、そのルーレットが神秘的な力なんですってば!」


 女神さまは嬉しそうにルーレットの裏返す。

 そこには、『スーパー女神エリエル作 転生者の職業きめちゃうぞルーレット』と書かれていた。


「ね?」

「いや全然わからないです! なにがね、なんですかぁ!」

「この転生者を導く、天才スーパー女神エリエルが公正にアナタを勇者として選んだのです!」

「いや、選んだのですっていわれても!」


 なんでそんなに自慢げなのよ!


「なんで嫌がるんですかぁ? 『勇者』って世界にただ一人、特別な職業なんですよ?」

「……だから嫌なんですけど」

「いいですか! 勇者は人間側の代表なんです! 魔族に対抗して戦う宿命なのです!」

「なのですって言われても。私、普通でいいんですってば!」


「美しく麗しい女神の言葉を常に聞いて、共に戦う。ああ、なんてすばらしいのでしょう!」


 エステル様は、うっとりとした表情で私を見つめている。

 なんだろう。

 怪しい感じなんだけど。


 ――あれ? でも待って。  


「女神様。私、調教スキル使えますよ? それって勇者じゃなくて調教師(テイマー )ってことですよね?」

「ああ、それはですね。転生時に強くご希望されてましたので、おまけで差し上げました」

「……あの?」

「女神のサプライズ勇者特典です!」


 女神さまは片目をつむってウィンクしてくる。


 え。


 ……おまけ?

 ……おまけであの能力なの?


「さぁ、勇者とおまけスキルの能力で、魔族と魔王に対抗するのです!」


 片手を差し出して、かっこよくポーズを決める女神エリエル様。


「……テイムしちゃいましたけど」

「はい?」

「……だからですね。テイムしちゃいました」

「うふふ、なにを、ですか?」


「……魔王です」


 女神様の可愛らしい顔が凍り付く。


「……ウソですよね?」

「ウソであってほしかったです」


 うわぁ。

 エリエル様の大きな瞳がうるんでるんですけど。

 もしかして、女神様でも想定外の事態なの?


「ウソ、こんなこと初めて……うわぁぁこれどうすればいいの!」

「め、女神様?」

「ショコラちゃんがおもいっきりタイプだったから、ついスキルあげちゃっただけなのに!」


 エリエル様は、すごく取り乱して私に抱きついてきた。

 さっき勇者特典って言ってませんでした?


「せっかく可愛い子が勇者になったから、一緒にイチャイチャしたかっただけなのに!」

「え?」

「どうしよう、まさかの事態なんですけど!」


 ――今とんでもないこと言いませんでした?

 ――言いましたよね?



**********


 女神様は涙を流しながら私を見上げている。

 もう、泣きたいのは私なんだけどなぁ。


「ねぇ、ショコラちゃん。私どうしたらいい! どうしたらいいの!!」

「エリエル様、落ち着いてください! 神様の神秘的な力とかないんですか?」 

 

 女神エリエル様は、ハッとした表情をすると思い出したように両手を広げた。

 手の平にどんどん光が集まっていく。


「そうよ、神様! 他の神様に聞けばいいのよね!」


 光の中から出現したのは、平たい板のようなもの。

 えーと、前世使ってたアレにそっくりなんだけど、まさか。


「女神様、それって……なんですか?」

「スマホよ、スマホ。ショコラちゃんの前の世界にもあったでしょ?」

「な、なんで女神様がスマホなんて持ってるんですか!」

「失礼ね。神様が先に使ってたのを、人間が真似したのよ!」

「そうなんですか?」

「まぁ、見てなさいって! えーと」


 女神さまは、スマホを慣れた手で操作していく。

 私は横から画面をのぞき込んだ。


「これは?」

「今起きたことを世界中の神様に発信出来る、『神ッター』っていうものよ!」

「カミッター?」

「まぁ、あれよ。見ててね」


 エリエル様は、スマホの画面に文字を打ちこんでいく。


『転生勇者に別のスキルあげたら、魔王テイムしちゃったんですけど!?』


「なにこれ?」

「ふふん。これで、世界中の神様が反応してくれるはずよ!」


 カミッタ―ってラインとかツイッターみたいなものなの?


「ほら、さっそくきたわよ」


 スマホの画面には、次々と文字が表示されていく。


『ウケるんですけど。さすがエリエルよね』

『なしよりのなしだわ』

『どうせ好みの子の気を引きたかったんじゃない? かわいそう、その子~』


「……」

「エ、エリエル様?」

「だ、大丈夫よ。神様っていっぱいいるの。中にはきっと素敵な回答が!」


『魔王をテイムとか。ホントだったらその世界終わってない?』

『そもそも、勇者はスキル二つももてないわよ。デマおつ』   


「なぁんで、こんな回答しかこないのよぉぉ!」


 エリエル様、完全に涙目になってる。

 スマホを握る手が震えてるんですけど。


 女神様は再び、カミッタ―に文字を入力していく。


『あげれたんだってば! それでホントに勇者が魔王をテイムしたの!』

『あのさ、スキルがホントだとしてもアンタが導けば止めれたでしょ?』

『何故か、私の声が届かなかったんだってば!』


『ねぇ、女神長がさ、今このツイみて怒ってるよ?』

『エリエル。そこの世界の管理者替えるらしいよ?』


「はぁ? 私がこの世界をここまで育てたんだから! 好みの子が勇者なんだし、絶対替わらないわよ!」


 うわぁ。

 これ炎上案件っていうやつじゃないかな?


 エリエル様は、手に持っていたスマホを空高く放り投げた。


「えーと、エリエル様。これ大丈夫ですか?」

「この作戦は失敗だったわ。こ、こうなったら。直接、女神長に訴えてくるわ!」


 女神エリエル様は、大きな声で宣言すると、白い翼を羽ばたかせて舞い上がった。


「ショコラちゃんは、それまで何もしないでくださいね! 約束ですよー!」



 次の瞬間。目の前に見慣れた天井が現れた。


 あはは。

 夢ね、そうだよね。


 ふぅ、なんでこんな変な夢見たのかなぁ。

 どうせなら、ベリル王子との甘い夢でもよかったのに。

 雲の上で二人でゆっくりデートとか。


 ……って、何考えてるのよ、私!

 ……今のは無し! 無しだから!


 すぐ横では、ダリアちゃんが可愛らしい寝息をたてている。

 可愛いなぁ。


 今何時かな、まだ外は暗いみたいだけど。


 時計を見るために身体を起こそうとすると、ゴトンと大きな音がした。


 何か今、ベッドから何か落ちた音がしたけど、なんだろう?

 目をこすりながら、ゆっくりとベッドから降りて、床の上を確認すると。



 夢で見た聖剣が、床に転がっていた。


 ……ウソ。なにこれ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 女神様、最高ですね! なんか痛い子にもみえますが、そこがいい!(笑) ショコラとの言い合いもその性格がマッチしていて、読んでいて楽しかったし、面白かったです。 (再三、今まで心の中で思っ…
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