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12.動物たちは相談したい

<<ベリル王子目線>>


 ある日の厩舎の中。

 僕は朝食前に、動物の先輩たちに呼び出されていた。


 厩舎の中は、中央が広い通路になっていて、そこから個別の部屋に分かれている。

 床には、すべて緑色のふかふかな絨毯が敷かれていた。

 各部屋に暖を取るための魔法の石が置いてあるみたいで、ほのかに温かい。


「おう。よく来たな、まぁ座ってくれ」


 ナイトメアのチョコくんが、ひづめで部屋のひとつを指さした。

 部屋には大きなクッションがいくつか置かれている。


 うーん。

 なんだろう、この不思議な光景は。

 普通さ、動物の小屋っていたら藁とかが敷き詰められてるんじゃない?


 あの子……もしかして、これが普通だと思ってるのかな?

 ありえる……。

 ありえるから怖い。


「うふふ、安心して。いきなり食べたりはしないから」

「あはは、それはありがたいな」


 雪狼のアイスちゃんは、僕の匂いを嗅いだ後、クッションの上で丸まった。


「まぁ、同じご主人様に仕えるもの同士。今日はゆっくり話し合うのじゃ」


 フェニックスのイチゴちゃんは、既に部屋で優雅に羽根を伸ばしていた。

 

 ふむ。

 どうやら敵対的な呼び出しではなさそうだね。



「それで、先輩方。今日はなぜ呼び出されたんでしたっけ?」


「それなのだがな……」

「あら、チョコ。男らしく伝えるんじゃなかったの?」

「妾が伝えてもよいのじゃぞ?」


 なにやら三匹……いや、一頭と一匹と一羽で話している。


「そのなんだ、お主は、人間の言葉も、我々の言葉もわかるのだろう?」

「ええ、それはもうわかりますとも」


「王子という立場だ。勇者のこともよく知ってるのだろう?」

「まぁ、多少は知っていますね」


「我々の正体も気づいているな?」

「ああ。ナイトメアと、雪狼、フェニックスだよね?」


「つまり、そういうことだ……」

「え?」


 いやいや。

 ナイトメアは自信満々に首を高くあげているんだけど、まったく理解できないぞ?


「チョコくん。今のはどういう意味ですか?」


「あら、意外と鈍いみたいよ、この王子」

「今のでわからんとは、不思議なやつじゃ」


 ちょっとまってくれ。

 今のでわかる人間なんてホントにいるのか?


 僕の表情を見た三匹……いや、一頭と一匹と一羽は、深いため息をついた。


「だからな。ウチのご主人様は、今の勇者を勇者と信じ込んでおるだろ?」

「勇者を勇者と信じ込んでいる?」

「そうだ……」


 どういうことだ?

 まるで……勇者が本物でないような言い方に聞こえるぞ。


「だからだ。その夢を壊さんでほしいのだ」

「ショコラちゃんをね、悲しませたくないのよ」

「いつかは気づくじゃろうから、それまで待っていて欲しいのじゃ」


 ――今の勇者が偽物? 


 いや……そんなはずはない。


 十六年前に、世界中の聖職者が、勇者の出現を預言した。

 そして。

 彼は予言に約束された日に王都に現れて、王国に伝わる伝説の聖剣の光をよみがえらせたのだ。

 

 魔王を葬るための聖剣は、勇者が近くにいなければ発動しない。

 彼が勇者であることの、ゆるぎない証拠だ。


「いや、先輩たちがどうして勇者を疑ってるのかわからないけど。聖剣にえらばれた彼は、間違いなく勇者ですよ?」


 彼らは顔を見合わせると、再び大きなため息をついた。


「まぁ、そういうことなら良いだろう。今の話は忘れてくれ!」

「そうよ。彼が勇者ってことで良いと思うわ」

「人間とは不思議な生き物じゃのう……」


 ……どういうことなんだ。

 ……僕たちはなにか間違えているのか?


「とにかくさ、勇者の話をしなければいいんだよね? 僕も彼女の悲しむ顔を見たくないから」


 はっ、しまった。

 再会した時の彼女の寂しそうな顔を思い出して、おもわず余計なことを口に出してしまった。

 

 あわてて口をふさいだけど……もう遅いらしい。

 彼らの僕を見る瞳が、なんだかさっきより温かく感じる。


「ほう、なるほどな。勇者などよりは……はるかに良いかもしれん」


 チョコくんが近づいてくると、頭をすりよせてくる。


「そうね。よく考えてみたら、優良物件かもしれないわ」

「うむ。よかったら、妾たちが応援してやるのじゃ!」


 アイスちゃんは足もとにすりよってきて、イチゴちゃんは肩の上にのってきた。


「ご主人様は案外鈍いからな、思い切って正面から告白するのがいいんじゃないか?」

「そうかしら? ショコラちゃん照れ屋さんだから。もっとムードを大切にしてあげないと」

「妾は、美味しいご飯を一緒に食べにいくのが良いと思うのじゃ!」


 僕をとりかこんで、恋愛会議をはじめた。


「男は当たって砕けるくらいで良いと思うんだが、王子はどう思う?」

「ううん、まずショコラちゃんの気持ちに寄り添ってあげるのよ、王子?」

「そんなことより、楽しいことを一緒にやっていれば仲良くなれるのじゃぞ、王子よ?」


 応援してくれるのは嬉しいけど。

 こればかりは、ね。


 僕は大きな声で先輩たちに宣言した。


「いつか、自分の力で彼女を振り向かせてみせますよ」


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