1.追放テイマーは赤いドラゴンと出会う
「あの……勇者様……。今何って言ったんですか?」
「聞こえなかったの、ショコラ? 君はもういらないんだ。勇者パーティーから抜けてもらうよ」
勇者様の冷たい言葉が響く。
「なんで! 私だって勇者様のお役に!」
「お役に? あはは、立てないだろ。所詮テイマーなんだからさ」
彼の言葉に言い返すことが出来なかった。
今までに見たことがない、冷めた表情。
あんなに……あんなに優しい目で私を見つめてくれていたのに。
なんで!
どうしてなの!
「あのさ、勘違いしてもらっちゃこまるんだけどさ」
呆然と立ちつくす私に、勇者様がゆっくりと近づいてきた。
表情が、雰囲気が。すごく……怖い。
あんなに、彼のことが大好きだったはずなのに……。
おもわず後ずさりする。
「君をパーティーに入れたのは、可愛かったから。それだけだよ。マスコットみたいなものかな?」
「……マスコット? そんな……」
「可愛いんだけどさ……なにもさせてくれないじゃん?」
勇者様の顔が近づいてくる。
やめて!
こないで!
――次の瞬間。
強い光が差し込んできて。
私はいつものように目を覚ました。
**********
「またあの夢か……」
見慣れた天井が見えて、大きくため息をついた。
ベッドから身体を起こすと、頬の涙をぬぐう。
もうすっかり陽は昇ってるみたいで、窓から飛び込んでくる日差しが眩しい。
あれから、もう一か月もたってるのに、情けないなぁ。
窓を開けると、小鳥の鳴き声とさわやかな草の匂いが部屋に流れ込んできた。
髪がゆっくり風になびいて、すごく気持ちいい。
ここは、私の生まれ故郷の小さな村。
勇者パーティーから追放された私は、それまでに稼いだわずかなお金で、村の外れに建っている小さな家を借りた。
一応、世間的には円満脱退? みたいなことになってるけど。
今更、実家に帰るのは恥ずかしいから。
ふと鏡に映る自分の姿が目に入った。
薄いピンク色のサラサラとした髪。
大きな水色の瞳。
ちょっと幼くも見える可愛らしい顔。
すこしおすましポーズでニコッと笑ってみる。
鏡の中の少女も、可愛らしくにっこりと笑った。
勇者様がいうように、カワイイの……かなぁ。
転生してからずっとこの姿だから自分じゃわからないけど。
思わず苦笑してしまう。
もしそうだとしても。
転生した特典って……結局この容姿だけってことになるじゃん。
おかしいな。
私の好きなラノベだったら、転生したらチート能力で無双だったはずなのに。
外から、動物の大きな鳴き声が聞こえてくる。
「いけない! もう時間だよね!」
私は慌てて着替えると、魔法でコンロの火をつけた。
自分の朝食と一緒に、もう一品お肉と野菜を炒めたような料理を作る。
最後に、オムレツのように卵で包んで出来上がり。
これは、私が神様からもらった能力『調教師』の一つ。
美味しいご飯を作る力。
『調教師』のスキルは、大きく二つに分かれていて。
動物を飼いならして自由に使役する能力と。
動物に美味しい食事を作る能力。
ついでに、人間の食事も美味しく作れるみたい。
……。
…………。
ノー!!!
私は思わず頭を抱えて、床に座り込んだ。
神様からもらうスキル、完全に間違ったよぉ。
なんであの時、もっと強そうな能力を選ばなかったのよ。
魔術師とか戦士とか選べばよかったじゃん、私!
なんで自信満々に、調教師とか答えたのよ!
そうしたら……。
勇者様とも別れずに……すんだのかな。
ずきっと胸の奥で大きな音がした気がした。
好きだった……のにな。
あのさわやかな優しい笑顔も、ピアノの音色のような素敵な声も。
全部……ウソだったのかなぁ。
――いいんだ。
――いいんだもん。
その分、動物がいれば寂しくないから。
そうよ、前向きな考え方は大事!!
もう決めたんだから。
私はここで、自由気ままで素敵な異世界生活をすごすんだから。
ようこそ! あこがれのスローライフ!
せっかく転生したんだし、残りの人生楽しく生きよう!
おー!
私は出来立ての料理をお皿に盛ると、家の扉を開けた。
外では、私のテイムした動物たちが、整列してご飯を待っていた。
よし! みんな良い子達。
すぐに美味しいごはんを上げるからね。
見た目は小さいのに力持ちの黒い仔馬の、チョコくん。
白い狼の子供、アイスちゃん。
あと、子犬くらいある大きな赤い鳥、イチゴちゃん。
みんな今日も元気そう。
……あれ?
その隣に見たことない、赤い塊がいるんだけど。
これなんだろう?
全身はまんまるで、頭に金色のとさかみたいなものが付いている。
背中には小さな羽。
胸には、赤いリボンがちょこんとついている。
つぶらな瞳は、まっすぐに私の持っているお皿を見つめていた。
「これ、食べたいの?」
私がたずねると、嬉しそうに尻尾をぱたぱたさせる。
なにその動き。
愛嬌があって、すごくカワイイんですけど!
でも、これどんな生き物なんだろう。
トカゲ?
アザラシ?
うーん?
みたことないんだけど。
「ねぇ、キミ、ウチのコになる?」
あらためてたずねてみると、尻尾を嬉しそうにブンブンふっている。
「それじゃあ、試してみるから、じっとしててね」
私は、ゆっくりと調教するための呪文を唱える。
赤くてまんまるい子の下に魔法陣が輝きだして、その姿を包み込んでいく。
テイム能力っていっても、術者と動物の相性が合わないと調教出来ない。
成功率は……うーん。十回やって一回成功すればいいところかな。
失敗したらご飯だけあげよう、うん。
やがて。
魔法の光は収まって。
ちょこんと座っている、まんまるい子のおなかに、大きな魔法陣が描かれていた。
――やった!
――成功した!
周りにいた子たちが、待ちきれずに大きな泣き声をはじめる。
「ごめん、みんな食べていいよ! ほらキミも食べて」
お皿を差し出すと、みんな黙々と食べ始めた。
この瞬間が、テイマーやっててよかったなぁって思うんだよね。
みんな嬉しそう。
さて、この子の名前どうしようかな。