いつでもどこでも短編小説 『マッチ売りの少女』
街角で少女はマッチを売っていた。今日はクリスマス。どこかの家からは楽しそうな話し声とおいしそうなごちそうの匂いがしてきた。しかし少女には一緒にクリスマスを祝う家族もいなければ、今日の夕飯を買うお金すらない。
「マッチはいりませんか。」少女がいくら叫んでも、道行く人々は少女の姿が見えていないかのようにどこか消えていく。少女の喉はかすれ、手はかじかみ、遂に道の隅に座り込んでしまった。
「マッチを一つもらえるかね」と少女に声をかけたのは優しそうな一人の老人だった。
少女は老人が自分に話しかけているのだと気づかなかったが、2,3回呼びかけられてようやく自分に話しかけているのだと気づいて老人のほうを見上げた。
「焚き火でもしよう。せっかくのクリスマスだから。」老人がそう言うと少女は目を輝かせた。
この老人はこのあたりで有力な農家らしく、王様に納めるはずだった布にするための作物がたくさん残っているので燃やしてしまうつもりらしかった。
「おじいさん、サンタクロースみたいだね!」少女の楽しそうな声に老人は黙ってうなずいた。
作物をたくさん持ってきた老人は広場で焚き火を始めた。
するとまもなくどこからともなく暖をとるために大勢の人たちが集まってきた。
木枯らしが煙をまきあげる。みんなは肩を組んで歌い始める。
家の中にいた人も歌声を聞いて広場に集まってきた。
煙は人々の気持ちに合わせてもくもく上がっていく。
ついに人々のテンションは最高潮に。大声をあげて叫ぶ者や感情が高ぶって殴りかかる者まで現れた。
老人は疲れて帰ってしまったのかもう広場にその姿はなかったが、誰もそのようなことは気にせず楽しいクリスマスパーティーはいつまでも続いた。