6 ”友達”のままがいい
オムライスって作るの難しいですよね。
とろふわなんてもっと難しい…
どうしたら上手く作れるんでしょう??
瑠唯くん達を外で見てから数日。私は今、尾崎くんの家に来ている。今日は日曜日。学校が空いてない。でもオーディションが明日に迫っているから練習はしたい。昨日は学校で練習してて明日の練習場所はどうするって言う話になった時に「うちの家族、明日家に居ないから。うちでやればいいじゃん」ということになった。
あの場面に出くわしてから私の生活は結構機械的にしていた。自分で思ってたよりショックみたいでいろんな人に心配された。藍姉と遥には何があったか話した。「ちゃんと話しな」と言われた。でもまだ聞ける勇気がない。
「月宮、どうした?大丈夫か」
「ん、大丈夫」
やばい。このままだったら尾崎くんにも迷惑がかかる。本番は明日なのに…。切り替えしよう。私は頬を両手でたたいて切り替えをする。尾崎くんに驚かれたけど、これが一番切り替えにはいいんだよ。
一回一回の演技を録画して確認しながら明日に向けて準備をする。一つの動作に10分以上かけて、台本に書いてある言葉じゃない言葉を足したり私達らしい梨衣と柊翔を表現する。
私が尾崎くんの家に来て3時間後。朝の8時に集合したからもうお昼の時間になる。
「なあ、月宮。昼飯どうする?」
「うーん、尾崎くんが良ければ私が作ろうか?」
「え、いいの」
「うん、私、お母さんが料理教室の先生だから料理なら自信があるんだ。何か食べたいものある?冷蔵庫見てもいい?」
「うん、冷蔵庫にあるものなんでも使っていいよ。特に食べたいものはないかな」
「それは困るよー」
そんな風に軽く言い合いをしながら冷蔵庫まで案内してもらって中身を確認する。これで作れそうなものは…。
「じゃあ3つ候補出すからどれがいいか選んで。1、オムライス。2、サンドイッチ。3、ナポリタン」
「じゃあ1のオムライス」
「とろふわ派?普通のうすっぺらいやつ派?」
「とろふわ派。出来んの?」
「余裕」
それだけ言って冷蔵庫から材料を取り出してオムライスを作り始める。料理はただただ無心になれるから好きだ。とろふわオムライスは難しいから結構集中力が必要になる。久しぶりだから上手くできるか不安だけどまぁ良いでしょう。ついでだからと付け合せのサラダも作ろうと思い、チキンライスを尾崎くんにお願いしてサラダを作り始める。本当はドレッシングも作れるんだけど今回は割愛。
そうして出来上がったオムライスを2人で食べる。我ながらいい出来だなぁと自画自賛。
「月宮はさ、最近は何かあったのか?」
唐突に話しかけられる。何かあったと言えばあるけども……。
「関係なくても言って見てよ。ほら、演技だとしても恋人同士だし」
そう言う尾崎くんの声は穏やかで私は気づいたら瑠唯くんに告白されたこと、そして好きなったこと、火曜日に瑠唯くんと歩いていた人は誰なのかずっと考えていたことを話していた。尾崎くんは相槌を打ちながら私の話を真剣に聞いてくれていた。
気づいたら話し始めて30分以上経過していた。
「あ、もうこんな時間だね。練習再開しよっか。…………話聞いてくれてありがとね」
「………………だったらさ、俺にしない?」
「ん?何か言った?」
「っつ!…いや、何でもない。さ、練習再開しようか」
本当は聞こえている。けれど今ここで聞こえたことにしても私は瑠唯くんを好きなことには変わりない。私は尾崎くんとはこのままいい友人関係を築いて行きたいと思っている。だからごめんね、尾崎くん。貴方の言葉は聞こえなかったことにさせて。
*********************
その翌日。今日はオーディション本番だ。みんなが張り切っている。オーディションを受けるのは2年生が11組、1年生が2組の計13組だ。やり方はオーディションを受ける人は控室の空き教室で待機。くじを引いた順番に部室でオーディションをを行う。審査員は部長、副部長、顧問の先生2人。そして私達の順番は7番目。真ん中の方で結構いい順番だと思う。この順番を引き当ててくれた尾崎くんに感謝だ。
順番が近づくにつれ、緊張が高まってくる。遥達の順番は2番目で既に終わっている。だからかすごく余裕のある表情をしている。副部長が呼びに来て私と尾崎くんは少し離れた場所にある演劇部の部室に向かう。緊張するけど大丈夫。
私は箕中梨衣。目の前にいるのは彩坂柊翔。
そう自己暗示をかけて部屋の中に入る。部屋の中には審査員がいて独特な空気を醸し出している。ナンバー、自己紹介を簡単にしてから演技を始める。
大丈夫、セリフも覚えている。動きは体が覚えている。練習通りにすれば大丈夫。そう自分を信じて演技を続ける。オーディション台本のラストの所で私は転んでしまった。ああ、やってしまった。どうしよう。そう一人でぐるぐるしていると手が差し伸べられた。
「梨衣、何やってんだよ。ほんっとドジだな。ほら、手」
「あ、ありがと」
「どういたしまして。…………俺の告白、ちゃんと考えて。告白をオッケーするにしてもしないにしてもちゃんと返事はしてほしい」
「う、うん、わかった」
「どうだか。じゃあもうドジすんなよ」
そして部長のカット!という声が聞こえて演技は終了となった。審査員の人達に転んだところは演技なのかと聞かれて違うと答えたら全員に笑われた。唯一尾崎くんは笑ってなかった…いや、肩が震えてる。笑ってるよこの人。転ぶくらい緊張していたけど最期は穏やかに終わった。発表は明日の放課後。今日はこれで解散になる。私達は控室に戻って遥達と合流する。てっきり遥だけだと思っていたけど遥のペアの子もいた。せっかくだし4人で遊びに行こうかという話になってカラオケに行くことにした。その前に遥は一兄へのメッセージは忘れていなかった。抜け目がないですね、遥さん。
*********************
カラオケ、楽しかったなぁ。ペア対抗で点数の勝負をした。3戦して遥ペア2勝私達1勝の私達の負けだった。いや、難しいんだって。ホントに。でもそのおかげで瑠唯くんのこととオーディションのことで気が張っていたから、それが緩んだ気がする。本当は延長してもっと遊びたかったんだけど明日提出の課題があったから解散になった。でもそれなりに遅い時間だったから男子2人が送ってくれるって言ってくれたけど、いつ連絡したのか一兄が来て私達を送ってくれた。遥のペアの男子は面食らった感じだったから多分遥のこと好きだったのかなぁ。遙は2年付き合ってる彼氏いるよ。付き合ってない時間を合わせると10年以上。だから勝ち目はないぞ。ドンマイ。
そんなこんなで家に帰って来た。普通に夕飯を食べて課題を終わらせてゆっくりテレビを見ていると藍姉から話があると言われてテレビを消して藍姉に向き合う。
「結華はさ、いつまで瑠唯くんと話すの伸ばしてんの?」
「だ、だって…」
そう言ってうつむく。どうすればいいかわからない。
「あのね、こればっかりは伸ばし伸ばしにしちゃいけないと思う。私、前に瑠唯くんが他の女と一緒に居たらどう思うっていう話をしたでしょう?それが実際に起きてるんだよ。それでいいの、結華、もやもやしてるでしょ。自分の気持ちに嘘をついちゃダメだよ」
それはわかってる、わかってるんだよ。引き延ばしたら引き延ばしただけ溝は深くなるのもわかってる。逃げちゃダメだってわかってる。そして私は覚悟を決める。
「…………藍姉。私、ちゃんと瑠唯くんに気持ちを伝える。梨衣みたいに。梨衣にはなれないけど少しでも後悔しない選択になるように」
「梨衣…って誰だ?かわかんないけど、その意気やよし!頑張れ!」
「って宣言しておいてなんだけど藍姉、瑠唯くんを呼び出すメッセージなんてすればいいのかわかんないぃ!藍姉様一緒に考えて下さい!」
「はいはい、頑張れ!」
そう藍姉に泣きついて一緒にメッセージを考えてもらった。彼氏持ちのリア充なはずなのにめっちゃ悩んでた。なんでか聞いてみたら今の彼氏が初彼氏で告白も彼氏さんかららしいよ。藍姉は高校のとき結構太ってたんだけどすごく頑張ってダイエットしてもうあの時の原型がわからないくらいになってて。めっちゃ美人さんになりました。彼氏さんはダイエットの時いつも隣で応援してくれた人だったんだって。それ聞いた瞬間に私は結構悶えましたよ、ええ。
いや、そうじゃなくて。なんだかんだでメッセージを考えに考えて送った。内容は今度の日曜日、話したいことがあるから瑠唯くんの家に行っていいかというもの。文章はなんかもう割愛させて頂きますわ。あの日から全然連絡とっていなかったから返信くるか不安だったけど結構早めに返信きたからとりあえず嫌われてはないことにほっとした。
告白の日まで後4日。
今回も拙い作品を読んで下さりありがとうございます!
面白かったよ、なんだかんだで続きが読みたいなどなど思って下さった方はブックマーク、評価して下さると嬉しいです!作者の励みになります(´∀`*)