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東方伝奇ー 平凡な元リーマンが異国のツンデレ暗殺者と紡ぐ絆の物語  作者: 神崎あきら
第1章 異国からの奇妙な客人
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エピソード4 お昼は何にします?

 新宿への電車の中でも男は無言で窓の外を眺めていた。人に揉まれても不快な表情ひとつせずに立っている。長身でロングコート、サングラスという色彩は地味でも目を引く男の風貌は周囲から控えめな好奇の目を集めていた。新宿駅の改札を出れば、相変わらず人が多い。伊織の地元の花火大会で賑わう電車よりも多いのだから、都会にはどうにも慣れない。上京してきた当時は信じられない大量の人の波にもまれ、ペースを全くつかめずによくぶつかりそうになった。いつの間にか都会の人間と同じペースで歩けるようになったが、それでも無理をしていた。


 外国のお客さんがちゃんとついてきているか時々振り返るが、男は一定の距離を保って遅れずついてきていた。中国も都会となれば人が多いだろう。もしかしたら自分の地元よりよほど都会からやってきたのかもしれないと伊織は思った。


 用意されたマンションは新宿駅西口だったはず。徒歩で行けそうだが…。

「しまった、地下鉄駅の出口が近かったなあ」

 スマホのナビで確認すると、JRの駅からでは15分ほど歩くことになってしまうようだった。大きめの荷物もあるし、タクシーにしようかと考えているとそれを遮られた。

「歩くのは構わない」

 男は場所を知ってるような口ぶりだ。すみません、と謝り歩き出そうとしたら腹時計が鳴った。ちょうど昼時だ。この辺りなら飲食店には事欠かない。


「お腹空いてませんか?何か食べます?」

「任せる」

 食べるかどうかを任せるのか、何を食べるのかを任せるのか、伊織は男の意図を汲み取ろうとしたが、自分が腹が減りすぎていたので何か食べることにした。何がいいですか、と聞こうと思ったが多分無言で返され気まずい雰囲気が流れるだけだろう。だんだんパターンが読めてきた。


「うどんにしましょう」

 伊織が指さした先にさぬきうどんの店があった。中華料理やラーメンはお国の食べ物だから選択肢から抜くとして、日本らしい食べ物といえば思いつくのはそばかうどん。伊織は西の出身なので、そばよりうどんのほうが好みだった。うどんやののれんをくぐる。本場のような安さはないが、そこそこ本格的なさぬきうどんを食べさせてくれる店だった。店内はサラリーマンやOLでごったがえしている。うどんは最初に注文し、総菜はセルフで取るシステムだ。大きなキャリケースは席に置いて、伊織を先頭に注文窓口にならんだ。


「えっと、どれがいいですか」

 といっても種類や量がいろいろあるので難しいかもしれない。

「これは何が乗っている?」

 思いがけずメニューを指さして男が尋ねる。

「甘く味付けしたあげです」

「こっちは」

「これは生卵で、それは大根をすりおろした、えっと細かくすったもの」

 一通り説明を聞いたところで、釜揚げうどんが良いという。伊織はなんだか嬉しくなった。あの不愛想な男から質問されたのだ。しかもそこそこ会話のキャッチボールができている。

「お米を食べたいなら、おにぎり、てんぷらは野菜と鶏肉と…」


 伊織の説明を聞いて欲しいものを自分でいくつか選んでいる。一緒に会計を済ませて、男を席に案内した。セルフでお茶を注いできて席についた。

「いただきます」

 男も黙って手を合わせる。腹が空いていた伊織だったが、男が食べ始めるのを待って箸を割った。こういうときには自分がお客さんより先に食べないものだ。男が伊織がうどんと生卵をかきまぜているのをじっと見ている。

「それ、食べるのか」

 伊織は吹きそうになった。

「え、食べますけど…」

 なぜそんなことを聞かれるのかわからなかった。

「中国では生卵は食べない」

「え、ああ、そうなんですか?おいしいですよ」


 間抜けな返事しかできなかったが、なるほど文化の違いということか。生卵を食べる文化がないのだろう。何にも興味が無さそうだったのに、意外にも食で会話ができるとはちょっとは打ち解けたのかなと思った。

「うどん、おいしいですか?」

 男は無言でうどんをすすっている。そのままおにぎり、揚げ物と黙々と食べている。その様子から口に合わないことはなさそうだ。

「これはさぬきうどんといって、日本の西の方、四国の香川県の名物なんです。本場のうどんはもっとシンプルで、ねぎと醤油だけかけて食べるんです。それが本当においしくて何杯でもいけて…」

 思わず口数が多くなっていた。男は伊織が話す間は箸を止めてじっと話を聞いていた

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