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やっぱソースでしょう

 当日亜美奈達は、朝早い内に待ち合わせ場所に着いてみた。

 待ち合わせ場所には、元々亜美奈達が住んでいた家もあるし、皆が自由に使える家もある。レーシングコースや新しい家が建ったせいで、随分雰囲気が変わったが、やはり懐かしい我が家だと感じる。

 初めてここに来た日は、もう高校には関わらないと決めて、三人だけで生きて行くつもりだった。

 けれど今となっては、仲間もたくさん居るし、三葉学園にも気安く立ち寄り、手まで貸している。しかも、それが楽しみになってまでいるのだから、人生って分からない。


「まだみんな、来てないみたいね」

「さすがに、まだ早いです」


 時計を気にする必要の無い生活は、どうしてもルーズになる。朝もノンビリ寝ていられるし、何かを始めようとしても、適当に始めて適当に終わる。

 毎日決まった時間に天使が訪ねて来るから、それでも何とか人間らしい生活を送れているが、それが無かったら、昼過ぎまで寝ていたりしそうな気がするほどだ。


「早く来たのは、食糧の補充をしておこうと思ってなんだ。コピーでも良いんだけど、四国で会った新人さん達にも、カレーライスやラーメンを食べられる様にしてあげたいしね」

「そうね、カレーライスとラーメンが有ると無いとじゃ、心の安定感が違って来るわよね」

「そんなに大切な物です?」

「物凄く大切よ。他の料理は、こっちの食材で再現出来なくも無いけど、ラーメンとカレーライスはかなりハードルが高いわ」

「ハードル? ハードルって、何です?」


 それって、説明が必要なんだ。

 幼児期の『なんで、なんで?』に当たるのだろうが、会話のリズムを壊された感じがして、時々返事に困る。

 勿論アンジェの事は可愛いと思っているし、この世界に無い物をアンジェに知っておいて欲しいなんて事は言えないから、鬱陶しがらず丁寧に説明するのだが。 


「競技の一つで、ハードルって言うゲートの様な形の物を、走りながら飛び越えて行くの」

「競技ですか?」

「競技は沢山有るのよ。車で競走するのも、競技の一つ。他人を傷付けずに、優劣を付ける方法と行ったところかしら?」


 なるほど、とアンジェは頷く。

 天使だからか、アンジェは他人を傷付ける事が嫌いだ。それでもレースをすれば、一番になりたがったりもするから、優劣を付ける事に対し嫌悪することは無いようだ。


「亜美奈と桃子は、ハードル出来るですか?」

「出来ない事は無いけど、私は、スポーツ全般、苦手かな」

「私も。競える様な腕前では無いけど、音楽系。ピアノが得意種目になる、かしら」

「私はイラスト、絵を描いたり、文字と組み合わせたりする系のデザインが、一応得意、になると思う」


 数コマ丈の短い漫画も描いたりしていたが、基本はイラストで、カードを作ったりするのが好きだった。

 こっちに来てからは、落書き程度しか描いてないが、その内余裕が出来たらスキルと合せてグッズを作ったりしてみたい。


「なる程。人によって、得意な物が違うけど一応出来る、ですね」

「アンジェ達は違うの?」

「私達は、生まれた時に役目が決まってるです。その役目に必要でない事は、出来ない様になってるです」


 何だか、コンピューターでも埋め込まれているかの様な言い方に、亜美奈は首を捻った。

 詳しく聞いてみようかとも思ったが、余り良い答えは出て来ないような気がして、口を閉ざした。

 アンジェは、意志を持った人間であり、ロボットでも無いし、コンピューターで動かされているわけでも無い。それは確かなのに、今の言葉で少し不安になった。


「とりあえず、白米が沢山と、カレーとスープの材料が欲しいから、手伝って貰っても良いかな?」

「私は味噌が欲しいわ」

「オレはラーメンかな? たまにはコッテリ系のも食いたいんだけど」


 背後からの声に、思わず飛び上がる三人。驚きに飛び上がるなんて、本当に有るんだと妙な所に感心した亜美奈だった。


「久我くん、脅かさないでよ」


 ヌイグルミには興味無さそうなのに、今日も来たのは、やっぱり桃子が目当てなのだろうが、進展させる気は無さそうなのが、何とも言えない所だ。


「アハハ、悪いわるい。扉の目の前で、楽しそうに話してるから、つい」

「あ、そっかぁ。ここだと邪魔だね」

「まだ早いから、誰も来ないと思っていたわ」


 そう言う亜美奈達も来ているのだから、他にも来たっておかしくは無いのだ。


「せっかく一人増えたんだから、二手に分かれてダンジョン攻略しない?」

「そうね。たしか、味噌はラーメンのダンジョンだったわね」

「うん、味噌ラーメンが出来るように設定したから。あ、でも。こってり系が欲しいなら、豚骨スープと背脂も追加するね」


 ダンジョンは少し広くなってしまうが、追加するのは簡単だ。


「だったら、焼そばも欲しいわ。そろそろソースが恋しいのよねぇ」

「言えてる。あと、ニンニクも。餃子作ってるんだけど、ニンニクが無いから、味が決まらないんだよ」

「餃子を作るなら、ラー油。唐辛子と胡麻が必要かぁ。となると、新しくダンジョン創ったほうが早いね」


 言われてみれば、確かにソースの味が恋しい。忘れていた時は平気だったのに、思い出すとあの香りは中々に暴力的だったと思えるから不思議だ。

 せっかくだから、一回層はソース焼そばの他にたこ焼きの具も設定し、次が餃子に中華風の肉野菜炒め。

 そして最後。豚骨スープに家系ラーメンと肉マン・アンマン。もちろんボスは、中華鍋を被った大ブタでドロップは杏仁豆腐だ。


「皆が来る前に屋台の準備して、縁日やろうぜ」

「じゃあ、屋台造る組と食材集める組に分かれて、準備しましょうよ」

「賛成です!!」

「たこ焼きのプレートは、私が造らないといけないから、鉄工は私がやるね」


 焼きそばのプレートなら、平らで良いから切るだけで済む。けれどたこ焼き用は、レシピから作らなければならないのだ。


「私はカレーのダンジョンに、一人で行ってくるですね」

「じゃ、じゃあ、オレたちで焼きそばダンジョン行って、あとは味噌ラーメンの材料も集めて来ようぜ」

「そうね、皆の分必要と思えば、かなりの量になるものね」

「私もこっちの準備が終わったら、材料集めに合流するよ」


 亜美奈の造るダンジョンは、初心者向けのため一人でも安心だ。いくらアンジェが小さくて、頼り無さそうに見えたとしても。







つづく

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