私達の家
明かりの無い世界は、夜空が以上にキレイだった。
足元に広がるのは、風と波の音だけ。波と言っても亜美奈の知っている押し寄せるあの波じゃなく、静かに渡る音色のような音だった。
海を越えたら森が見え、高台の開けた場所の強い光に近づいた所で家に気付いた。
「はい、到着だよ」
ストンと降ろされたのは、滝の有る泉の前。
その場所の上空に、輝く丸い何かが浮かんでいて、天使はそれを目掛けて飛んでいたのだと今なら判る。
亜美奈を置いた天使は、その光る何か目指して飛び上がる。
「大丈夫だった、亜美奈?」
遅れてやって来た真鈴が、へたり込んでいる亜美奈の顔をのぞき込む。
その後ろには、心菜の姿も有った。
「だいじょばないっ。高し寒いし怖いし、トイレ行きたいしで辛かった。でも、もう着いたから平気」
「トイレはぁ、失敗したよねぇ」
「ちょっと行ったら、下してくれると思ったもんね」
窓から抜け出す為だけに、天使に抱えて貰うだけだと思っていたのだ。
だからトイレは我慢したのに、こんな遠くまで飛んで来てしまったせいで、我慢できないことは無いがちょっと辛い。
「でもぉ、そんなに寒かったかなぁ?」
「部屋の中に居た時の方が、かえって寒かったよね」
心菜と真鈴がそろって首を捻る。
寒中に海の真上を飛んだのに、寒くない訳がないだろうに。
「あ~、悪いっ。それ、俺のせいだ」
「ミケルの?」
亜美奈を抱えて飛んでくれた天使は、名前をミケルと言って亜美菜達三人の担当になったと言っていた。
これからしばらくは、何か有ったらミケルに頼る事になる。
「俺の属性は水と風だから、温めるのとか苦手なんだよ。一応、風が直撃しないようにはしてたんだけど。ラエルやシエルと違って、寒かったかもな」
「属性が有るんだ」
翼がある時点で人間とは言い難いが、さらに属性が有るということは、やはり違う生き物なのかもしれない。
とはいえ、本人が人の一種だと言ってるのだ、否定する必要は無いし否定しては失礼だ。
「まあ、細かい話は明日にして、今夜必要になる部分の使い方だけ説明して、俺たちは帰るよ」
「使い方、ですか?」
普通に考えれば、暖炉やランプの説明だろうが、ここには魔法が有る、らしい。
属性というのだ、魔法に違いない。真鈴と心菜は、その魔法を使って暖かくここまで飛んで来た。
「まず登録をするから、三人とも人差し指を出してくれるかな?」
「判りました」
言われた通り、人差し指を差し出すと『ヒュッ』と音がして指先に血がにじんだ。
鋭い何かで切られたようで、遅れて痛みが湧いてくる。
まるで、紙で切った時のようだと亜美奈は思った。
「ミケル、そういうのは説明してから行うよう、以前から言ってますよね?」
「あ~、そうだった。三人とも、ごめんな。終わったらすぐに治すから」
頭の後ろに手をやって、苦笑いしながら謝罪を言ってくる。
翼は有るし、魔法とか属性とか、良く判らない所も多そうだが、性格的には普通のお兄さんな感じがすると、亜美奈は思う。
もちろん今は口にはしない。後で心菜と真鈴には、言ってみるかもしれないが。
「では、カギを創りますので、この球に血液を一滴ずつ垂らしてください」
ラエルに差し出された球は、さっき上空で光っていた宙に浮かぶ球だ。
地上に降ろされたせいなのか、先程のような強い光ではなく、それでも明るく周囲を照らしていた。
亜美奈達の為にと用意してくれた家は、フレンチカントリー風の可愛いデザインで三階建ての家だ。
豪邸と言って良い大きさで、三人で住むには勿体無い気もする。
「これで良いですか?」
三人が血を垂らした後、亜美奈が聞くとラエルは笑顔で頷いてくれた。
彼は心菜をここまで連れてきてくれた天使で、うす赤い長い髪を持っている、不思議な雰囲気の男性だった。
一見優しそうなのに、ちょっと腹黒そうに見えると亜美奈は思ったが。もちろん、自分の心の中だけの秘密だ。
対するミケルは爽やかなお兄さんというイメージで、属性に依るものなのか、色は水色で日本のアイドル風の髪型だ。
目元のせいか少しきつそうに見えるが、話した限りではどこにでも居る男性という感じだと、亜美奈は思っている。
三人が垂らした血液は、瞬く間に球に浸透していった。
それだけでも驚きなのに、未だかざしたままだった三人の手の平に、ミケルがサッと手をかざしただけで、痛みが消え去ったのだ。
「あ~、傷が消えてるぅ」
驚きはしていても、心菜の口調は相変わらずのノンビリさんだ。
「さあ、これでこの家は、あなた方の事を主と認めましたよ」
光る球は玄関の、良く呼び鈴が設置されている辺りにセットされた。
それに触れれば、ノブを回さなくても扉が開くとミケルが言う。
「誰でも良いから、ここに触って見ろよ」
一人?
いや、こういう時は。
「三人同時で」
「やるよねっ」
「と~ぜ~ん!」
と、いう訳で。
「せ~のっ。えいっ!」
「や~っ」
「とぉっ!」
完全一致とは行かなかったが、気持ちだけは揃えた三人が触れると、カチッと小さな音を立てて扉が開いた。
と同時に、一階部の明かりが灯された。
内装は、フレンチカントリーとアメリカンカントリーを混ぜ合わせたような作りだが、なぜか靴を脱いで上がるようになっていて、日本人が設計したと判る家になっている。
玄関は中央に在り、上がると正面に映画やドラマでしか見たことのないような階段があった。
踊り場で左右に分かれているロマンティックなデザインだが、カントリー調の内装とはちょっと外れてる。
階段を挟んで右側がリビングで、左側に水回りが纏められているようだった。
「寝袋や取り敢えずの着替えは、リビングルームの隅に纏めて有る。二~三階は明日説明するから、悪いけど今日は寝袋で寝てくれるかな?」
「大丈夫です。三人で話もしたいし」
「だねぇ」
「ボクも、話したい」
昨夜も三人で話しをしたが、不安ばかりで楽しくは無かった。
今は。今だって先のことは判らないが、可愛い家に案内してもらった事で、不安よりもワクワクが大きい。
三人、顔を見合わせて笑い合う。
明日が自分たちにとって、より良い一日になりますように。
そしてそれが、ずっと続きますようにと。
つづく




