広いだけじゃ無く、部屋もいっぱい
「見ちゃダメです」
「食べ物入ってる箱、こっちにも用意してくれたんだ」
「ダメです~」
「そう言えばあの箱、預かったままだけど、誰に返せば良いのかしら?」
「貰っちゃって良いんだよ。バッグと組み合わせて使うと、色々便利だよ」
亜美奈・心菜・真鈴の三人は、空になった順に均等に分けた。あの箱も昨日入手した魔法で引っ越し出来るようなので、機会が有ったら試してみようと思ってる。
他には何が書いて有るのだろうかと、亜美奈と桃子、二人揃って手を伸ばす、振りをした所。
「だ・か・ら~、見ちゃダメです~!」
ふざけ過ぎた様で、アンジェはノートを抱え込みプクッと頬を膨らませる。その愛らしさにはきっと、勝てるものなどいないだろう。
可愛いは正義なのだ。
「ごめんね、つい気になっちゃって。もう見ないから、説明お願い」
桃子が頭を撫でながら言うと、機嫌が直ったようで、ノートを広げ説明を始めた。
「食器棚は、好きな方を選んで使って下さいです。下の扉は、冷蔵庫と冷凍庫になってるです。あと、食器は少し。箸やスプーンとかのカトラリーと言う物は、いっぱい揃えてくれたそうです。
キッチンの収納部分には、いっぱい食べ物が入った箱が入ってるです。
えーと、奥が、上の段から朝食・昼食・夕食で、手前がお茶・おやつ・果物です。それから、後ろの収納は食料庫で、今は少し大き目の空の箱が入ってるです」
一気に言い切ったアンジェは、どうだとばかりに胸を張る。
なので亜美奈と桃子は、揃って拍手をしてあげた。
「浄化のスイッチが見当たらないんだけど、どこに有るの?」
「えーと、あっ、階段の手摺りがスイッチになってるです」
「どの手摺りなの?」
大階段と二階に上がる、左右の階段が有り、そのどれにも手摺りはあるのだ。
「全部です。ここはエントランスと一緒になってるですから、普通に付けるとスイッチがいっぱいになっちゃうです。だから階段の手摺りにして、目立たなくしたです。あっ、でも入口の所には一つ付いてるです」
「それなら押し忘れがなくて良いわね」
ただし、上り降りする時は注意が必要だと亜美奈は思った。階段は大きすぎて、わざわざ手摺りの有る隅に行くのは面倒だ。それでも浄化するためには、手すりを使わないといけないのだが。
「箱の中身は後にして、次に行くです」
楽しそうに走り出したアンジェは、大階段を一気に下って行く。それも、翼を広げてうっすら飛ぶように。
「あれなら、転ぶ心配が無くて良いわね」
「なるほど」
自分達には出来ない芸当だが。肩をすくめて言う桃子の言葉に、亜美奈は苦笑しながら納得した。
小さな子供にしか見えないアンジェが、普通に走って階段を降りたら、きっと心配で見ていられないに違いない。
「私達は、手摺りを使ってゆっくり降りましょう」
「うん、その癖を付けて行かないとね」
中央を降りる方が、本当はかっこいいのだが。この場合は仕方ない。
しっかり浄化して置かないと、気付けば埃玉が転がっていてもおかしくない。これだけ広いと、死角が多すぎてコロッと落ちたゴミも、すぐ行方不明になる。
「まずここはトイレです。いっぱい有るので、お友達いっぱい来ても大丈夫です」
「本当だ。デパートのトイレみたい」
男女別になっていて、洗面台の他にイスがセットされた化粧室まで有る。
ますます、『家』から遠ざかって行く。
「その隣は全部工房なのです。それぞれの扉の両側は、作った物を置いとく場所なのです。あそこに置けば、どこに居てもすぐ取り出せるです」
なるほど、バッグやあの部屋を使うことは考えたが、これだけ広い部屋ならそのまま移動先から取りに来れる、倉庫の代わりに出来るのだ。
向こうの家の工房は小さくて、作った物をそこに置いておくことは出来なかったが、この広さを二人で使えるなら、問題無い。
「でも、ちょっと埃っぽくなるから、料理はキッチンでやった方が良いかもね」
「そうね、冷蔵庫も食料庫も向こうだし。そうしましょう」
「決まったところで、次に行くです」
トトトッと階段を挟んだ逆側へと、アンジェは走る。亜美奈と桃子はその後を、早めに歩いてついて行く。
「こっちは、泊まらないお客様の部屋です。トイレは有るです。ちょっとしたおもてなしに、使って下さいです」
「泊まらない?」
首を捻る桃子の隣りで、亜美奈も不思議に思い考える。
ただ遊びに来た友達なら、キッチンか自分の部屋で遊べば良いのに。なぜ、わざわざ専用の部屋を?
しかも同じ大きさの部屋が六つも並んでいるのが、鑑定でわかった。
今は何も無い部屋だが、もてなすための応接セットを置くと想定したら。
一つ、思いつく。
RPGゲームで城に呼ばれた時、まず通されて放置される場所。あれがこんな感じだった。
この城を設計した人は、あの部屋を想定しているのだ。
「要するに、支度して来るからこの部屋で待っててね。って言う部屋だよ」
「ああっ、なるほどそうなのね」
「では次です。こっちです」
今度は大階段の下だ。
「この中にダンジョンの入口が有るです」
大階段の下、左右に扉が有りその中に更に扉が有った。
「このダンジョンは入る度に構造が変わるです。亜美奈の作るダンジョンとちがって、魔物は攻撃してくるです。武器も装備も、しっかり準備して入らないと危ないです」
「怪我するのね」
「いえ、HP制なので怪我はしないです」
「えっ、HP制?」
それはまさしく、RPGゲームのような?
「HPが0になったら、強制的に階段の下に戻されるです。でも、経験値もドロップしたアイテムも、ちゃんと貰えるので大丈夫なのです」
「そ、そうなのね……」
「はいです。このダンジョンの中では、特別な魔法も使えるです。レベルが上がると種類も増えるですし、持って行く武器やよく使う魔法に合わせて、必殺技も出来るですよ~!」
あ~、そう。(棒読み)
なんて言ったら、アンジェは泣くだろうか?
いや、興味が無い訳じゃ無いのだ。怪我の心配も無いようだし、楽しそうだ。
けれど、一人が盛り上がり過ぎると、妙に落ち着いてしまうのは何故だろう。
「あ、魔物はやっつけると、つむじ風みたいにクルクルってして消えるです。それで魔物のドロップは、肉じゃ無くて色んなアイテムなのです」
「あ、ちょっと興味湧いて来た」
ドバーッと血が飛び出して、死体がゴロリなんてなったら、きっと二度とダンジョンに入らないだろう。昨日の豚が脳裏にチラつく。あれはかなりやばかった。
現実的な生臭さが無い方が、安心して楽しめようという物だ。もちろんそれは、亜美奈のワガママなのだが。
「じゃぁここは、武器と防具を作ってからね」
「はいです、次行くですよ~」
二階・三階は、二人の部屋と客間がメインだ。
玄関を背にして、右に通路が有りその両側に部屋が各六部屋ずつ。左には大浴場とトイレ、その隣に客間が各階に二部屋ずつ有る。今度は二十六人までなら、相部屋にならずに泊められる。
嬉しいのが、それぞれの部屋に風呂とトイレが有る事だ。これで男子が泊まりに来ていても、慌てる事も無い。
「あれ? 上から見えた、広いバルコニーが無いわ」
三階の、玄関側の部屋から出られると思ったのに、それなりの広さのベランダしか無い。
あの場所に立つのを楽しみにしていたのに、これはかなり残念だ。
つづく




