城だ、城。
「お城……?」
場所は東屋の有る方向。奥の森も随分と伐採されている、というよりも城によって押しやられた感じだ。森だけじゃ無く、東屋もトレーラーハウスも全て。
亜美奈は大急ぎで身支度を整え、まずは東屋が見える窓へと向かった。
「おはよ、亜美奈。何焦ってんだ?」
降って来た声。見上げると、三階の廊下に久我が居た。この家の階段の所は、大きな吹き抜けに為っていて、亜美奈達の部屋側と客間側とは、廊下に出るだけで話しが出来る造りになっている。
心菜達が呼ぶからだろうか、いつの間にか皆亜美奈を呼び捨てするようになった。構わないと言えば構わないのだが、男子に二人きりの時に呼ばれると、なぜか緊張してしまうから不思議だ。
別に久我の事は、好きな訳でも好みの相手という訳でも無いのに、だ。
「おはよう、久我くん。まあ、ちょっとね。それより、随分とゴネてたけど、良く眠れたの?」
大人達と組まされた久我は、泊まる部屋まで一緒と言うことで、ずいぶんと拗ねていた? 部屋数の関係で、どうしても一組は相部屋になってしまうのが申し訳なかったが、一晩だけだからとガマンさせてしまったのだった。
「拗ねてたのは部屋の事じゃ無くて、組み分けの方。それに、オレの希望のせいだがら一応納得はしてるんだ。ただ、年の近い仲間が欲しかっただけ」
「希望って?」
「オレ、大島出身なんだ。だから、島出身の奴らと一緒に、島に拠点作りたいって、さ。思ったんだよ。そうしたら、大島に病院造るから、そこの仕事を手伝って欲しいって」
「どんな仕事するの?」
「道の運行だな。色んな町と島を結んで、通う時に道案内したり、急患運ぶ手伝いとか。オレ達無しで道使わせる訳には行かないからさ」
それは、かなり忙しそうで大変だ。けれど病院をあちこちに造れないとなれば、どうしても必要になる仕事だ。
「大事な仕事なんだね」
亜美奈は短く言い、再び窓のが方へと向かった。それに釣られるように、久我も窓へと向かう。
「城だ」
一言、久我が言った。
そこに城が有るのは、亜美奈は判っていたがやはり実物を見ると唖然としてしまう。
場所的に見て、亜美奈達の家なのだろうと思う。あの場所に建てると、ミケルが言ったのだから。
けれど二人だけの家と言うには、どう見ても大きすぎる城だ。
そしてその城の前にラエルと、初めて見る小さな天使が居た。その雰囲気から、ラエルが小さな天使を叱りつけているようだ。
「亜美奈ぁ、さっきぃ変な感じしたけどぉ、何か有ったぁ?」
遅れて部屋から出て来た心菜が、目をこすりながら聞いて来る。
彼女にあいさつする間も無く、更に真鈴、そして他の面々も姿を現した。
面白いのが、女子は全員着替えを済ませ、男子はパジャマのままだということ。一部『女子』『男子』と言う枠から出ている者もいるが、女子会という言葉もあるのだし、この場合これで良い事にしたい。
「城が生えて来たんだよ」
「城、って、……生えるのか?」
普通は生えない。けれどここでは、生えないとは言いきれない。
「ともかく、外に行ってみましょう。あなた達は着替えて後から来なさい」
もう教師じゃ無いと言いながら、やっぱり『先生』をしている八重子だった。
近づいて良く見てみれば、庭は酷いありさまだった。
ダンジョンの入口は隠され、東屋近くに有ったトレーラーハウスや樹木などが押しやられる形でなぎ倒されている。
どうやら昨夜の冷え込みのせいで、トレーラーハウスに人は居なかったようで人的被害は無いが、とても良かったと言える状態じゃ無い。
「ラエルさん、この城はどうしたんですか?」
小さな天使への『お話し』が一区切り付いたようなので、近くに居た亜美奈が話し掛けてみた。
小さな天使は、小さい身体を更に小さく縮めてうつむいて居た。
「実は、ミケルからの報告を妙な方向で理解したようで、亜美奈と桃子の家をご覧の通りの城にしてしまったんです」
「そ、そうなんですね」
笑ってはみたが、こめかみが引き攣る。これはちょっと、私達の『お家』と言える代物じゃ無い。
内装がどうなっているか判らないが、十人くらい住めそうな大きさだ。
「アンジェ、とにかく一度、この城をしまいなさい」
「はい、ラエル様」
アンジェと呼ばれた天使は、城を小さくするとバッグにしまい込んだ。
小さくと言っても乗用車くらいは有る物が、ひょいと持ち上げる間もなくバッグに入るのだから、魔法とは素晴らしい。
「申し訳ない。私達、地上組の手が足りなかったために、こんな幼児を亜美奈達に面倒見させるなんて」
亜美奈達に、面倒を、見させる?
「ラエル様、私は、人間族の面倒を見るために配属されたのです」
「いや、どう見ても、亜美奈達が面倒見る方だろう?」
「ミケル様っ」
遅れてやってきたミケルを見て、アンジェがラエルの後ろに隠れる。
「二人のリクエストをしっかり聞くように。そう言ったよな、オレは」
「うう…… ゲーマーの皆様が、格好良いお城のデザインをするから任せなさい、とおっしゃって」
「暴走されたんですね、また」
ゲーマーが居るのは聞いていたが、暴走するのは聞いてない。しかも、またと言う程頻繁になんて。
「聖王様から、指示を貰えた。
『この場所の亜美奈と桃子の居場所は、亜美奈・心菜・真鈴の為に贈った家に、桃子の魔力を追加する事で補う事とする。
当然だがそれは、心菜・真鈴の許可を取った上で執り行うものとする。
なお、せっかく造ったのだから、城は亜美奈・桃子の家として、相応しい場所に建てるようにする事。そしてせっかく城に住むのだから、それに見合った仕事をしてもらう事にする。仕事に付いては、また後日連絡する』
と、言うことで宜しく」
宜しくと言われても。
「ボクは良いよ。というより、大賛成っ」
「私もぉ、大賛成~。楽しくぅ、なりそ~」
「うん、私も賛成。別の家に住むより、一人増えた方が、きっと楽しいよね」
亜美奈も賛成の意を述べると、桃子は嬉しそうに礼を言った。
問題は。
「お城に相応しい場所と言っても、ねぇ」
かなりステキな城だったから、沢山の人に見て貰いたい。けれど、目立つ所に建てたならば観光客が押し寄せて来そうで怖い。
「みんなから良く見えて、でもたどり着けない所」
陸に近い島もしくは、崖に囲まれた山の頂が良いと思う。
だが、そんな山に心当たりは無い、島なら有るが小さな船で来られてしまいそうで、少し心配になる。
つづく




