事件発生
残酷な表現が有ります。
軽めの表現にはして有りますが、
血生臭い表現が苦手な方は、注意して下さい。
口ごもった伊勢組三人を見て、どうしようかと悩む亜美奈だった。
だがそれは杞憂だったようで、伊勢組の一人がバッグから箱を取り出し蓋を開けて見せてくれた。
「百二十粒有るわ。カーテンとクロスも付けて、これと交換で」
「め、目がマジだよ?」
「交換で」
「わ、判った。ちょっと待ってて」
もう一度テントに戻ると店舗型トレーラーハウスとロープ、それから魔法を付与した石をそれぞれ『倍増』で増やし、カットレースのクロスとカーテンをいくつか取り出し、みんなの元に戻った。
開けた場所で大きく戻し、中に入って水回りを確認する。一緒に乗り込んで来ていた三人が、あちこち覗いて大騒ぎだ。
更にカーテンとクロスを選ぶのに、また一騒ぎ。
結局選びきる事が出来ず、オマケで一人一セットずつ持って行って貰う事になった。
「でもこれ、二人暮らし用だよね。どういう設定で売るの?」
亜美奈達『神の手』は、別に寝る場所が無くても困らない。扉を使って、自分の部屋に戻れば良いだけだ。
けれど一般の生徒達は、しばらくは男女別のグループに分かれて一つの家で暮らす事になるだろう。だからどちらかと言えば、二段ベッドが幾つもある方が良いはずだ。
「マラソン大会の応援に来てた、小さい子連れたお母さんがいるでしょ? あの人達が子供の面倒見ながら仕事するには、こういう、家と一体型になったお店が必要かな、って思ってね」
「売り物は?」
「幼児持ちには、しばらく私が作った物の代理販売して貰っても良いかなぁ、とか?」
「それなら私達もお願いしたいな」
「売ってくれる場所が有るのは、かなり便利だよな」
それぞれ、どんな物を卸そうかと話をしていると、背後からクスクス笑う声がした。
気づくと『神の手』は全員ここに集まっていて、開店を待つ生徒たちが遠巻きに見ていた。
「皆さん開店をお待ちの様です、そろそろ準備をお願いします」
「もうそんな時間?」
「やばっ、準備しなくちゃ」
「家もって……」
「一回、小さくしてっ、」
慌てて自分の場所に向かおうとする面々。だが、ずっと立ち話していたせいか、自分たちの場所を見失い直ぐには動けない。
そうこうしている内、近付いて来る人影が有ることに気付き立ち止まる。
人影はどういうことか、大きな何かを引きずっている。手に何か持っている者も居る。匂いが酷く生臭い。
大きな何かは血まみれで、一瞬何だか分からなかった。いや、判りたくなかった。持っている物が何かということに、誰かが気づいたと同時、悲鳴が上がった。
「おっ、飯屋が有んじゃん。ここで何か作って貰うべ」
「私ぃ、トンカツ食べたいっ」
「子豚の丸揚げ~」
引きずっている大きな物は母豚、手に持っている小さな物は恐らく豚の胎児。
妊娠している豚の腹を裂いて、胎児を引っ張り出した、のだ。
「き、君達っ、いったい何をしたんだ?」
「校長じゃ~んっ。今日も偉そうでお疲れさまでーっすっ」
「っていうかぁ、ご飯たんないんですけどー」
「だから自分で調達したんだよ、文句あんのかぁ?」
楽しそうに言い、男達は引き摺っていた親豚を、数人で持ち上げカフェのテーブルに向けて投げつけようとした。
瞬間、幾つものバリアが張られる。天使はもちろん、亜美奈達『神の手』も頑張った。
水のバリアに土の壁、押し返す強い風も有った。そのおかげでカフェは無事だったが、残念ながら全て無傷という訳には行かなかった。
「ああっ、テントに子豚がっ」
風魔法に弾かれて桃子のテントに、子豚がべっとりと貼り付いてしまった。
「ごめんなさい。せっかく貸してくれたのに」
「良いよ良いよ、気にしなくって大丈夫。それよりあいつらを……」
なんとかしないと、と言おうとしたが、すでに天使達の魔法で地面にその顔を押し付けられ、更に教師たちに捕まり、ロープで後ろ手に縛られていた。
いったいあのロープは、どこから出て来たのだろうか。
彼らは時代劇に有るような後ろ手に縛られたまま、教師と天使、そして『神の手』に見降ろされていた。
『神の手』の中にも畜産コースの生徒は居る。確かに食べるために育てている豚だが、生き物だという認識の下で世話しているのだ。嬲り殺して良い命じゃ無い。
「こいつらどうする?」
校舎の中には、当然だが牢屋は無い。亜美奈達に作れない事はないが、ただ閉じ込めるだけで良い訳じゃ無い。
牢屋に放り込むだけというのは、つまり寝てるだけで食事が出て来る状況を、わざわざ作ってあげるという事だ。
しかし、罰を言い渡すことに慣れている者も居ず。体罰はする方が辛い状態になるかもしれず、どうしたものかと首を捻るばかりだ。
「あっ、そうだっ」
何かを思いついた久我が、同グループの仲間たちに視線で合図を送る。たったそれだけで仲間の二人も理解したようで、教師達へとコソッと言づける。
提案を聞いた校長を含む教師たち。初め渋い顔をしていたが、久我達との話し合いの元、対処が決まったようだった。
「では申し渡します」
どうせ大した罰じゃ無いと思っているのだろう。縛られたままの彼らは、薄っすら笑いながらも校長を睨み付ける。
「あなた達十八人を島流しにします」
「しまっ……」
「何それっ、江戸時代じゃないんだからっ」
「あり得ないっ、そんなの死んじゃうじゃん」
確かに、普通ならそうだろう。
だが彼らは、魔法とスキルを持っている。
「場所は八丈島。久我くん達が移転の下準備をして有るそうなので、無茶をしなければ何とかなるでしょう」
「下準備というか、準備の練習ですけどね。どんなふうに整地すれば、上手く町が作れるかの練習台にしたんです。でも一応水場も作って有るし、食料獲れるダンジョンも作ったし大丈夫、と思います」
「あとは…… 家か……」
「それなら亜美奈さんの造った家で良いんじゃないかな?」
確かにあの家なら直ぐにでも持って行けるし、私物も一緒に運べて便利だ。しかも、今日配られた給料で買う事も出来る。
だが、それだけじゃ面白くないから、もう少しみんなで巻き上げておこう。
「一人金貨五枚ずつ出して」
亜美奈が言うと、『神の手』一同が顔を見合わせた。ついさっき、家の金額を聞いているからだろう。十八人いるのに、一人五枚は高すぎる『罰金か?』と考えているのが見て取れる。
「多少は着替えもいるだろうし、当面の食糧も用意します。じゃないと、いきなり餓死されたりするかもしれないし。さすがにそれは、後味悪いでしょ?」
「ああ~、確かに夢見が悪いな」
「家一軒に付き金貨一枚くれれば、冷蔵庫出すよ。それで一週間ぐらいは持つだろ?」
「家、冷凍庫有るよ~。肉目いっぱい詰めれば、一か月行けるんじゃないかな」
「その間に身の回り整えれば、余程甘えた事を言って無い限りどうにかなるでしょう。では皆さん、彼らはこちらに任せて出店準備お願いしますよ」
校長の合図で、皆自分の持ち場に戻る。
桃子のテントは、天使が浄化魔法で綺麗にしてくれた。殺されてしまった豚は、下田組の男子二人が、解体場に持って行くと言っていた。
あの大きさをどうするのかと思えば、大きな袋に詰めてバッグにしまいこんだ。なるほど、それなら血も気にならないし重さも問題無い。
桃子の方は、もう無いとは思うが、テントの中で一人で検査をするという事で、終わるまで天使が一人付いてくれる事になった。
亜美奈も販売の準備を始めつつ、校長相手に商談を始めた。
町造りの先行部隊出発は、七日後だそうだ。
つづく




