もう委員長じゃ無いのよ
会いたいけれど、亜美奈の事を考えると行く訳には行かない。そう考えているのが、ありありと判る。
「明日になれば会えるし、今日は良いよ」
「だねぇ、せっかくなんだからぁキャンプを楽しみたいしぃ」
二人の気持ちは嬉しいが、ここは気にせず行ってほしい。
気を使われ過ぎるのも心苦しいし、ずっとそうしていられる訳でも無いのだから。
「明日は忙しくて、のんびり話しなんか出来ないんじゃ無いかな?」
助け船なのか、ミケルが呟くように言った。
「他のグループも来るには来るけど、全員集まるかは判らないし。あの城に居る全員の希望を聞いて、魔法とスキルを付与するのは、かなりの重労働だと思うよ」
「確かに。のんびり話しなんかしてたら、終わらないかも。って言うか、一日で終わらせる自信、ボク、無いけどっ」
「私もぉ………」
桃子も同意だと、こくこくと何度も頷いた。
きっと一日では終わる事なく翌日も、いや、三日ぐらい掛かりっきりになるだろう。そんな気がする。
「じゃあ、ちょっと行って来ても良いかな?」
「もちろん。心菜も行っておいでよ」
真鈴は嬉しそうに、心菜の方は少し嬉しさを滲ませながらも、申し訳なさそうに頷いた。
「じゃぁ~、行ってくるね~」
「ついでに、校内の様子も見て来るよっ」
「うん、お願いっ」
そうと決まれば後は素早い。
二人とも、気持ちは兄弟の方に向いているようで、一目散に教えた場所に向かう。
「で、亜美奈は何するんだ?」
「何、をしましょうか………」
何をしよう。いきなりヒマになってしまった。
こういう時元の世界だったら、テレビを見たりゲームをしたりしていたのだが。そのどちらも、ここには無い。
いや、そう言えばゲームのような物は有った。
「ダンジョン、造ってみましょう」
道具は『ペンタブ』だし、出来上がった物はゲームでお馴染みのダンジョンと、いかにもゲームっぽい。
ついでを言えば、持ってるレシピに必要な材料なら、何でもドロップ出来るように設定出来るのだから、亜美奈にとっては便利過ぎる場所だ。
「さっき心菜が、ビーフシチューが食べたいって言ってたから、牛肉がドロップ出来るようにしょうかな」
出来上がったらテストを兼ねて、散策に行こう。
「せっかく海の目の前だし、心残りの海鮮丼の材料も欲しいな」
海鮮丼にビーフシチューは合わないかもしれないが、食べなかった方は箱の入れて取っておけば良いのだ。
必要な材料を考えながら、ダンジョンの構成を組み立てて行く。ボスは二層と三層の最後に設置し、ドロップ品は特別な物が良い。
ここは校舎からも近い、みんな慣れない世界で頑張っているのだ、少々『ご褒美』が有っても良いだろうから。
「ご褒美、かぁ、………」
「温泉なんか良いわね」
今の声は?
突然の声に、亜美奈は弾かれたように振り返った。
「心配したんだからね。黙っていなくなってるから。なのにこんな所で、しかも優雅にグランピング楽しんでるなんて、まったく………」
「い、委員長っ? と、先生………」
確かに浜辺には何人もの生徒が、食べられる物を求めている振りをしてサボってうろついているが、真面目なこの二人がこういう所に来るとは思わなかった。
亜美奈が唖然と見ていると、二人はイタズラっぽく顔を見合わせ、
「残念、もう私、委員長じゃ無いのよ」
「私も先生じゃ無くなったわ」
委員長はともかく、教師が先生じゃ無くなった事が嬉しいのだろうか。
いや、実際に嬉しそうなのだから彼女は嬉しい事なのだろう。
「私達も、天使の手伝いをする事になってね、それで『学校』という枠組みから外れる事になったのよ」
「ええっ、委員長も?」
「だから、委員長じゃ無いんだって」
「そっか……… え-と?」
「まさか、名前が判らないとか言う?」
「せ、先生の方は、竹原………さん?」
もう先生じゃ無いのだ、『さん』で良いのだろう。
怪しい言い方をした亜美奈を見て、桃子はわざとらしいため息を吐く。
「私は『鈴木桃子』、桃子で良いわ」
「じゃぁ、私は亜美奈で」
これまで亜美奈は、クラスの人達と積極的な関わりを持たないようにしていた。
何となく上手く話がかみ合わず、中学の時の様なノリで話せない。更に微妙な虐めのような状況にもなって来たころには、積極的に避けてしまっていた。
仲良くすると、その相手も虐められそうで遠慮していた感じだった。それでもこの二人は気に掛けてくれていた。
お互いクラスから離れたなら、もう迷惑をかける事も無いだろうし、普通に話してもかまわないはず。
「それなら私も、ハ重子でお願いね」
「ハ重子さん?」
名前を呼べば、ハ重子も嬉しそうに頷いた。
「所で、そちらの方は?」
その男性は、教師という感じでは無いのに『先生』という言葉が似合いそうな人だった。
医者や学者といった職業の人だろうか。
「この人は山田さん。高校の近くに有った、山田歯科医院の院長さんでね、八重子さんが面倒みる事になってるの」
「面倒と言っても、子供じゃ無いんだから何かする訳じゃ無いんだけど。高校にとっては部外者になる訳だから、一人で歩いて廻る訳に行かないでしょ? だから案内がてら付いて歩く、って所かしら」
「野次馬、いえ、応援に来ていた近所の人達も巻き込まれてるみたいですし、その一人ですか? それとも、救急車の辺りに居た医療担当ですか?」
昨今はたかが高校の体育行事でも、救急車が待機してくれる。もちろん校医は居るがその他に、外科医と整形外科医も来ていたと聞いている。
当然だが若い看護師も数人いて、ナース服姿の女性を見て男子が色めき立っていた。
鑑定で遠くから見た所、見知らぬ大人や子供達も沢山いたことから考えて、そういった人達が巻き込まれる形で一緒に来ているものと思われる。
「ううん、この方は後から落ちて来たの」
「落ちて?」
「そう、突然目の前に落ちて来たのよ。それが私の前だったから、私が面倒を見る事になったの」
こっそりと、残念そうな表情を亜美奈に見せた八重子は。けれど、満更でもなさそうに見えた。
もしかすると、好みの男性だったりするのかもしれない。
「なるほど、それで三人で精霊集めしてるんですね」
あまり多くは無いが、浜辺にも精霊が飛んでいる。岩場や草陰に、ひっそりと隠れているのだ。
今は三ツ葉の生徒がいるから出て来ないが、夕方になって亜美奈達だけになれば、近くに来てくれるはず。
まだ始めたばかりのようだが、たとえレベル1でも魔法やスキルを持ってさえいれば、付与は出来るためきっと問題ないだろう。
そう思っていた亜美奈だったが、桃子達の思わぬ反応に目が丸くなった。
「精霊、って何?」
つづく




