今日のオヤツはアンマンです
スキルの恩恵というのは、誰でも簡単に色々作れる事だけだと思っていたが、そんなことでは無いのだということに、亜美奈は気づいた。
「凄い、一日で三十もレベル上がっちゃった」
正しくは半日弱だが、日が昇る前から作業を始め、今は午後三時。体力的にも一日と言って良い感覚なのだ。
けれど気分はスッキリしている。やりきった感満載だ。
「まさかたったの一日で、こんなに出来ちゃうとは思わなかったよ」
初めに造ったのは、細長い家にシャワーとトイレ、簡易キッチンが付いているだけだった。後付けで二段ベッドを付けた所でレベルが上がり、次にシャワーだけでは無くバスルームにして、二段ベッドとテーブルとソファーベットを造り付けにしてみた。それを何台か造った後、縮小と反発を付与した石を付けて引っ張って歩けるようにして。
後は面白くなって、ドンドン豪華にしていった。最後に造った物はロフトとバルコニーが付いた豪華版で、亜美奈のお気に入りだ。
昼食時に会った時、心菜と真鈴がテントのアレンジに成功したと言っていたから、あちらも凄い物が出来ているだろう。
三時と言えばオヤツの時間だ、もう少し何か作りたい気もするが、向こうの様子も見てみたい。亜美奈はトレーラーハウスをバッグにしまい、部屋を後にした。
「あっ、やっぱり出て来た」
嬉しそうに言ったのは真鈴。その前では心菜が、紅茶を三つ煎れている。
「お茶の時間だから、出てくるよって心菜が言うから待ってたんだ」
「ありがとうっ。今日のおやつは何にしたの?」
この家に来てから、今日で一週間。ダンジョンを作り出してからは、自分達で食事やオヤツの用意もしている為、初めに用意してくれた食べ物は結構残っている。
かなり気を使ってくれたようで、少し良いレストランで出てくる料理が多い為、早い内に飽きたと言うのもあったりするのはミケルには秘密だ。
「今日はぁ、アンマンだよ~」
「さっきうどん・蕎麦ダンジョンに行って、あんこ採って来たんだ」
「肉マンのぉ、アレンジメニューだよぉ」
心菜も真鈴も、レシピをアレンジするのが得意だ。亜美奈はレシピを作れるが、アレンジは建築と工芸品に限られる。
どんなものでもアレンジして、寄り良いものに出来る二人が亜美奈はうらやましい。
「熱々のフカフカだね。美味しいっ」
「自信作だよ~」
アンマンのお供は、やっぱり熱々の緑茶だ。急がずのんびり、おしゃべりしながらオヤツを楽しむ。
「そう言えばぁ、天使さん達来たよ~」
「お礼だって言って、ご馳走置いて行った。箱ごと持って行って、他の地域の『神の手』達と食べようと思うんだけど、良いかな?」
「もちろんもちろん、みんなで食べたほうが、絶対に美味しいもんね」
「亜美奈ならそう言うと思った」
「い~っぱいぃ、有るからね~。パーティがぁ、三回出来るよ~」
「それは楽しみ」
いったい、どんなご馳走なのだろう。ちょっと見てみたいが、向こうに付いてのお楽しみにしようと思う。みんなで、と二人がいうくらいだから、きっとそれを見込んだ大皿料理に違いない。
「所で亜美奈、あのテント畳める ?」
「あの、って、放り投げる奴?」
「そう。造ったのは良いけど、畳めなくって困ってるんだよね」
あのタイプのテントは、畳むのにコツがいる。一回覚えてしまえば良いのだが、覚える敷居が意外と高いのだ。
「なら、形状記憶を付与してあげようか?」
「出来るの?」
「その箱と一緒だよ。時間は止められないけどね」
時間を止める方法は、亜美奈もまだ見つけて無い。あれはもっとレベルを上げるか、特別な魔法かスキルが必要なのだと思う。
「そのスキルか魔法、貰える?」
「もちろん良いよ。え~、ギビングッ」
魔術の杖を出して、二人が差し出した本に付与する為に魔法を表示させる。
「あれっ?」
「どうしたの?」
「もしかして、なかった~?」
心菜の言うように、付与したい魔法が見つからないのだ。
「なんていう魔法だった?」
「記憶だったと思う」
必要な状態と、鍵になる動作を指定し付与すると、ちょっとした力でその状態になってくれる魔法だ。
自動ドアにもなるし、車輪や歯車を一定の数回すことも出来る。
時間が止まる箱が大きさを変えるのも、この魔法を使っているのだと思う。
「付与出来無い魔法もあるってミケルも言ってたし、それなのかもしれないよ」
「かもね~」
便利なので二人にも使って欲しかったのだが、付与出来無いなら仕方ない。
「まぁ、その魔法貰ってもぉ、多分使えなかったよぉ」
「どうして?」
「ボクも無理だと思う。だって、一旦畳んだ状態にしないと、その状態になるように付与出来ないじゃん」
「ああっ」
確かにそうだ。全く思いつかなかったが、形状を記憶させる為には一度畳んだ状態にしなければならない。その、畳んだ状態にするのが出来ないという話しだった。
「亜美奈は何作ってたの?」
「トレーラーハウス、モドキ? トレーラーが積んでる大きな箱を改造して、家にする事をそう言うの。それに箱みたいに拡大・縮小を記憶させて、椅子やテーブルにしようとしてるんだよね。レシピいる?」」
「「いるっ!」」
ささっと出したのはスキルの本。今度こそと付与して、ちょっとがっかり。亜美奈が付与したのは、最後に造った物のレシピだったのに、本に表示されたのは二度目に造ったシンプルな物だったのだ。
せめてロフトが付いたタイプが良かった。そう考えもう一度付与しても、やっぱりシンプルな物しか表示されない。
「自分で改造するのも、きっと楽しいよ」
「なんならぁ、アレンジしてもぉ、良いんだしぃ」
「うう……… ごめん、上下水道は私がちゃんとやるから」
下水道はもちろん、昨日造ったのと同じ仕組みのダンジョンにつなげている。
そして上水道の方も、あれから思いついて専用ダンジョンを作りつなげてみた。すると『何という事でしょう』、上手い具合に使える水道が出来上がったのだ。
何でもやってみる物であるが、あの街に活かす事が出来なかったのが残念で仕方無い。
「食べ終わったら 工房に行こうよ、それでもって出発前最後の作成だっ」
「「お-!」」
そして明日は、一日掛けて湾岸線を巡って行こう。自分達の知っている筈の、全く知らない千葉、東京、神奈川をこの目で見るのだ。
残念ながら、美味しい海鮮を探す時間は無いだろうが。まだ見ぬ仲間が待っている。
初めましてに近い人達だが仲間は仲間だ、仲良く出来ると嬉しいと思う。優しい人だと、もっと嬉しい。
つづく




