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生活の場所は

 亜美奈、真鈴、心菜。

 三人に割り当てられたのは、図書館の奥にある司書室だった。

 司書と言っても、学校が雇った一職員であり、公共の図書館にいるような資格を持った司書は一人しかいない。けれど行う仕事のせいか、全員司書の名で呼ばれている。

 図書館は生徒専用の図書室とは別に建てられていて、地域の住民が自由に使える仕様になっている為、公共の図書館と勘違いしている者も多いらしく。今回も『勝手に使って良いのか』と、心配する声が多く有った。


 あれから教員、職員、生徒すべては校庭に集まり、これからの事を決めようとなったのだが。いかんせん人数が多く、決めるどころか話し合いが出来る状況を作る事も出来ず。

 一旦、各持ち場に別れて思いつく限りを紙に書きだし、代表が集まって話し合い、さらにその代表が集まるという。まるで、少しずつ目の荒くなる振るいに順番にかけていくような事になった。

 もちろん、まともに話し合いに参加するものは、そう多くは無いのだが。それはそれで、話が進みやすくて良いということで、不参加の者は無視していくことになったようだ。

 生活については、各教室を階ごとに男女に分けて使う。普通科は各学年一クラスずつしか無いため、男子は体育館、女子は図書館と決まった。

 生徒が必要とする専門書が多いため、三つ葉学園高校に有る図書館はかなり立派な造りになっているのだ。


「と言うわけで、あなた達の生活の場はここ『司書室』です。お風呂は当面我慢で、トイレは各トイレに用意してくれた、災害用トイレの方を使って下さい。ただし、運動部の男子中心に、明日から簡易水洗トイレを校庭に作ることになったそうだから、そっちが出来たらそちらが使えるわ」


 図書室を使う事になったクラスメイトの一人、委員長・鈴木桃子がメモを読み上げてくれる。

 アーモンド形の目が紙と亜美奈達の間を行き来して、その度にサラサラな髪が音を立てて揺れる。

 背中まで伸びた真っ直ぐな黒髪、長いまつ毛。気持ち高めの柔らかな声と口調に、憧れている者は多いという噂だ。

 そんな彼女の、丁寧な説明の後質問を問われ、亜美奈と真鈴は首を振った。


「わざわざ教えに来てくれて、ありがとう。けど、三人でここ使っちゃって、本当に良かったの?」


 他のみんなは、広い部屋に雑魚寝になるのに。


「あちらはあちらで、良い事も有るのよ。本棚で区切って、一人ずつ個室状のスペースを作れるようだしね」

「なるほど、それも良いかも」


 仲が良い同士でも、何日か、いや何か月になるか判らない日々を共に暮らしていくのは辛そうだ。狭くても個室が有る方が、絶対に良い。


「それにあなた達、ここ暫く運勢がた落ちでしょ? 一緒にいると、引きずられそうで嫌だ、っていう声が有るの。だから、悪く思わないで欲しいのだけど、チョット避ける様な子も出てくるかも」


 三人、目を合わせて息を吐く。

 自分達が何かした訳じゃないが、確かに三人とも運が無い。

 運が悪いじゃ無く、本当に無いのだ。 


 初めは部活動だった。

 四月に入ったのは、イラスト研究部だったはず。

 なのに夏休みが終わって初参加の日には、漫研に代わっていた。

 もちろん、文句は言った。理由を説明して欲しいと、上級生に頼んだのだが。

 その時の態度が悪いと、強制退部になってしまった。

 次いで失恋。

 片思いだったのだから、絶対に上手くはずもないと判っているが。なぜか告白もしていないうちに、振られてしまった。

 それも、三人ともだ。

 後は小さいものだが、ライブのチケットが外れたとか、物を無くしたり壊れたり。

 良くある事ばかりだが、続けば不審がられる。


「しばらくすれば、みんな忘れるだろうから。ちょっとだけガマンして置いていて欲しいの」

「わかった、そうする」


 これも、不運の一つだろうか。

 再び目を合わせ、息を吐いた。


「それから、近くの国から援助が貰える事になったらしいわ」

「近くに国があるの?」

「詳しくは教えてくれなかったけど、そのようね」

「へえ。じゃあ、物々交換で食べ物貰えたり、期待出来るんだ?」

「その辺も、私達生徒にはまだ言えないって。でも、学校全体への援助の他に、個人に一つずつ援助するって言ってるらしいから、今夜中に考えて置いて


 言って副委員長は、心菜をじっと見た。

 そう言えば心菜は、こちらに来てからずっと黙ったままだ。


「心菜、具合でも悪いの?」

「ううん~、そうじゃなくてぇ………」

「んっ………?」

「日記が入った引き出しぃ、鍵ぃ、閉めて来たか心配になって~」

「日記?」


 とたん、副委員長の顔が引きつる。


「日常の事はぁ大して書いて無いんだけどぉ、ポエムとか~、夢小説もどきとか~、色々と~………」

「キャーーーーー!!」


 叫んで、副委員長は逃げるかのように走って行った。

 今更慌てても、意味は無いのだが、それでも慌ててしまうのは『乙女心』のなせる技か。

 日記やポエム。女子高生なら、かなりの確立で記憶が有る事だろう。幸い亜美奈は、どちらも書いてはいないが。


「心菜、えっと………」


 なんと言ったら良いものか。

  話しかけたものの、どう言えば良いものかと言い淀む。

真鈴も同じようで、心菜から目を反らし口ごもっていた。


「ごめ~ん、あれ嘘~………」

「えっ?」

「ウ、ソ………?」

「あ~っ、具合はぁ悪くないよ~。ただ~、悩んでた内容がぁ、『嘘』」

「本当は………?」


 ついつい身を乗り出し、三人、おでこを突き合わす。

 他に誰もいないにも関わらず、気持ちは内緒話だ。


「ここ、出ちゃわない~?」


 瞬間、頭が真っ白になった。


「だって私達ぃ、運悪すぎだよね~。おかしくない~?」

「誰かが仕込んでる、とか?」

「そうとしかぁ、思えない~」


 九月から始まって、もう四か月半だ。ずっと、こまごまと何か有る。いじめとも言えない、小さなことだ。

 けれど有りすぎる。


「向こうの世界でぇ、チマチマやられてる分にはぁ、高校出たらおしまいだしぃ、どうせぇチマッとした意地悪だからぁ良いかなぁって思ってた~。けどぉ、こんな何もわかんない場所でされて~、もし孤立なんかしたら~、って思ってぇ………」

「だったら、自分から出て行こう、って?」

「うん、ダメかな~?」


 こんな、何も判らない所を三人だけで生きて行くのは、果たして可能なのだろうか。

 いや、既にいじめは始まっている。

 右も左も判らない環境の中、三人だけ個室に押し込められている。恐らく情報も、今後は通りづらくなる事だろう。

 けれど自信が無い。


「あ~、じゃあさ、こうしない?」

「何、真鈴?」

「まずは下準備。数日様子見て、また何かあるようなら話し合う」

「それなら例の援助品、野宿前提で考えない?」

「亜美奈、何か案有る?」


 まずは寝袋。

 ここでずっと暮らすなら布団が良いが、持ち運び可能な物にしておけば転用が可能だ。

 ハサミやのこぎりなども付いた、折り畳み式の多機能ナイフ。

 食べられる野草や木の実、魚などの書かれた図鑑もあれば良い。


「それを一人ずつが『三つ欲しい』って頼めば良いんだよ」

「一人ぃ一種類ずつ~、って事だねぇ」

「そういう事。多分そうやる人、多いと思うよ」


 寮に暮らしていた人達はともかく、ほとんどは家から通っていたため着替えも体操服だけだ。制服は手洗いだとボロボロになるから、気安く着る事が出来るのは体操服のジャージとTシャツだけだ。

 きっとグループで話し合って、みんなで物を貰い合ったりするに違いない。


「後、何か必要な物は………」

「魔法、とか?」






                            つづく

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