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有ればとっても便利です

 どうしたものかと悩んだが、言わずに居られるわけは無いのだ。

 困ったように、けれどどこか期待交じりに見つめて来る二人に、亜美奈は思い切って口を開いた。


「………クリーニングの魔法」

「「えっ?」」

「クリーニング、洗濯の魔法だった」


 レベルの低い内は、水洗いだけしか出来ないが、高レベルになればドライクリーニングも出来るし、布団やソファーなどの大物も丸洗い出来るようになると鑑定が出た。

 便利と言えないことも無いが、やっぱり地味だ。


「えっ、良いじゃん!!」

「うんうん~、私もぉ、欲しいよぉ」


 真鈴も心菜も優しいから、亜美奈がガッカリしないようにそう言ってくれているんだろう。

 そう思っていた亜美奈だったが。


「だってここぉ、洗濯機無いしぃ」

「制服はドライクリーニングだよ。手洗いじゃシワシワになるし。どうしようか悩んでたんだ、ボク」

「私もぉ」


 言われてみれば確かにそうだ。

 昨日着替えたのはTシャツだけだったから、下着と一緒にささっと手洗いで済ませた。下着の方は風魔法で乾燥して、もう一度着ている。ただし乾燥と言っても、レベルが低いので完全には乾かない。早くレベルを上げなければと、亜美奈はしみじみ思う。

 量が少なかったから簡単だったが、服を一着上から下までとなると、けっこうな手間だし、制服となれば更に難しい。


「じゃあ、魔法だから本に付与で良いんだよね」


 まずはバッグから白紙の本を取り出し、コピーで数を増やす。それからクリーニングを付与し、倍増で二冊にする。

 本やプレートは、無くなってもまた補充してくれると言っていたが、念のため、増やしてから使う癖を付けようと思っているのだ。


 亜美奈の真似をした心菜が本を一冊だけ増やし、魔法を付与しようとしてふと首を捻る。


「そう言えばプレートってぇ、幾つも付与出来るのかなぁ?」

「ギビングで出て来る項目のスキルを、鑑定してみれば判るんじゃないかな?」

「真鈴頭良いっ、って、出来るの?」


 できれば便利だが、そこまで便利に出来ているだろうか?


「ともかく、ボクが試してみるよ。ギビングッ」


 真鈴の目の前に展開されているのだろう一覧表を、亜美奈も見つめた。

 と言っても、人が見ている一覧表は見えないのだが。


「判った。神の加護っていうスキルを持っている人に渡す場合、スキルも本に付与するんだって。神の加護を持ってる人は、もともと沢山スキルが持てるから、プレートを身に付けている必要が無いからって。

 あと、一つのプレートにはスキルが五個まで付与出来るらしいよ。レシピは数に入れないみたいだから、かなり親切設計かな?」

「五つだと、掃除と修繕が有ったらそれと、料理と、あとは仕事用に三つかな?」

「なかなかぁ、難しい選択だねぇ」


 もっとも亜美奈達三人は、好きなだけスキルを持てるから関係ない。

 悩むのは、何をどれだけレベルアップするかであり、それも中々に大変そうな悩みだ。


「私たちはぁ、いっぱい持ってるからぁ、チート~って奴だねぇ」

「いやいや、Lv1でチートは無いでしょ」

「じゃあ~、チートになるようにぃ、頑張るぞ~」


 心菜が言うと、あまり頑張っているように聞こえないが、一応これでもかなり頑張っているのだ。多分。


「精霊ガチャでぇチートを目指す~、かなぁ?」

「何、それ」

「精霊保護するとぉ、魔法とかぁスキルがぁランダムで出て来るのってぇ、ガチャみたいじゃな~いぃ?」

「うん、それは私も思った」


 スマホのゲームで、強いキャラや武器を貰う為のガチャガチャが、やっぱりランダムで色々出て来る。

 一番強いモノは中々でてくれないため、大人は沢山お金を掛ける。

 高校生である亜美奈は、もちろん無料の範囲内でしか遊べないから、ガチャも二週に一度出来るかどうかだった。

 だからなのか、精霊を飽きるまで保護して沢山のスキルを得られる今の状況は、ガチャを好きなだけやってるようで楽しいのだ。


「じゃあ、『精霊ガチャで目指せチート』ってことで。おーっ!」」

「おーっ!!」

「おぉ~………?!」


 心菜と真鈴も本に付与し、仲良く交換し合った。

 本が二冊。魔法用とスキル用だ。

 スキルの方は、まだ真っ白だけれど、魔法もスキルも、付与されたページを読めばすぐに使えるようになる。

 そしてスキルだが、書いて有るのは使い方だが、不思議なもので読むと道具がページの上に現れるのだそうだ。それをバッグのチェーンに付ければ、準備完了だ。

 今回は魔法なので何も出て来ないのが、少しだけ残念な三人だった。


「でもこれって、向こうに帰ったら使えないんだよねぇ」

「可愛いから、有るだけでも楽しくない?」

「うん、楽しいぃ~」

「あ~……… やっぱり、帰れると思ってたんだね」

「「「えっ?」」」


 来ていてもおかしくない時間では有るが、そこに居るとは思って無かったため驚いてしまった。

 ここは三人の家だが、三人が揃って一階に居る時に限り、ミケルは勝手に入る事が出来るように設定されているらしい。


「見知らぬ場所にいるのに、妙に元気だからそうじゃ無いかと思ってたけど」


 眉を下げるミケルが、何だか辛そうで。

 亜美奈達三人も、胸が苦しくなる。


「この世界は、『死に行く者を救う地』と呼ばれていてね。本来死ぬはずだった人たちの中で、神の力ので誤魔化すことの出来る範囲の人達が、現れる世界なんだよ。オレ達天使族は、人間族を助ける事で人間族の持つ『何か』を貰って生きている、らしい」

「らしい、なんだ?」


 亜美奈達からは大人にしか見えない彼は、天使族の中では子供の内らしい。だから、あまり詳しい事は聞かされていないのだと、説明してくれる。

 昨日もそれらしいことを言っていた気もするが。とにかく、天使族だからと言って、すべてを知っているわけでは無いということだ。


「ゴメンな。知らない方が良いのかもしれないけど、ちゃんと教えておかないと、っていうか、初めの内にちゃんと泣いておかないと、後になればなるほど泣けなくなるから。ちゃんと教えて置くべき、って決まってるんだ。

 一応、この家に来てすぐに言った筈なんだけど。珍しい道具に興奮してたから、聞き流しちゃってたかな。もっとちゃんと言わなくてゴメンな」


 やっぱりそうなんだ。

 もちろん、判ってはいたのだ。

 異世界に集団転移させられた場合で、元の世界に帰ることの出来る話しは少なくはないが、絶対に帰っている訳ではない。

 ただ作り話じゃ無くたって、もしも帰ることが出来るなら、一か所に集めて置かないと返す時に不便だろうから。分散させるということは、きっと帰れないのだろうなと思ってた。


「でも、帰りたかったな」


 判ってたけれど。

 胸の辺りがモヤモヤして、何を言ったら良いか判らない。

 さっきまでは平気だった。この世界を楽しめていたのに。


「でもぉ……… 帰れないんだぁ………」


 心菜はそう言い、ぎゅっと目を閉じた後、無理やりな笑顔を作った。


「今日はぁ、三人別々にぃ、好きなスキルで色々作って遊ばない~?」

「別々に?」

「うん~。好きな事してぇ、色々考えてぇ。で、明日からまたぁ、頑張ろうよぉ」


 一番ノンビリで、一番子供っぽくて。

 頼りないと思っていた心菜の提案は、亜美奈と真鈴の気持ちを助けてくれる物だった。

 一人になって泣きたい。

 はっきりとした言葉は、胸の内に隠した。

 優しい想いだった。






つづく

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