さて、作りましょう
本音を言えば、家具だってベッドのような大きな物を作る時は、電動の方が楽で良いのだが、スキルに文句を言っても仕方ない。
今は面倒でも、細かい細工が出来るようになる大工工芸の方が、女子には向いているはずだ。
「建築でも簡単な造りの家具は作れるから、今はそのまま行こう。
次はレシピを選んで作成する。レシピはバッグの中を見る時の要領で開くと、目の前に現れる。ただし、選ぶとすぐにスタートするから、慌てないようにね」
亜美奈は教えてもらった様にレシピを開き、まずは『家』の項目を見てみた。
レベルが低いせいで、形は一種類しか無かったが、代わりに様々な色の屋根が選べ楽しそうだと思った。
とはいえ、今造るのはベッドである。項目は家具だ。
やはりレベルのせいか、作れる物は少なく色も選べないため面白みが無い。
レシピの下には材料が書かれていたため、棚から木材を運んでテーブルの上に置く。
幸いレシピは、しまわない限りそのまま表示されているので、材料集めも楽だった。
必要なのは太い角材一本と細い角材が三本、それから平板が数枚だ。
作業台に揃えると、ベッドの項目を指先で触れて制作スタート。
「えっ、ええっ?」
突如現れた、五人の小人。
絵本にあるような、三角帽子の可愛いあの小人たちだ。
小人は戸惑う亜美奈には目もくれず、角材に線を引き魔動鋸に運び定位置に置くとジッと亜美奈を見た。
きっと、ここで切れと言うのだろうと、指定の通りに切ると次に平板が置かれる。
それも切ると次はカンナで表面を削る。もちろんこれも、小人が設定した板に手を添えるだけだ。組み立ても同じで、指定されたところをトントンとトンカチで叩くだけ。
何だろう、これ。とぼんやり考えている内、ベッドは完成し小人は消え去った。
「って、もう出来た?」
ジャーッと切ってシャーッと磨いて、トントントンで出来上がり?
組み立てに必要な本数分すら、切ってない気がするのはなぜだろうか。
「スキルは魔法だから、深く考えない方が良いよ」
「はぁ………」
それにしたって早すぎだし、亜美奈のした事は申し訳程度だったのに、まるで亜美奈が全部作ったかのように、経験値まで入ってる。
出来はもちろん売り物レベルで素敵だし、その上レベルアップまでして申し訳ない。
「ああぁ~、小人さんがぁ消えちゃったぁ」
「可愛かったのに、ゆっくり見てる暇も無かったね」
道具が違うせいか、少し遅れて作り終えた心菜と真鈴が、残念そうに声を上げる。
二人が作った方のベッドは工芸スキルのせいか、簡単な飾り彫りが付いていて、とても良い出来なのに感動も無く、小人を気にするなんて心菜らしいと亜美奈は笑った。
「小人は魔法を具現化したものだから、出来上がれば消えるんだ。ゆっくり見たいなら寝具を創る時、他の人のを見れば良いんじゃないかな?」
「うん、そうしよう。じゃあ、まずはボクから作るよっ」
裁縫の材料は一階に有るため階下に降りる。工房と言っても素材が揃っているだけで、道具は自前なのでどこでも良いのだが、念のためみんなで移動することになった。
真鈴が裁縫師のスキルを起動し、布団セットを作り始める。
すると三人の小人が現れ、布団作りの手伝いを始めた。相変わらず手伝いというより、ほぼ小人製なのだが。その可愛らしいしぐさには、ついつい頬が緩んでしまう。
言葉を話すことなくひたすら作業している小人なのに、『うんしょ』『よいしょ』という声が聞こえてくるような気がするのだ。
いつの間にか袋から出て来た精霊達も、どこか嬉しそうに見えるから不思議だ。
寝具を造った後ミケルは、付与のやり方を教えてくれた後帰って行った。
新しい事を覚えた三人は喜び、食事の後でスキルの交換会をしようと話していたのだが。
夕食を食べ風呂に入った所で、誰からともなく自室へと戻ってしまった。
『お休みなさい、また明日』
笑顔で交わして、それぞれの部屋に戻る。
もしかするとそれは、東屋で心菜と真鈴が話していた事が原因かもしれないし、帰り際に言っていた『数日後にはここを発って三つ葉学園高校を目指す』という、ミケルの言葉のせいかもしれない。
ただ、元の世界にいる時はずっと、夜には自分の部屋で好きなように過ごしていた三人の、ようやく出来たプライベートな空間が嬉しかった。
だから今までの様に、夜を一人で過ごしたかったのだと、亜美奈は思うことにした。
一人になると亜美奈は、バッグの中からベッドと寝具を取り出しセットした。
工房でベッドを作った後、どうやって持って出るか悩んだが、かなりの大きさまで入るバッグが有る為、まったく問題なかった。
マジックバッグの夢は捨てきれないが、これはこれで物凄く便利なので大切にしようと思う。
そして翌朝。
昨日よりも少し早く起きた三人は笑顔で美味しい朝食を食べ、リビングの床に腰を下ろした。
この場所に、ちょっと良いテーブルが置かれる日も、そう遠くないだろう。
「付与って簡単だったね」
「うん、簡単~」
「魔術の杖でコンコンッて叩くだけとは、思って無かったよね」
この世界のスキルは、妙に親切設計で分かりやすい
付与も『ギビング』と唱えれば、ブレスレットが杖になり付与の出来る一覧表が現れる。その中から、付与をしたい魔法やスキルを選んでから、対象物を叩けば出来上がりだ。
更に、同じものを沢山作りたい時には『コピー』『複写』『倍増』が有り、しかも、対象によって杖が勝手に使い分けてくれるのだ。
本来は、付与の無い物が『コピー』、付与だけを別の物に移すのが『複写』、付与されている物を増やすのが『倍増』となるのだが、ワードを間違えても、普通に出来てしまうよう合わせてくれるという訳だ。
スキルによって道具が違うのが、唯一面倒な所だが。チャームは可愛いし、増えて行くのも楽しいため、面倒なくらいは気にならない。
「そう言えばぁ。こっちの世界に来てぇ、すぐに拾った石ぃ、あれもぉ精霊なのかなぁ? ってぇ、思うんだけどぉ」
突然切り出した心菜に、亜美奈はようやく自分が石を持っていたことを思い出した。
「確か、ジャージのポケットに入れたんだっけ?」
バッグからジャージを取り出しポケットを漁ると、確かに上着のポケットに石が入っていた。
「ボクも有った。………けどボク、昨日鑑定した時、ジャージも鑑定したはずなんだけど」
亜美奈もだ。
一つ一つ、かなり集中していたから、見落とすというのは考えられないが、確かにあの時、石は鑑定に引っかからなかった。
「ともかく、袋に入れてみようよ」
「そうだね、入れてみよう~」
「私もぉ」
と、入れかけた亜美奈だったが、ふと思いついた事を口にしてみた。
「ねえ、この石で貰えたスキルか魔法を付与して、三人で交換しない?」
「記念すべき初交換って奴だね」
「さんせ~いぃ」
家の周りで得られたスキルや魔法は、きっと三人とも持っているだろうが、高校の近くで見つけた精霊なら、きっとこの辺りとは違うスキルを持っているはず。
「良いのがぁ、出ると良いねぇ」
心菜の言葉に頷き、袋へと石を放り込む。
すると、すぐに鑑定が始まり魔法を持っている事が判った。
「ボクのは『印字』だ」
「私はぁ、『印画』だったぁ」
イラストを趣味とする三人には、どちらも便利な魔法だ。
何しろ家具や道具に、自分の描いたイラストやデザインを移せるのだから。
ちょっとしたデザイナー気分を、楽しむことが出来るはず。
「亜美奈のは何だった?」
「え~と~………」
聞かれて亜美奈は口ごもった。
趣味に合う上便利な二人のスキルと違い、亜美奈の得た魔法は生活密着型で地味過ぎて、二人に喜んでもらえるとは思えない。
もちろん優しい二人は、それでも交換してくれるだろうけれど、亜美奈としては申し訳無さで一杯だ。
「もおぉ、皆が持ってるものなのぉ?」
少なくとも、自分は初めて見つけたものだったので、ここは首を左右に振って置く。
つづく