精霊はガチャですか?
「亜美奈、遅いっ!!」
「の~んびりぃ、何をぉ、やってたのぉ?」
部屋を出てみれば、扉の前に心菜と真鈴が座り込んでお茶を飲んでいた。
日本人は家の中なら割とどこでも座り込む人が多い。特に心菜と真鈴は古民家風の家に住んでいる為か、廊下に当たるのは縁側と呼ばれる場所で、子供の頃縁側は遊び場所だったという。なので余計、廊下に座ってくつろぐ事に違和感が無いのだ。
二人の習慣を知らないミケルは、そんな彼女達を見て肩をすくめ苦笑している。
「私、そんなに時間掛かってた?」
「ボク達の三倍くらい掛かってたんじゃないかな?」
「そんなに? マジックバッグが欲しくて、箱とバッグの鑑定しまくってたから、時間掛かったのかな?」
鑑定する為に腕時計は見たが、あくまで鑑定だったため時間は気にしなかった。
と言うよりも、この世界に来てからずって、時間を気にしたことも無い。
「初めてだと、色々鑑定するのが楽しくなる事有るよね。精霊も楽しかったみたいだよ」
ホラ、とミケルが指さした先には、トカゲのような形になっていた精霊がいた。
気づかなかったが、あれからさらに育った精霊は、手も足も生えて来てトカゲ型になってくれていたようだ。
蛇じゃなくて本当に良かったと、亜美奈はそっと息を吐いた。
「サラマンダー型の精霊だね。あと少しで開放出来るよ」
「意外と育つの早いんですね」
それとも、集中して鑑定したからだろうか。
なんにしても蛇じゃなくって、本当に本当に良かった。
「スキルはぁ、何だったのぉ?」
「料理の基礎スキルだったよ」
「えぇ~っ、何が作れるのぉ?」
一度に沢山は食べないものの、食べるの大好きな心菜が興味津々聞いて来た。
「材料が有ればだけど、目玉焼きと焼き魚と焼き肉」
「焼くだけかよっ」
「Lv1だし」
子供に包丁は持たせられない、とでも言うようなメニュー調整だ。
もっとも、火を使う事だって、子供には危ないのだが。
ちなみにクレープはLv7。作れるのはまだ少し先だ。
「問題が無ければ、このまま外に行くけどどうかな?」
ミケルの提案に、心菜と真鈴の目が輝く。
亜美奈一人が先に精霊を保護してしまったために、二人は興味津々なのだ。
「保護の仕方は、さっき亜美奈がやったから判るよね。場所はこの家が見える範囲で、頃合いを見て迎えに行くから頑張って」
「はいっ」
「判りました~」
「了解っ」
そうと決まれば急がねばと、三人は外へと急ぐ。
部屋に持ち込んだ物は、バッグの中なので問題無い。時間が止まったりはしなくても、結構な量入れても重くならないのだから。
次に保護する精霊は、どんな姿で、どんなスキルや魔法を持っているか楽しみだ。
家の前には、拓けた場所が有る。
家を背にして右手には花畑と東屋が。左手には滝のある泉が有った。
光の球はあちらこちらに居て、目につく方へと歩いている内、二人とはぐれてしまった。
どうせ家が見える所に居るのだしと、亜美奈は気にせず精霊を追う。
精霊には相性が有るようで、手を伸ばすだけで近づいてくる精霊もいれば、追い掛けると逃げてしまう精霊もいた。
近づいて来る精霊だけをノンビリと保護していても精霊は沢山いて、あっという間に一つ目の袋がいっぱいになった。
続けて保護し続けても良いが、得られるスキルはダブってばかりになっているし、ここには三人の他に人は来ないし、焦る事も無いだろう。
初めはガチャガチャのようで、何が出て来るか楽しみだったのだが、出て来る魔法もスキルも、そのほとんどが基礎的な物や、些細な生活魔法ばかりの上ダブりまくりと有って飽きて来ているのもある。
「少し早いけど、ベッドと寝具を造ろうか?」
亜美奈が飽きていることがバレてしまったのか、見に来たミケルが嬉しい提案をしてくれた。
「じゃあ、材料を取りに行くんですね」
幸いスキルの中に、木こりというのが有った。
Lv1なので枝打ちしか出来ないが、しばらくやっていれば細い木ぐらい切れるようになるだろう。
「材料なら、倉庫に用意して有るよ。木こりのスキルを試したいんだろうけど、ノンビリやってると今日も寝袋で寝ることになる」
「なるほど。じゃあ、ベッド作りますね」
寝袋も悪くは無いが、せっかくの自分の部屋が有るのだ、早く家具を置いてみたい。
食器棚を移動するのも一つの手だが、食器はキッチンで使う物だから部屋に持って行っても仕方ない。
となれば、やはり作るしかない。
おそらく二人も同じだろうと、二人を探して東屋の方へと向かう。
すると間もなくして、心菜と真鈴の声が聞こえた。
「もしもだけどぉ。もしもぉ、ラエル達が探してるっていうぅ、神の手を持ってる人達の中にぃ」
「ボク達の兄弟が居たらどうするか、ってこと?」
思わず足がとまる。
立ち聞きは良くないと判っていても、つい耳を傾けてしまう。
「心菜はどうする?」
「わかんないぃ。けどぉ、亜美奈は地元の人じゃないからぁ、私達しかぁ居ないじゃないぃ?」
「うん、そうなんだよねぇ」
「家族になれればぁ、ってぇ、思ったんだよぉ」
「うん………」
「思ったんだけとぉ……… 本当の家族とも行きたくってさぁ」
「うん、ボクも同じ」
困ったね、と二人が笑い合う。
それは、今にも泣きだしそうな笑顔だった。
おそらく亜美奈も今、同じような顔をしているはずだ。
二人の優しい気持ちと、家族と居たいという思いが判ってしまうから、どうしたら良いか判らなくなる。
とはいえ、今現在の問題は、どうやって二人に声をかけるかという事だ。
一旦別の場所に移動して、さも今来たような顔をして出て来るのが良いのだが。ここから気付かれないよう、離れる自信が無い。
さて困ったと悩む亜美奈の肩を、ミケルが叩く。
周りの草木を揺らさないよう、そっと振り向いてビックリ。そこに扉が有ったのだ。
なるほど、いったんあの部屋に入って家に戻り、そこからここに向かって来ようと言うのかと、ミケルに続いて扉の中に入る。
ちなみにあの部屋は、同じ扉から入っても別々の部屋にたどり着く、らしい。
まだ試した事が無いので自信はないが、確かにミケルはそう言ってた。
だから当然、途中でミケルが見えなくなるのだろうと思っていたのに、いつまで経ってもミケルは目の前に居て、気付くと見知らぬ建物の中に居た。
「ここ、どこですか?」
「倉庫兼工房だよ。一階に道の出入り口が有るんだ」
「道、ですか?」
「行った事のある場所なら、どこにでも行けるし、ここに戻って来る事も出来るから便利だよ」
「もしかしてミケルさん、いつもこれでお家に帰ってるんですか?」
「もちろん。普通に飛んでたら、帰り着く前に夜が明けちゃうからね」
道。
どこにいてもここに帰って来ることの出来る、特別な道。
これが有れば、少しだけの寂しさだけで、二人を送り出してあげられるかもしれない。
この家を三人のための場所として残しておけば、いつでも会うことが出来るから。
「では、スキルの使い方を説明するよ」
倉庫兼工房の二階で、揃えた材料を前にそれぞれ立つ。
テーブルの一つも無い、ただ広いだけの部屋でどうやって作るのだろうか。
「魔法や魔術系のスキルは、腕に付けてる杖で発動するけど、それぞれ道具の有るスキルは、まず誓いを立てて使えるようにしないと行けない。今回は大工だから、トンカチかノコギリを出して、そこに書いてある文字を読み上げるんだ」
バッグに付いたチェーンから、大工のチャームを外し文字を探す。
亜美奈の大工道具はトンカチで、文字は持ち手の部分に書いてあった。
「皆の笑顔のために、このスキルを使うと誓います。大工師」
読み上げたと同時に、目の前に大工道具が現れた。
板を切る電動鋸と電動カンナ、そして作業台だったが、一見電動に見えるそれらはおそらく魔動なのだろう。
何しろこの世界に、電気は無い。あるのは魔法だけであり、すべての便利道具は魔法で動く。
まだその仕組みははっきりとは判らないが、それがこの世界のルールという事なのだから。
「亜美奈のだけ、どうして電動なの?」
遅れてスキルを起動しまた真鈴が、不思議そうに聞いて来る。
真鈴と心菜の方を見れば、なるほど二人とも昔ながらの大工道具が揃っていて、亜美奈と同じ物は作業台だけだった。
「スキルの種類の違いだね。同じ大工でも、建築と工芸があるんだ。亜美奈のは家を創る事がメインの『建築』、二人の大工は、家具や採取の道具を造るのが得意な『工芸』」
「確かに、家を造るのに普通のノコギリでギコギコしてたら、凄い時間掛かっちゃうから、電動で当然だね」
「真鈴の言う通り。そのスキルは付与することで交換できるはずだから、後で交換すると良いよ。ただし、」
「「「等価交換でっ」」」
つづく
ちなみに本日の収穫は
スキル(全て基礎スキル)
料理・大工(建築)・大工(工芸)・皮革工芸・ガラス工芸・石工・裁縫・木こり
魔法
着火・飲み水・送風・乾燥・穴(小)・波(小)・収集(小)