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今時異世界図鑑 出発?

 この角を曲がれば校門が見える。

 やっと終わりだ。

 そう亜美奈が考えた時に、それは起こった。



 どこの学校にもかなり高確率で存在する寒中マラソン大会は、当然のようにこの三つ葉学園高校にも存在する。

 農業と畜産がメインの、普通科は各学年に一クラスずつしか無い高校で、マラソンなどしなくて良いだろうというのは、もちろん勝手な言い訳にしか過ぎないことは判ってる。

 それでも嫌いなものは嫌いなのに、たった今その大っ嫌いなマラソンが、行われている最中だ。(大切な事なので繰り返した上に大を付けて言いました)

 亜美奈が大っ嫌いなこのイベントも、あと少しで終わりだと、地面にへたり込みながらもホッと息を吐いた時だった。


「こらこら、校門入ったら直ぐコールだぞ」


 声をかけて来た教師も、笑いながらしゃがみ込む。

 訓練してない一般人に、いきなり十五キロ走れとか無茶なんだよ。

 胸の内で毒づいて。


「先生もへたってるじゃん」


 笑い返す。


「一分だけ休憩。そしたらラストスパート、行くぞ」

「え~、五分欲しい」

「や………、さすがに休み過ぎだろ」

「でもさぁ………、………?」


 不思議な感覚だった。

 地面の下の方で、何かが爆発したような。

 いや、破裂音がしたとか、揺れたとかいう明らかな何かが有ったわけじゃ無かったけれど、なぜかそう思った。


 なんだろう、今の。


「亜美奈~っ!!」

「ねえ、亜美奈、今なんか変じゃなかった?」」


 後方から近づく友人達。

 ヘタレ三人組と、あまり有り難くないあだ名で呼ばれてしまっている、友人と言うよりも同士といった方が良い二人だ。

 学校の中だけでの付き合いだが、それなりに気は合う相手だと亜美奈は思っている。

 その彼女たちも、今の感覚に気付いたのかもしれない。

 聞いてみようかと思った瞬間。

 足元が無くなった。


 バラエティ番組で時々見るような、スイッチで開く落とし穴。そんな穴に落ちたかの様な感覚で、四人は落ちていった。

 実際には穴なんて無いのに、どこまでも落ちていく感覚は無くなってはくれない。

 足元を見れば地面が有るというのに、なぜ落ちるのだろう。

 おかしいだろう、これは。

 なぜ。

 どうして?






 落ちた先は異世界だった。

 たぶん。


「う~ん、シュールだ」


 呟いたのは大野 真鈴。

 いわゆる『ボクっ娘』という奴で、高校を卒業するまでには、女言葉に直すのが目標だそうだ。

 すぐに直さないのは、高校生までは子供の内だから、多少は大目に見てくれるはずだし、羽目を外しておきたいのだという。

 もう一人は西浦 心菜。

 心菜はいつもノンビリで、言葉もボヤ~と伸びている。けれど、あれで意外と鋭い所が有るから、何かあった時には信頼できる友達だ。

 それから忘れてはならない、主人公の平野 亜美奈。

 どこにでも居る、普通の高校生。すこし夢見がちな所は有るが、個性と呼べるものがすぐに思い浮かぶような少女じゃなく、いたって普通な女の子だ。


 それはともかく。なぜ異世界だと判ったかと言うと、ついさっきまで道の反対側に有ったのは、マンションだった。

 校門だけは住宅街に面した高校の、その塀沿いに居たのだから建物以外に見えるものが海だなんて事が、有って良いわけが無いのだ。

 無い、のだが………


「海が見える」

「あっちぃ、山が有るよ~」

「あの川、山から流れて来てるのかな?」

「だとしたら、飲み水は確保できるね」


 真鈴と心菜と亜美奈の三人。ほんの少しの安心を求めて、辺りを見回した。

 水が有れば人間、一週間は生き延びる事が出来るのだと、以前聞いたことが有る。

 幸い亜美奈達の通う高校は、農業・畜産部門の有る高校のため畑や家畜舎が有る。

 こちらの世界に敷地内のどの辺りまで来ているか判らないが、校舎付近だけだとしても作物の種は多少有るだろう。

 作物が実るまでは、海や山で頑張って狩りや釣りするしか無いだろうけれど、人海作戦で何とかなりそうな気がする。

 山と言っても名前の有るような高い山でなく、道さえ有れば頂上までココから一時間も掛からないような、里山と言った感じの大きさだから遭難も無いだろう。

 みんな一緒だから大丈夫、と思いたい。


「さて、行くか………」


 立ち上がった教師は、遠い目をしていた。

 こんな所に来てしまっても教師は教師であるため、おそらくだが責任は彼らの方に押し付けられる事になるのだろう。

 申し訳ないとは思うが、頼れる大人が目の前に居れば、頼らずにいる自信は亜美奈にも無い。


「先生、頑張れっ」


 苦笑いを返され、亜美奈はふと手の平を見た。

 石が有った。

 突然、何かが落ちて来た感覚が有り見てみた所、石が手の中に有ったのだ。

  

「亜美奈も?」

「真鈴も石?」

「私もだよぉ」


 三人、色は違うが大きさの同じ宝石と言って良い石を見せ合った。

 亜美奈は黄色、心菜はピンク、そして真鈴は黄緑色の綺麗な石だ。

 一体何なのだろうとは思ったが、日に照らされてキラキラ光る石は気に入った。

 ここは、多分だが『異世界』という奴なのだろうから、貰っておいてもきっと問題ないだろう。

 それより今はみんなが集まっているらしい校庭に急いで、これからの事を聞く方が大切だ。

 亜美奈は心菜と真鈴を急かし、教師の後を追い校庭へと急いだ。






                     つづく

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