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その後、人間の姿に戻って校舎に入るが、すれ違う人すれ違う人に随分と直接的な視線を向けられていることに気づき脚を止めた。
何故かと頭を傾けた、その瞬間首元からチャリという金属音がして、ようやくその理由にたどり着く。
「にゃっ!」
思わず猫の様な声を上げると、すぐさま首元に手を当てた。
首にあったチョーカーを慌てて外すと、手のひらの上で王家の紋章、しかも王子とお揃いのものがきらめいていた。
気を失ってしまいたいくらい恥ずかしいが、ここで倒れてはまた変な噂が流れてしまう。
私は真っ赤になったであろう自分の顔を下に向かせ、その場から去るために下品にならない程度、しかし、自分の持っている力の全てを出し切り、最速で歩いて逃げ去った。
人気の無い所へと行くと熱い顔面を手で覆い、言葉にならない声を出す。
こういうこと時何と言ったのかしら…穴があったら入りたい?
私の場合は「猫になりたい」だわ。
そう思うとポンっと音が鳴り、私は猫の姿になっていた。
あー嫌だった!!
いつものように自画自賛の美しい毛並みをペロペロと毛繕いして心を落ち着ける。
もう、忘れよう!
猫は他人の失敗は決して忘れないけれど、自分の失敗はすぐ忘れてしまう生き物なのだ。
王子の婚約者として失敗出来ずにいた私からしたら有り得ないこと。
でもそんな今の自分の方が好きになれているから不思議である。
みんな猫猫騒いでいるのは気に食わないけれども。
温かな日差しに当てられていると、嫌な気持ちも忘れてウトウトと気持ち良くなってくる。
寝ている間にまたストーカーらしき手が私の美しい毛を撫でているが、悪くないのでまあ許そう。
仮面を貼り付けたようなつまらない王子の婚約者は、いつの間にか王子に寵愛され、恥じらう姿は王子にしか見せない貞淑な女性だと噂が流れたとか、流れてないとか。