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首輪が無くとも王子の愛猫だと知れ渡った私は安全を確保しつつ、王子との接点を作りに近寄ってくる人間に思いっきり威嚇をする日々が続いた。
そういう奴に限って上から触ってくるし、最悪なのだ。
猫パンチは爪を隠すけれど、奴らの制服には思いっきり爪を立ててボロボロにしてやった。
おかしなもので、噂話の類は全く気にならないのに、見下された視線は瞬時に感じ取れるのだ。
それは人間の時も同じだったが、人間の萎縮するような気持ちはなく、猫になるとすきあらばやり返そうとする攻撃的で執念深さがある。
「にゃーん(全員許さん!)」
そう意気込んでいると、何やら重たい空気の王子と出くわしてしまった。
元はと言えば、こいつの行いのせいである。
何が一言言わねばと王子の足元に近寄った。
「にゃーん(馬鹿)にゃぉーん(アホ)にゃむにゃーん(ポンコツ)」
一言言わず、スラスラと罵倒の言葉が出てくることに調子つき、更に罵倒しようとした瞬間、王子はベンチから降りて跪いて私を抱きしめた。
「にゃっ!?」
「…許してくれるのか?」
「にゃお!(違う!)」
「そうか、ありがとう!」
「みゃお!(だから違う!)」
話の食い違いと抱きしめられる不快感から怒りの頂点に達した私は、王子の頰に牙を剥く。
やっと離れられると、心を落ち着かせるために丹念に毛繕いをした。
あー嫌だった。
尻尾はまだ嫌だった名残でペシペシと地面を叩いている。
「すまない…もう君から嫌われたと思うと…」
いや、最初から嫌いですけど。
大きな身体で涙ぐむ王子に無慈悲な言葉を投げつけた。
全然伝わってないから助かっている部分もあるけれど、本当に全然伝わってないのもむしゃくしゃする。
「改めてこれを受け取ってくれないか?」
王子が前に見せてきた首輪を取り出す。
まぁ、受け取ってあげない事もないけど。
その首輪は私が学園内で好き勝手するための許可証のようなものだ。
王子の太ももに前足を乗せ、「にゃー」と催促する。
「か、可愛い!」
また王子が抱きしめてきたので次は最初に噛んだ頰とは逆側に噛み跡をつけてやった。
「すまない、可愛すぎて…」
そんなのわかってるわ。
新しい首輪を付けて、どうかしら、と王子に見せようとしていると、その奥から溢れ出す殺意に気がついた。
「…それは仮の、ですからね?ただ今取り寄せているピンクダイヤが手に入ったらすぐにでも新しいものを作ってお渡ししますから。」
従者の顔はホラー小説の挿絵のごとく不気味な異彩を放っている。
「にゃー(それより顔をどうにかしてよ!)」
「楽しみにしていてくださいね。」
「にゃお(こっちも会話が通じない。)」
私と従者のやり取りに嫉妬した王子も黙ってはいない。
「ふん。ピンクだと?ここは彼女の美しい瞳と同じブルーだろ。」
確かに王子のくれた首輪には澄んだブルーの石が使われている。
しかし、まぁ、どっちでもいい。
「彼女をきちんと見ていない証拠ですね。彼女の愛用のチーフはレースのあしらわれた薄いピンク…彼女は可愛いものが好きなんですよ!」
「なん…だと!」
従者の気持ち悪い人間観察に王子は衝撃を受けたようにポカンと口を開け、私もドン引きして口が開いてしまった。
「殿下など尻の軽い雌犬がお似合いですよ!私の未来の妻に色目を使うのはやめていただきたい!」
未来の妻?誰が?
こんなやつの妻になったらと思うとひたすら鳥肌が立つ。
い、や、だ!
「私の婚約者だ!」
「尻の軽い雌犬に夢中だったくせに!」
「雌犬とは?」
「あの男爵令嬢ですよ!」
「はぁ?あいつはただ懐いてきただけで…」
「顔緩んでたくせに!」
「はぁ?いつ顔が緩んでたんだ?」
「本来なら遠慮すべき所まで気を許してだじゃありませんか!一つずつ言いましょうか?」
総じてキモい。
私はその一言でまとめて、その場を去っていく。
騒がしいのは嫌い。
だって猫だもの。
短編予定だったので名前は考えてなかったのですが、あった方が良いとのことなので、募集したいと思います。
心の中で主人公ミア、王子ポアン・コツォーネ、従者トルネコ・グルーイ、と呼んでいたためいい名前が思いつきません!
まともな名前をつけたいので是非ともよろしくお願いします。