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「話をしよう!」
私が人間でいる数少ない時間帯を狙い、登校時に王子はズカズカと私の前に現れてそう言う。
王子は挨拶もせず、勢いで私の手を握ろうとするので、サッと手を引っ込めた。
露骨な拒否にやってしまったと思うが、王子は怯んだ様子もない。
「何か?」
相変わらず、人間の私は簡素で冷たい言葉を投げつけてしまう。
だって、人間の姿の時に王子とどう関わったらいいのかわかんない。
「私は婚約者として、将来君と結婚する立場として、君のことを知りたい!」
ハキハキとした王子の声は校門の前で響き渡り、恥ずかしくて頭に血が集まっていくのが分かる。
なんで今更こんなこと…
私が猫だから?
私が猫じゃなかったら興味なんて持ってなかったし、あの可愛らしい子と今もイチャイチャしていたんでしょ!
人間の姿であっても私の心の中にひっそりと住み着いた猫が悪態を吐く。
眉間にシワを寄せてしまいそうになるのを堪え、人間の私が今まで貴族として、王族の婚約者と言う立場から培ってきた技術を結集させて涼しい顔で微笑んだ。
「ええ、分かりましたわ。折り入ったお話はまたの機会に。」
公衆の面前からさっさと解放して欲しい、そして行けたら行くわ(行かない)精神でできたらすっぽかしたい。
そんな空気を読まずに王子がまた私の手を掴みにかかるので、私はまた同じように手を引っ込めた。
その光景は口説こうとする男とそれを拒絶する女の構図なのに、王子が引く気配はない。
猫と前足掴みっこ遊びをしているとでも思っているのだろうか。
「今がいい。」
「授業はどうするのですか?」
ほとんど出ていない授業を言い訳にしてでも逃げたい、そのことを察して欲しいと王子の目を見つめる。
「そのことなら問題無い。以前の分も含めて先の王妃教育だと言ってある。」
用意周到、というか以前から言ってあるなんて粘着質っぽい。
もう前のように無視していいから構わないで欲しい。
「…わかりました。」
了承した途端差し出された王子の手のひらを一度見てから、その手を取る。
まるでお手をさせられている気分だ。
猫だったら爪を立ててやるのに。
でも、猫だったら王子はデレデレとした気持ち悪い顔を浮かべそう。
繋がれた手が繋がれた首輪の様な気分のまま、裏庭の奥のベンチへと連れて行かれてしまった。




