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私は微笑み合う男女の姿を校舎の窓から見ていた。

そしてズキズキと痛む鳩尾に苦悶の表情を浮かべ、その光景から目をそらすように瞼を閉じる。

表情豊かな仔犬のような少女とそれを見守る見目麗しい王子様。

その光景が瞼の裏に焼き付いて、更に私を痛めつける。

当人の感情など関係なく結ばれた婚約に夢希望を抱いていた訳ではなかったが、それは王子の婚約者である私の立場を確実に貶めていた。


本当に可愛いらしい子…


大きくてクリクリとした瞳は表情豊かで同性の私から見ても男達が虜になる気持ちが分かる。

対して貴族のご令嬢はいつ何時も揺らがない精神と表情、そして慎ましさが求められる。

私があの子のようになるのは無理なのだ。

仔犬のようなあの子になれないのなら…せめて私は猫になりたいわ。

自由気ままでわがままだけれど愛される容姿の猫に…

釣れない性格の悪さもあの見た目ならば隠せるかも知れない。

ふと自分を嘲笑うと、ポンっとシャンパンのコルクを抜いた時のような音がして、我に返って周りを見渡す。

少し下を向いて見つめていた花瓶は、今は見上げないといけない位置にあり、その他の全ての家具もまた巨大化していた。

何かしら?

椅子から降りると、何故か自分が自然と四足歩行になっていることに気づく。


「(なっ…)にゃっ?」


にゃっ?

手元を見ると白く長い毛に覆われている。


「にゃぁ!?(にゃにー!?)」


確信は持てないが、多分…恐らく、自分が猫になっていることに気づく。

パニックになった私は毛を逆立て部屋の中を駆け巡った。

そして冷静になってからも気づくことがある。

このまま猫として人生を送るのかもしれない、それは今の自分の状態よりはいいし魅力的だからいいが、その前に閉じた扉をどうするべきか迷った。

周囲の視線から逃げるように確保した学園内の小さな部屋の中…このまま毛むくじゃらのミイラになるのかな?


「ナー…」


鈴の音のような猫の声が部屋にこだまする。

と、次の瞬間、扉が開いた。


「にゃあ!(え、やだ…)」


扉を開けた人物はつい先程まで婚約者ではない身分の低い令嬢と戯れていた王子、その人だった。


「やっぱりいた…」


王子の声がまた体中の毛を逆立てる。


「外に出してやるから、こっちに来い…」


子供に言い聞かせるような甘い声と自分より大きな生物が目の前で迫ってくる恐怖に腰が引けて、今にも逃げ出したくなった。

しかも、自分の立場を陥れた張本人…心を許す気はさらさらない。

逃げようと後ろ足を動かそうとした瞬間、体が宙に浮いた。


「猫は正面から詰め寄られるのが嫌いなんです。やめてください。可哀想でしょう?」


宙に浮いていた体が丸く整えられ、すっぽりと人間の腕の中に収まった。

王子の補佐役、その彼が私の体を抱きしめていたのだ。

人間の意識のある私は恥ずかしさから逃げ出そうとするも、ガッチリと腕に挟まった体は言うことを聞かなかった。

それどころか、彼の手は私の顎や喉に伸びて行く。

人間ならばすぐに拒否できる行為なのに猫の体はその指を求めるかのように擦り付き、ゴロゴロと喉を鳴らす。

ダメ…ダメよ…人間として…


「あっ…」


ポン、とまた音がなり、声が出たかと思い目を開けると、そこには王子の補佐役から抱きしめられ、喉を撫でられながらはしたない声を出す自分がいた。


「キャァァアア!!」


今まで出したことの無いような悲鳴を上げ、一目散に逃げる。

何?なんなのっ!?

誰もいない学園内の裏庭に着いた頃には息が上がり、走り慣れていない私はその場に座り込んでしまった。

夢…そうよ、私は夢をみていたのよ!

受け入れられない日現実的な出来事を夢だと思い込むほかなかった。

・特に若い猫は興奮すると毛を逆だてて走り回ることがある。

・初対面で猫に触れる時は正面、上からだと警戒するので、基本的に横から触れる。指の匂いを嗅がせると特にいい。

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