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「……あっ、おいしい」


ひと掬い、口に運ぶと自然と声が出た。


野菜・鶏肉・大豆をトマトソースで煮込んだ料理。

似たようなものを小学校のころに給食で食べた気がするがそれに比べて野菜の味が濃く感じる。


「あっはっは、口に合ってよかったよ」


作り主――デキシーさん――はいい笑顔を見せてくれた。


あの後、そのままデキシーさんの家に連れていかれて昼食をご馳走になっている。

一応は遠慮したのだが……


「ありがとうございます。でも、帰ってもう一度ギルドへ行く準備をするので結構です」


と言ったら


「そうかいそうかい。んじゃ、短時間でちゃちゃっと食べられるものをごちそうするよ」


そのまま半分連行されたかたちだ。


「で、大丈夫だったかい?真面目なやつも多いけど、中には言葉巧みに騙くらかす輩もいるからねぇ。不快に思ったことがあるなら今のうちに言っときな。今のマスターには顔が利くからねぇ、もう一度ギルドに向かうときはきちんとしたのに担当してもらうよう伝えとくよっ」


単純に心配してくれてたんだな。

マジ、デキシーさん神っす。


後2周りほど痩せてて20歳以上若くて美人だったら好きになっていたかもしれません。


「ん?どうしたんだい?」


あ、やべっ。


「いえいえ、今回担当いただいたのがそのガルフコーストさんで……」


誤魔化すようにギルドでのやり取りを話す。

特例でギルド税免除とマンツーマンで取り扱う商品のことは除いて。


「じゃあ、後は店舗探しというわけだね」


食器を漬け置きようの水桶に放りこみながら聞いてくる。


「はい、ガルフコーストさんに不動さ………空き家の紹介所を教えていただいたのでそちらに向かおうと……って出かけるんですか?」


二人分の食器を放り込んで玄関へ向かうデキシーさん。


「ほら、なにしてんだい。ガルフの教えたトコなんてギルド加盟の寄り合い所みたいなもんだろ。それより、あたしの顔の効く紹介所に連れて行ってあげるよ」


「え、ちょ。……ちょっと、デキシーさん。待ってー」





「いらっしゃいま……げっ。いえ、いらっしゃいませ、デキシーさんお久しぶりです」


薄暗い小さな建物の中、黒丸の眼鏡に少し後退した茶髪のおっさんが一人、何やら新聞のようなものを読んでいた。


「やあ、フォッス久しぶりだねぇ。なんかあたしに文句でもあるのかい?」


「い、いえいえ。最近新しいお客さんを紹介してこなくなったなぁと思いまして」


汗をぬぐうフォッスさん。


「そうかい。それじゃ、いいところに来たね。フォッスお客さんだよ」


背中をドンッと叩かれ一歩どころか二三歩前に踏み出す。


「えっと、デキシーさんに物件を紹介いただけると聞いて………。私、真崎 隼人と申します」


「うん、よく来てくれたね。私はフォッス、近辺の住居を紹介させてもらっているよ」


挨拶にと握手を交わす。

デキシーさんはウンウンと横で頷いていた。


フォッスさん、苦笑い気味なのは気のせいじゃない気がする……。



まず、賃借について詳しく聞いてみたところ日本の賃貸人の義務・賃借人の義務はほぼ似ている。

修繕費に関してのみが一部違っていて賃貸側ではなく折半が一般的らしい。


どうして銀行屋が物件の賃借まで知っているかって?不動産の売買だったけど、どこかのくそ禿げ上司が契約に必要だからと言って学ばせられたのに、不動産会社から宅建(宅地宅建取引主任の略)の資格の人が全部煮詰めて契約書まで交わしていたので


「えっ、課長にその仕事(契約)は自分がするようにって指示されたのですが……」


って聞いたら


「資格取得して知事へ登録していないと契約内容の説明や契約はできませんよ」


と言われたことがあるので半分怨念みたいな形で記憶に残っているのだ。


っと、いかん。

聞いてなかった。

あの禿げ頭を思い出すとどうもマイナス方面の思考に包まれる。


途中から聞きそびれたと謝り、説明の続きに戻る。


敷金はないが家賃を3ヶ月前渡しするのが普通らしい。

翌月からも月毎に支払いは継続。

支払いが滞り、前渡し分の家賃をすべて消化してしまった時点で賃貸側は賃借側に契約を解除―――つまりは強制退去―――させることができるみたいだ。


そのほかも細かな取り決めがあるが紙面の都合割愛させてもらう。

作者が言うには

《読み直したらおまけにも使えず本編に関係のない内容が10行ちょい続いてたから全部消した》

らしい。

作者って誰だ?


「3ヶ月先払いなら……5~7千ジル(GILLE)程でなるだけ中心街に近く立地が良い一軒家を紹介してもらえると助かります」


ギルドで買い取ってもらった額が2万6千ジル(今更だが、ジルはこの世界のお金の単位)。


先ほど聞いた5人家族の生活を考えると、家賃は5~6千くらいだろう。


登録すれば一軒家をそのまま店舗扱いにできるみたいなので、小さくてもいいから一等地近辺の物件をと思っていた。


少し前に意味不明なことを考えていたせいか、その発言にデキシーさんとフォッスさんが驚いていたのには気づいていなかった。


後日知ったのだが土地に対して人口の少ないこの世界では土地の代金はかなり安いみたいだ。


逆に、現代では機械が活躍する部分。

つまり、労力のかかる生産分野の代金がかなり高い。具体的には食費や明りだ。

ギルドで例に挙げられた借家で5人家族(子供3人)だと目安としてはこんなものらしい。


1ジル=10円として日本円換算で


食費11万(日本の2倍)

家賃2万(日本の3~4割)

水利1万(街中のみ。水利の税も含む。田舎のほうのつるべ井戸だとタダ)

衣類1万

雑貨・消耗品2万(薪・ランプ油等含む)

その他3万(教会費3千→学費に相当。等含む)

余れば貯金。


生活に必須の食糧・水・明りで家計の7割ほどを占める。

必然、生活の場は集積所から離れた地価の低い場所へと追いやられるので中心街に住居を構えている人は必然と金持ちだということがわかるのだ。


フォッスさんが口を開く。


「うちはご覧の通り、小さなしがない長屋の鍵貸しなのでそんな一等地の一軒家なんて物件は………いや」


何か気づいたようにデキシーさんを見る?


「ん?顔に何か付いてるね?」


「いえ、そういえば一軒だけ大通りの近くに紹介できそうな家があったなと……」


「そうかい。じゃ、さっそくそこに向かうかね」


デキシーさんがいの一番に出ていく。

フォッスさんと自分は急いでそのあとを追いかけた。





「ふむ」


デキシーさんがつぶやいた。


「少々足が出るのですが希望に合った条件でうちが照会できる唯一の物件になります」


そう紹介された建物は、自分もすでに見覚えのある場所だった。


大通りに面してはいないものの、歩いて10mちょっとで大通りに出る立地条件。

一軒家で二階建て。

土地の広さも十分で既に中の掃除はほぼ行き届いている。

その一軒家の扉には、このような張り紙が書かれていた。


『貸し物件 一戸建て 広さ240m2 料金応相談 オードロー・デキシーまで』


フォッスさんがちらりとデキシーさんを覗いていた理由がよくわかった。


「こちらの建物………デキシーさんよりお預かりしている貸家になるのですが、デキシーさん(いらいぬし)より、希望額は月当たり旧金貨2枚からで細かい値段は応相談とのことでしたが……」


かなりデキシーさんを気遣うフォッスさん。

デキシーさんが強すぎるのか何か弱みでも握られているのか……。

できれば前者であって欲しい。


「ハヤト、そういえば今朝方もこのうちをながめていたね」


デキシーさんが聞いてくる。


「はい。感じのいい家だなーっと思って見ていました」


最初にごまかした嘘がここまで引っ張られるとは思ってもいませんでした。


「……………うん。よし、決めたよ。ハヤトよければウチを使うかい?」


そしてなし崩しに決まりそう……。


自分はNo!と言える日本人。


自分はNo!と言える日本人。


よしっ!


「いい場所だと思いますけど予算を超えちゃいますので今回は候補として……」


「なぁに、諸々込みで月5千でいいよ。それなら大丈夫なんだろ?」


「あ、はい」


「なら決まりだ。フォッス。ちゃっちゃと契約を交わしてくんな」


あ、一瞬で決まりました。


「フォッス、家賃が半分になったんだからあんたの分の手間賃も半分だからね」


「えぇ~、またですか~。わたしも生活かかっているんだから無茶ぶりはやめてくれって言ってるじゃないですか」


「場末の親父がなーにしょぼくれた事言ってんだい。管理する空き物件が減って毎月の酒代が増えるんだ。いいことづくめじゃないかい」


そして、仲介代の値段交渉が堂々と行われている。

というか、デキシーさんの言い分が一方的に決まりそ………決まったな。


がっくりと首を垂れるフォッスさん。

ご愁傷様です。

と、じろりと見上げてくるフォッスさん。


「ハヤトさん、だっけ。あんたも商売を始めるんだってな。そのうち、たちの悪いのに捕まったって後悔することになるぞ。俺のようにな」


小さく低い声で忠告してくる。


「フォッスー、なぁにこそこそ話してんだい。先に仕事をしちまいな」


「あいよっ、ハヤトさんに最終確認取ってた所だよ。直ぐ終わらせらぁ」


結局中を確認することもなくその場で契約を交わし、3ヶ月分+今月分の旧金貨4枚を払い………


「フォッス、契約日とあたしがサインした契約書を来月の頭にできるかい。できるって?それじゃ、来月頭に契約を交わしたことにしといてくれ。ハヤト、なにかと入用になるだろ。この契約書を交わすのは来月なんだ。今月分の家賃を貰うわけにはいかないから旧金貨これは返すよ。浮いた分で必要なものを買いそろえなっ」


払ったはずの金貨1枚と家の鍵束を預かった。


「最低限の家具類はそのままだから勝手に使っていいよ。ベッドもあるから今日から使いな。宿代の節約だね、はっはっは」


豪快に笑いフォッスさんと帰っていくデキシーさん。

自分はそのまま家の確認をと一人残された。

二人は当面、形式上の書面や金銭のやり取りがあるので事務所に向かうとのこと。


「なにか困ったことがあったら私に言いな。じゃあ、本格的に開店したら酒でも持って冷やかしに行くよ」


と不穏な言葉を残し去って行く。

フォッスさんが(デキシーさんから見つからないように死角で)こちらに向かってご愁傷様と両手を合わせ一礼してきた。



鍵を開け………と思ったら自分が開けてました。

開いたままの家に入り鍵を閉める。


部屋や設備の確認もせずにそそくさと2階に上がりクローゼットの部屋に入る。

開けられたままのクローゼットは商会の事務所とつながったままだったので一安心。

事務所のほうに戻り、扉を閉めようとして………事務所の机や木の板などで戸が閉まらない様に固定する。

このまま閉めたらまたどこにつながるかわかったものじゃない。


夕日が差し込む部屋の中、外から流れてくる夕焼け小焼けのメロディーで土曜一日を知らない世界への旅行でつぶしたことに気付く。


事務所を閉めながら、事務所こことデキシーさんの家の鍵をもっと頑丈なのに換えとかなきゃと考えた。


夕飯について考えるのは面倒だったので、彩綾が帰ってきたら外食で適当に済まそうと決めて部屋のソファーにダイブ。


よほど疲れていたのか直ぐに睡魔が襲ってきて、彩綾に蹴り落とされるまで熟睡してしまっていた。



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