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待つこと数分、受付の女の子が立派なひげを蓄えた年配の男性を引っ張ってきた。


「おじいちゃん、早くー。あ、よかった。ハヤト様、お待たせいたしました。こちら、シルイット商業ギルドのギルドマスター、ガルフコーストです」


一部、ん?っと思う発言があった気が……。

まぁいいか。


「はじめまして、ご紹介にあがりましたガルフコーストと申します。気軽にガルフとお呼び下さい」


「はじめまして、真崎 隼人と申します。わざわざトップの方にお越しいただきありがとうございます」


「いえいえ、この娘は頭の回転は速いのですが代わりにちょっとそそっかしいところがありまして……、ご迷惑をおかけしていないといいのですが。急に引っ張られてきたのであまり詳細が分からないのですが、なにやらミスティでは価値の測りきれないものばかりを引き取ってほしいだとか……」


受付嬢の名前ミスティって言うのか、今頃知ったよ。

自己紹介すっ飛ばしてたんだろうな。


「いえ、細かに説明してもらえて助かりましたよ。できればこの街に落ち着きたいと思ったのですが何分手持ちの方がないので、当座の資金用に手持ちの品を買い取っていただければと思いまして……」


ミスティに見せたのと同じように火をつけ、紙に文字を書き、最後にそれを切り取る。


「…………なるほど」


おっと、そういえばデキシーさんに食料品の取り扱いも需要があるといわれてたっけ。


「あ、後。先程は出すのを忘れていましたが食料品や調味料関係も取り扱っていたのでこんなものも持ってきております」


調味料、食料品、そしてビールを取り出す。


「…………なんと」


「………すごい」


こっちの方が一部反応良かった。

慢性的に食糧か調味料が不足している……いや、注目されているのは砂糖と胡椒?


「いやはや、ミスティではこの案件は重すぎるな。ハヤトさん………でしたな」


ガルフコーストさんが声をかけてくる。


「まず、このハサミとライターですが画期的であるのは間違いありません。しかし、そこまで高値をつけられません」


普通の人は基本的に火付け石なんかで普段の生活を行っているらしい。

稀に適性のある人が火の魔法を使うのだとか。

彼らには重宝するだろうが、生活に困るほどではないがそこまで裕福ではない人々が新しい高価な消耗品を買えるかと言ったらそうではない。

逆に裕福な家では召使を雇うことが一般的で、給金から考えてわざわざ利用することもないだろうとのこと。

ハサミも用途の広い小刀の代わりに普及も難しいとのこと。


うん、軽く出てきた『魔法』って言葉はスルーなんですね。


「どちらもダンジョンに挑む冒険者なんかには多少需要があるとは思います。価値だけで見れば少なくとも銀貨20枚はあるかと思いますが、ただ、その額面で需要があるかと問われると売価を考慮しても1つに銀貨1枚、売価で1枚と(銅貨が)50で買い手がつくかどうかでしょうなぁ。ハヤトさんや知り合いに冒険者稼業の方がおりましたら直で交渉する方をお勧めします」


技術の研鑽は100円ライターに2万円の価値を見出すらしい。

これはデキシーさんに会えた時にお礼として渡すにはいいかもしれない。


「それより……この砂糖と胡椒。この商品を取り扱い頂けるのであれば特例を出してでも店舗を構えていただきたいほどです」


こちとら小銭数枚で買える市販の砂糖と胡椒なのだが……。

後ろでミスティもうんうんとうなずいている。


「王室御用達の砂糖でもここまで精製されているものを見たことはありませんし、胡椒もここまで粒が大きく品質が均一に揃ってるものは初めてです」


塩や粉製品には触れられず。

生活必需品に関してはそれなりに供給の安定化はされている様だ。

後、ノートとペンも好感触だった。


「我々商人の記帳もかさばらずに済みますし貴族様も領内の報告書等記録に重宝するでしょう。騎士や冒険者の武器や防具は毎年のように質の良い新作が出来上がるのに、我々の武器である羊皮紙とペンは百年前から変わっていないのです」


少し悲しそうにうつむく。


「で、買い取りの方は?」


落ち込んだように見せる演技かと思うほど切り替えが早い。


「………そうですね」



しばらくガルフコーストさんと話、買い取りと以下の取り決めを行った。


1、開店資金のために砂糖・塩コショウ・粗挽き胡椒をギルドに売却する。


2、特例として新規登録・今年度年間ギルド登録料・今年度追加する取引商品・1店舗運営のギルド税を免除する。


3、特例の代わりに今回持ち込んだ品質の砂糖・胡椒は今年度ギルドに独占販売とする。


4、ギルドは商品の仕入れ先を検索しないよう厳重に情報を管理する。ハヤト側がこの件で不利益をこうむった場合、ギルドの買い取り権を破棄できるものとする。


5、ハヤト側がギルド職員を特例期間において一人、雇用する形でギルド関係者を入れる。



大きく大事なところはこの辺りだろうか。

細かな卸値のやり取り等もあったが日本で200円足らずの砂糖が数万の価値がつくのだ、後々手広く取引をするなら問題かもしれないが本格的な大本もない現在では些細な問題だろう。


ただ、3の内容に関しては待ったをかける。

流石にぼったくられてはいないと思うが独占取引だと不当な取引をされても気付かないし、よしんば気付いたとしても契約を盾に取引の改善を断られる可能性が考えられる。

そこで


3、特例の代わりに今回持ち込んだ品質の砂糖・胡椒は今年度ギルドに7割分を卸す事とする。


に変更してもらった。

変更の際


「他の方に販売する際、出来る事なら事前に私どもに取引相手を教えて頂けると助かります。商人の中にも素行の悪い者はどうしても紛れております。商品が商品だけに良からぬ事をたくらむ者がいないとは限りません。その際、ギルドと懇意にしている事を周知できれば手を出しづらくなりますし事前に教えて頂ければ過去に犯罪紛いの事例や訴えがないか確認する事も出来ます」


と言われた。

なるほど、気をつけておこう。


3が一時不当にも見えたが、今回の取り決めに関してもほとんどが自分のためのようなものらしい。

砂糖や胡椒は希少価値が高く簡単には認可が下りないとの事。

そこで間に認可されているギルド側が仲介することで自分の持つ商品を流通に乗せることができるようになる。


4番目も泥棒や盗賊から守る目的もある。

代わりの条件として3番目を加えギルド側にも旨みを持たせる形にしたのだ。


そして5番目はギルドから他者に取引していないか監査の為と、物価を理解していない自分との利害の一致でギルド側から信頼が置けて優秀な人物を一人出社させることとなったのだ。


「あのぅ……すみません、その派遣するギルド職員。私、立候補します」




******************************



取り決めの間、ずっと黙っていたミスティが挙手をする。


「………ミスティ。この儂ですら初めて見るものばかりを取り扱うハヤトさんの事業の成功は、このギルドだけではなくシルイット全体の繁栄につながると、そう儂は確信しておる。そのための特例措置然り、ベテラン職員の派遣然り………だ。まだ経験の浅いミスティ(おまえ)を遣って失敗しては取り返しがつかないんじゃ。今回はこらえておくれ」


駄々甘に近い雰囲気だったが取引こんかいにおいては流石にストップがかかっている。


「で、でもでも。私だったら新しく別の人に`商品`のことを話さなくて済むじゃない。それにおじいちゃんの所に遊びに来たよーって進展状況も報告できる!派遣された職員が何度もマスターと話すよりよっぽど自然だと思うの」


やっぱり回転速いな。


おそらくだがガルフコーストさんが拒んでいるのは監査の部分じゃないだろうか。

他者への納品制限のための監査だと銘打たれているが仕入れ先を調べたり、早ければ割り込んだりと考えてもおかしくない。


まぁ、取引相手といっても日本で自分の店だから交渉することなんてできないのだが……。


しかし、秘密裏に調べられるのはあまりよろしくない。

あの扉が勝手に使われると仮定した場合出口は全部うちの事務所。扉が見つかって店や周辺の物を盗られたり知らない人―――それもいろんな色の髪や目、日本では見かけないような不思議な木綿や皮でできた服装の人々―――がどやどやだんだん出入りしたりとなるとトラブル多発、間違いない。


「しかしのぅ、ギルド(こっち)からこの街に不慣れなハヤトさんを単純に手伝いに行くだけではなく、ギルド側を信用(ビジネスパートナー)に値するか見極められる一手にもなるのじゃぞ」


「むー。じゃあ誰を遣るつもりなのよー」


「ゴンゾか………トラパ辺りかのぅ」


「サブマス達って………確かに凄いけどちょっとものものしいんじゃない?」


「それくらい重用だと理解せい。全く、そそっかしさと頑固さは誰に似たものか……」


いつのまにか我儘を言う孫となだめるおじいちゃんの言い合いみたくなっている。


「あのー、こちらとしてはミスティさんで問題ありませんよ」


むしろそんなトップの人たちをこき使えるはずがない。

こちとら1年ちょい権力を笠にきていた若禿げの下、東奔西走していた身なのだ。


頭の回転が十分以上に速いのも確認済みだし、それにちょっとした小売店くらいなら年下の女の子の方が華やかだ。


パアッと笑顔を見せるミスティ。

逆にやれやれとばかりに視線をそらせるガルフコーストさん。


「ハヤトさんっ!」


「ハヤトさんが言うならこちらとしては構わないのですが……」


近づいてきてぎゅっと抱きつくミスティ。

おぉう。


「はぁ~。わかりましたよ。……後、可愛い孫娘に手を出すなら責任を取っていただきますからな、お忘れなきようお願いしたしますぞ」


あぁー、そっちの心配『も』でしたか。

まぁ、可愛らしいけどロリコンじゃないのでご安心を。


「あはははは、わかりました……善処します」


ガルフコーストさんがいなかったら無防備に抱きしめられたときに簡単にだまされていたかもしれない。


気をつけとこう。




とりあえず、持ち込んだ3点は以下の金額で買い取ってもらえることになった。


砂糖―――旧金貨1枚―――


塩コショウ―――旧金貨1枚と銀貨20枚―――


粒胡椒―――旧金貨2枚と銀貨40枚―――


合計で旧金貨5枚と銀貨10枚分。

旧金貨4枚で5人家族が一月楽に生活できるらしいので相当な高値だ。


補足するとこの世界の砂糖は粒が粗く品質も十分ではないらしい。

上白糖・三温糖・ザラメ+黒く焼き焦げた粒が入り混じっているものだと思ってほしい。

それらがkgで銀貨5枚ほど。手が出せなくはないが普段の食卓にあがることはない額だ。


今回持ってきた上白糖クラスだと王室献上か上級貴族以上が求めるレベル。

そのため価値が一気に上がるのだとか。


「ハヤト殿は純白の砂糖(この商品)の価値に頓着がないようなので申し上げときますが、仕入れられるからと大量に仕入れあちこちに卸されては困ります。この品を大量に出まわせると市場を崩壊させる爆弾になりかねません。それだけならまだしも粗い砂糖で莫大な利益を得ている物もおるのです。これだけの量であったとしても他の者の砂糖の価値を暴落させる事になるのですから、少なくとも私どもが保証できる身元の確かな者にのみとの取引に控えて頂きたいと思います」


右腕を預ける理由は砂糖これにもあったようだ。

自分ではいくらでも手に入るからと交渉も出し渋りもしなかったのが拙かったらしい。

つい「そんなに高いものなんですか!?」とばかりに驚いてしまったし………。


胡椒に関しては特に言及されなかった。

こちらはなんとでもなるのだろう。


少し話をして砂糖に関してはギルドの要請があってから仕入れ・納品することになった。


他の相手と取引するのも出来れば事前に取引相手を教えてもらいたいと言われた。


「ハヤトさん、本日はありがとうございました」


「ましたー」


「いえいえ、いろいろ教えていただき有意義に過ごせたと思います。次回、訪れたときに登録できるんですね」


「えぇ、申請のほうは本日中に受理しておきますので出店する店舗さえ決めていただければ店舗登録・ギルド加盟となりシルイットで商いが可能になりますのぅ。取り扱う商品に関してはミスティがギルドの方へ連絡しますのでハヤトさんの手を煩わせることはありません。後、商品のお取引は店舗とギルドに登録してからになりますので早めに店舗を決めてこられるとギルドわしらとしても助かります。では、今後ともよろしくお願いいたします」




ギルドを出る。

外はいつの間にか賑わいを見せ、多くの人が行き交っていた。


黒い髪と目は珍しいのかちらほらと視線が気になる。


「やぁ、なかなか遅かったねぇ。大丈夫だったかい」


背中をばしばしたたかれる。

何者だと思って横を見てみると、そこには食材を大量に抱えたデキシーさんが待っていた。



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