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さて皆さん、お気づきであろうか?


先日、土日に『とある』人物がいなかった事を。

故に平和でのんびりとした時を過ごせたという事を。(若干うるさい人物も現れたが)


そう、天災さんこと東條傑。


今日から3ヶ月、アルバイト(?)として真幸商会で働くのだ。


といっても、基本は運搬と雑務。商品の場所を覚えるまでは車への積み込みは一緒に行う。

まぁ、300品目もないし2週間もすれば覚えられるだろう。


分類分けしているので自分はそれくらいである程度覚えられた。

きちんとは覚えていなくてもどのあたりにあるのか大まかにはわかる。


運搬は東條がやってくれるので自分は電話注文と事務管理がメインだ。

ついでにこちらの確認・納品のシステム化も進めておく。


東條にはこちらが確認して自動的に注文するシステムを伝えてある。

発案者の自分だけができても意味がないし、初心者の東條(あいつ)が簡単にできるようならこの取り組みは成功だな。


そんなこんなでお互いが自分の作業を進めると、午後1時ごろには本日しなければならないことがあらかた片付いてしまった。


「さて、扉の向こう(シルイット)に行く前に話がある」


俺のおごりの缶コーヒーを一息に飲み干して奴が言う。


「先週暫く東京の方に行ってきたのだが、知り合いの伝手により原宿の方に店舗を1つばかし構えることとなった」


???


「合資会社として無限責任は俺が持つとして有限責任者を、俺の知り合いと真崎。貴様にしておいた」


「ちょ、おま」


「なに、その知り合いは俺に大きな負い目……じゃなかった、俺に感謝しているらしくてな。向こう一年賃料を無料(ただ)で貸してくれるらしい」


「……………」


「で、だ。先日門の向こう(あっち)で仕入れた品物を売って早速これだけの金を手に入れた」


ぽいっと投げ出されたのは束ねられた諭吉が3本。

そう簡単に個人が外に持ち出すことのない金額だ。

家の売買なんかでも銀行にちゃんとそれだけの金は用意し確認はするものの、奥の応接間でのやり取りで済ませてしまうことも多い。


じゃなかった、話がそれた。

金貨7枚で300万?予想外の出来事に理解が追い付かない。


「何、簡単なことだ。売れそうなものを買って売れそうな奴に売った、ただそれだけのことだ」


「いや、それだけって。…………………………まぁ、いいや」


いろいろ諦めた。

というか、あの数時間の間に何を買って何を売ったのか皆目見当がつかないので気になるとか、何日も悩んでガルフコーストさんやナストゥールのおふた方まで巻き込んでる俺の立場はとか、東條が『ただそれだけ』と言った事が普通に考えてできることじゃないとかいろいろ言いたい事かったんだけどね。


俺がどれだけ言っても無理そうな感じだし。


あきらめて話を聞き流していたら彼は


「いや、済まない。この後は予定があった。急いでいるので一つだけ貴様に言っておこう」


と、爆弾発言を残して窓から颯爽と飛び去って行った。


「因みに、出資金はその300万(金)だ。登記も済ませた。潰さない様精々頑張ってくれ」






ふと我に返ると外は真っ暗になっていた。

時計を見ると日付が変わる直前。


昼間に聞いた突拍子もない話から半分無意識で行動していたようだ。

いつの間にやら寝間着に着換えて髪まで湿っている。


きっと寝ぼけてたんだなーっと思いたいのだが―――箪笥の引き出しを開ける。

姿を現した諭吉の束が夢じゃないよと現実を突きつける。


「――――はぁ」


ため息が漏れる。

寝る前に一度状況を把握しておこう。

一度意識がはっきりしてしまったのでこのままでは眠れそうにない。


まず、父・大吾より継いだ自分の店『真幸商会』、異世界(シルイット)に『真幸商会シルイット店』が存在していた。

加えて東京に真幸商会が100%出資した(事になっている)オーダーショップが1店舗強制的にくっついた。


オーナー兼店長が東條傑となっており、渡された300万とは別にプラス100万稼いでいたらしく7・8・9月分までの給料と支度金として頂くとのこと。


計400万を資本金に合資会社として設立されている。


ちなみに俺は、真幸商会を一月稼働させる計算で荒利40万弱。

そこから消耗品なんかの経費や税金がかかってくるので純利はグッと少なくなる。


開いた口がふさがらないが形式上ただ働きだったの、書面上が合わせられるならまぁいいかと無視しておいた。


東條の中ではそのオーダーショップなら自分の給料と店の維持は余裕だと見越している……はずだ。


その店は東條の方針(ヒント)に従うことにする。

売ったものとその内容を聞くと、あまりにもな離れ業に一時茫然自失となったがそのおかげでいくつか光明が見えたのも確かだ。


少なくとも(万が一倒産した場合)責任を負わなければならない出資金は奴が勝手に用意したし、内装等も彼の『知り合い』という奴が東條の指示通りにセットしてくれるようだ。

それに、あの後東條は3ヶ月で潰しても構わないと言っていた。

まぁ、せっかく作ったお(かたち)だ。いざとなったら真幸商会のネット販売部門みたいな扱いで小さく吸収合併してしまっても構わないらしいが、そうなったら被害を受けるのは東條に貸しを作って動かされた名も知らぬ友人だ。


御愁傷様。

一応潰さないよう頑張るからこちらは恨まないでほしい。



唯一残された問題が天災(とうじょう)の存在だ。

真幸商会では書面上部下だが、彼がひとたび暴走した時、こちらに火の粉が飛んでくる立ち位置にいるのが怖い。

ほんの一日シルイット絡みで暴走しただけでこれなのだ。

約束通り午前中は手伝ってはいるものの、用事があるとばかりに午後にはいなくなる。

彼の報告によると、彼の友人なる者と着実に店舗の準備を進めているので、そのために消えているのだとか。

公共交通機関と飛行機合わせても片道5時間は軽くかかるはずなんだけどね。


逆に店舗をもう一つ持つことで、天災の給料の他以前から困っていた問題が片付いた。


異世界(シルイット)に送る商品(アイテム)のごまかしが不要になったことだ。


今までは、


真幸商店→真崎隼人→異世界


だったので(わざと)発注ミスからの買い取りという形で大量仕入れを行った。

個人の大量購入は良くも悪くも目立つ。

これが―――


真幸商会→東京のお店→異世界


自分から店舗に入れ替わることで自社の系列店に利益を乗せて通常の販売する形にできる。

これで、真幸商店の店舗利益と帳簿は守られる。


そして、東京のお店に集まった商品はどうするかというと、いくつか思いついたことがあるから草案をまとめておこう。

どうするかは東條(オーナー)様に任せよう。





土曜日、朝。

真幸商会シルイット店開店のためにシルイットへ向かう。

先日までに空いた時間でガルフコーストさんに話をつけて多めに現金を用意してもらっている。


店は3人に任せ、今日も一人別コースを予定している。


開店、お店を3人に任せる→ガルフコーストさんとギルド職員を使って大量に仕入れた塩コショウを買い取ってもらう→事務所に戻って東條召喚→ギルドで査定が終わった塩コショウの代金を受け取る→ギルドに紹介してもらう護衛兼荷物持ちを加えてナストゥール商会をはじめとする大店周り→荷物を真幸商会シルイット店に置いて閉店


今日仕入れるシルイット産の商品は(東條が勝手に設立した)東京のオーダーショップMAZAKIに送られ販売される予定だ。

前回の東條の行動で、既にいくつか予約も入っているようで前のテナントを改装することで来週―――7月の頭―――にはおっとり刀で開店させるのだとか。


しかし、現金の輸送・商品の輸送は危ないし面倒だな。

………あっ、そうだ。

あれを提案してみようっと。


考え事をしながら鍵を開ける。

暫くすれば3人とも現れるだろう。


異世界に時計は無く、日が昇ったら朝で日が沈んだら夜が普通。

教会にだけ時計と同じような役割を持つナニカがあるらしく16時・17時・18時の合計3回鐘が鳴る。

東條曰く18時の鐘で街の扉が閉まるのだとか。


まぁ、こちらは目安として9時開店の客が頭打ちになったところで閉店(大体15~16時頃)だ。

普段の自営業8-17時と大差ない感覚でシルイットに訪れている。

真幸商会の方もシルイット(こっち)も緩やかな内容なので最近1日空ける休息日を取っていないが身体的にも精神的にも大して疲れを感じない。


っと、発電機・冷凍庫を軽く拭きあげ稼働させる。

数日空けるとどうしても部分部分にうっすらと埃がたまるのだ。

ある程度冷えたところで冷凍庫に氷を補充、若干は溶けるがつけっぱなしにするわけもいかないのでそこは仕方ないと割り切っている。

一息ついていると


「店長―、おっはようございまーす」


元気なラッセルが一番に


「うー、……おはようございます」


少し経ってから、目が合って2拍程置いてからなんとか挨拶するデライトが。


「おはようございます。あ、ハヤトさん。おじ……ギルドマスターが準備はできてるのでいつでもどうぞとのことです。後、何か少し相談があるようですよー」


「あぁ、おはよう」


ガルフコーストさんの手伝いをしてきたのか少し遅れてミスティが。

これで3人揃っての開店だ。


軽く朝礼を行い、連絡事項を話す。


「――――といったものが自分の国では売れるようなので、関連したものを探すつもりだ。今日もだけどラッセルを中心にお店を回してほしい。余った時間があったら少しずつ外の花壇を作ってもらって大丈夫です。もし荷物が届くようだったら奥の小部屋に仕舞って下さい、その時はデライトをシフトから外して目録―――商品一覧を作ってください」


「「「はーい」」」


「と、明日はどこも休み……だったよね?」


3人に確認する。


「もしかしたら少し遅くなるかもしれないので先に今週分の給料を渡しておくよ」


テーブルにそれぞれ2日分の銀貨を置く。

シルイットでは休みの日でも給料は変わらないのが一般的らしい。

仕事は休みでも生活する日数は変わらないもんね。

代わりに有給が無いみたいだけど。


形式上、ちゃっちゃと店を開けたけどホント人任せだ。

マニュアルもルールもない現状は、前職に照らし合わせると開店して1年たたずに潰してしまう完全に融資したら駄目なパターン。


まぁ、裏でこそこそやるための目隠し(ブラインド)になってるし、結果オーライかな。

いずれはちゃんとした商売の起点にしたいところだ。


「というわけで、後は適当によろしくお願いします。今日はする事が多いので後は任せた」


軽く敬礼を決め、言うだけ言ってさっさと店を出る。

目的もすったくれもないまま開店したら、本当ろくでもない状態だな。


後ろから店長~と聞こえていたがまた今度聞くよ、ゴメン。

急がないと事務所に戻る前に東條(天災)が来るんだ。運が悪い事に今日は家に彩綾もいる。

放置したら何をしでかすかわからない。


―――タイムリミット恐らく後数十分。

急がないと。




******************************





――――――バターーーン


全力疾走―――は体力が持たないので駆け足でギルドに駆け込む。


「おぉおっ、お早いお着きで」


ミスティが出てから大して経っていないので驚いたのだろう。

すまないがそれより時間がないのだ。


「お騒がせしてすみません。今日はちょっと急いでいるもので……。急かすようで申し訳ないですが、準備の方はできておりますか?」


「人手だけならば揃っております。ただ、これから伝えられる範囲で説明をと思っていたのですが……」


まぁ、確かに。

日本でも見知らぬ人から現金(ほうしゅう)と引き換えに一目につかぬようにブツを運んでくれと言われても断るな。

白い粉とか脱法の薬草とか


「わかりました。護衛の方々には私の方が道中説明いたします」


というわけで移動しながら冒険者のグループと話す。


「今回の依頼者の一人、真崎 隼人と申します」


「あぁ、私はカイナ。Cクラス、翼獅子(グリフォン)の尾のリーダーを務めている」


「アイリーです」


「カイネだよー」


「ファルシアと申します、よろしくお願いします」


手持ちの武器と見た感じから順に剣士、魔法使い、剣士、僧侶かな。カイナとカイネは同じ髪の色だし顔つきも似ている。

姉妹かな?

後、装備の大きさとか違うのでもしかしたら役職があるのかもしれない。

まぁあれだ、完全にRPGの世界だ。

これなら東條(あの馬鹿)程ではないが、シルイット側の世界に憧れる人も少なくないだろう。

っと、それより説明だな。


「今回、ガルフ―――商業ギルドマスターを通して短時間の荷運びの手伝いと護衛を務めてもらう手筈になっているはずだ」


「あぁ、そうだ。Fランクでもできる仕事にしちゃあ割が良すぎるし、疑問に思ったが商業ギルドとは言えマスターからの依頼だからな。受けさせてもらったよ。まぁ、口だけで無骨揃いの男どもには後半の仕事は無理だろうしな、クックック」


まぁ、なんだ。

見目良好な女の子だけのグループだし、なにかとあったのだろう。

いろいろ含みがありそうだけど特には聞かない事にした。


「その運ぶ商品についてなんだけど、できれば聞かないでほしい。理由としては他言できるものではないし、商品自体も王都に住む御歴々の元に届けられるはずだ。勿論違法なものではない………が、酒の席なんかでぽろっと漏らされると。まぁ、以後仕入れられなくなる可能性も考えられる」


「しかし、違法じゃない。はいそうですかってわけにゃ行かないねぇ。こちとら命が懸ってんだ。あたしらを使い捨てにしようとする輩もいる。今までで一番たちが悪かった奴はわざと罪をなすりつけて奴隷に落とそうと画策されたよ。まぁ、返り討ちにしてやったがねぇ」


奴隷制度もあるらしい。

ふむ、一度観に行ってみるのもありかも知れない。

いや、好みの子を見つけて夜な夜なとも一瞬考えたけど、真幸商会(しごと)実家(いえ)があるから無理だからね。

うん、興味はあるんだけどね。

男にとっては夢だしさ。


「おい、ハヤト。何考えてんだ」


「あ、うん。ごめん」


「……まぁ、いいけどよ」


なんかいろいろと察されたようだ。

いや、うん。

ごめん。


「その代わりとして商業ギルドマスターが提示した額を2倍にしてお支払いします」


カイナがヒューっと口笛を吹く。


「もちろん、中身を確認してもらっても構いません。その場合は報酬倍額の話は無し、確認いただくのはリーダーのカイナさんだけ、万が一外部に漏れた際のペナルティーとして…………そうですね。ナストゥール商会の関与する商店での売買を一切禁じてもらいましょうか」


「うへぇ」


報酬倍額を聞いてうれしそうな表情から一変、一気に青ざめる。

コリンズさん達、どこまで手広く商売をしているんだろう。


「さて、あそこが私たちのお店になります。さぁどうされますか?」








「いらっしゃいま………店長、お帰りなさい。って早くないですか!?」


ラッセルが出迎えてくれる。

最近の売り上げからわかる通り、まだお客さんは一人もいない。

客が入ってくるまでは店番一人を残して庭や花壇をちょこちょこ手入れしてるらしい。

もう、大分見栄えがしてきているがどれだけ暇を持て余しているのかあまり想像したくない。


「あ、ごめんなさい。こちらのお席へどうぞー」


「ごめん、ラッセル。カイナさん(彼女)たちはお客さんじゃないんだ。ギルドまで運ぶ荷物持ち兼護ぇ……痛ッつぁ」


「ハヤトさん、すみません。荷運びについては口に出さないようにお願いします。冒険者の方にはよくあることですが、各々のランクとしてのプライドがある様で………。護衛は良くても本来ならFランクでもできる荷運びなどやってられないのだとか」


慌ててガルフコーストさんがやってきて小声で注意してくる。

というか、注意事項は先に教えておいてほしかった。


「いたたた、カイナさん済まない。まだこの国に来たばかりで冒険者っていうのに疎くてね」


「―――あぁ、そうなのか。それは申し訳ないことをした」


素直に謝ってくれたし根は悪い子じゃないのかもしれない。

まぁ、仕返しはするけどね。


「ガルフコーストさん、お店の方がまだ空いているのでこちらまで持ってきますね」


返事をもらって奥の小部屋に積み込んでおいた例のブツをカートに押して持ってくる。

その数12ケース×2往復で24ケースの240kg。

当初提供するつもりだった量の倍プッシュだ。

するすると動くカートにも驚かれ値段を聞かれたが、真幸商会の備品なので売るわけにもいかず法外な値段を口にしてやると押し黙った。


「カイナさん。こちら、よろしいでしょうか」


待たせている間せっかくなのでと奢りで出したジュースをぐびぐびと飲んでいた翼獅子の尾からカイナさんを呼ぶ。

報酬の増額か商品の確認か、選んだのは商品の確認だった。


「あんたにゃ悪いけど、翼獅子の(うちら)は命あっての商売だからな。そりゃ、報酬は惜しいけどさ。小金欲しさに危険なところに飛び込んでちゃあ、うちらみたいな女ばかしのパーティーは喰いものにされちまうんでね」


とは彼女の言。

というわけで運んでもらう商品の中身を確認してもらうのだ。


「なんだこりゃ。木の色や匂いに似ちゃいるが、軽いし弾力があるし妙にさらさらした質感だし」


あぁ、そういえば段ボールもシルイットには無いのか。


「これは紙でできた箱ですよ、三層に紙を張り合わせて頑丈にしているんです。軽しい頑丈だし使い終わったら畳めるしで、私たちの国じゃ荷造りするときはこの箱を使うのが一般的なんです」


と丁寧に説明したら隣にいたガルフコーストさんも含めて物凄く驚かれた。


紙は存在しているものの手間がかかることからかなり高価な物なのだとか。

製造工程も和紙を作る方法に似ており、高いものは恐ろしい値段がつくし、安物の腕の悪い職人の手によるものだと厚みが均一でなかったり異物が混入していたりと品質にばらつきがあるらしい。

そんな紙の用途は、羊皮紙に比べかさばらないため長期保存しないといけない資料の記録や正確な筆跡を求められる起動式魔法陣(スクロール)の巻物位にしか使われないとのこと。


話を聞いて疑問に思ったが、巻物をコピーしたらコピーしたコピー紙からも魔法とやらが発動するのだろうか。

機会があったら試してみたいものだ。


「おい、ハヤト?どうしたんだ?」


「あぁ、ゴメ……すみません。では、約束通りこちらを確認してもらってよろしいですかカイナさん」


ガムテープの封を開け中身を確認してもらう。


「うおっ、本当にコショウじゃねーか。こりゃ凄ぇな」


「相変わらずきめ細かくて素晴らしい品ですね」


二人がそれぞれの反応を見せてくれる。


「1箱にこの袋が10袋、入っています。ガルフコーストさんにはこの台車(カート)をお貸ししますがとても高価な物なので1台しかないんですよねー」


意味ありげにカイナさんを流し見る。

ガルフコーストさんがカートに乗せて12箱、残るは翼獅子の尾の4人と一緒についてきたギルド職員2人。


「…………おいおい、まさか」


「店の3人を動かすわけにはいきませんし、私も一度別件で動いてとある人を連れてこないといけないんですよねー」


「まてまて、あたしら女だぞ。あっ、そうだ。それに護衛はどうするんだ?これだけ高価なモンなんだきちんと護衛してなきゃ危ねーんじゃねーか?」


「両方頑張ってくださいっ!ウチがコショウを取り扱っている事を知っているのはカイナさんの他数名だけですし、立場が弱いものが生き残るにはなるだけ危険を回避しなきゃいけないのであまり大っぴらにしたくないのです。報酬より安全を優先するカイナさんたちなら分かっていただけますよねっ!カイナさんたちだけが頼りなんです」


「……お、おぅ」


もうひと押しだ。


「お手数おかけする代わりと言っては何ですが、些少ながら貴女方に既に私も報酬をお支払いしてあります。カイナさんたちに提供したあの飲み物、実は真っ白な砂糖をふんだんに使った(この世界では)大変高価なものになります」


「……嘘だろ。いや、待て。良く見るとこの店の中、見た事ないものばっかりじゃねーか?」


「店内で飲まれる分に関しては利益度外視で提供しておりますが、それでもそれなりに値の張るものかと」


因みに提供したのは1.5Lを4本。

ものの数分の間に2本目も半分以上飲み干されている。


「あーーーっ、もうっ。ちくしょうっ」


ふたの開いたペットボトルを掴み盛大にラッパ飲み、仲間たちがびっくりする中一気に飲み干し


「プッハァーーーー」


と盛大に息をつく。

あらやだ、男らしい。


「わーったよ。あたし等の負けだ。運んでやるよ。ったく」


というわけで、翼獅子の尾の4人組も1人頭2箱ずつ商業ギルドまで荷運びをしてもらうこととなった。


仕返ししてやったりだ。





荷運び隊には悪いが少し待ってもらってガルフコーストさんと値段について話をつける。

ナストゥール商会とポニー商会にも砂糖を1袋ずつ引き取ってもらった事と1割~2割程高値で引き取ってもらった事も伝えておいた(相手の手の内を勝手にさらすことになるので具体的な額面は伝えてないけど)。


段ボールも付けることを条件に1箱(10袋)155,000ジルの合計372万。


「しかし、この額面では今日まとめてお支払いが難しいのですが、………分割という形をとらせていただけないでしょうか?」


まぁ、前職でも1度に千万単位の現金が必要な時には事前に連絡してもらわないと支払えなかったからな。

蹴られたお返しにとちょっと意地悪したら思わぬところに弊害が。

まぁ、うれしい悲鳴みたいなので謝らないけどね。でも、今後は気をつけるよ。


売掛金(それ)についてなんですが、ギルドで預かってもらう事って出来ないですか?」


ガルフコーストさんに日本の当座預金を一部抜粋して伝える。

小切手としての取り扱いだ。


「しかし、勝手に数字を書き換えられてしまわないでしょうか?そうなると我々やハヤトさんが大損することになりますぞ?」


勿論日本式の数字表記もお伝えしました。

¥(円マーク)を最初に記載した上で壱・弐・参……と九まで続き拾・百・千・万。

ここまで伝えれば大丈夫だろう。

というか、何気に日本式の数字を口頭で説明するのって難しい。

時間もないし結局小部屋に残したままのコピー用紙にこれはここに当てはまるって書いて渡したよ。

………後で時間作ってきちんと教えておこう。


ついでにボールペンを見せて、これで書かれたものだけを取り扱えるようにすればいいというと安全面でも納得してもらえた。

…………代わりにボールペンの一般販売は禁止となったけどね。

シルイット―――いや、ロストータ大陸はそんなに犯罪者が多いのか?


荷を彼らに任せ、急いで事務所に戻る。

余分な説明に時間を食ってしまい、予定の時間を30分近く過ぎてしまっていた。

事務所に天災さん(やつ)の姿はない。


もしやと思い隣の自宅に走る。


「きゃーーーーーーーー。それ、外に。外に捨ててくださーーーーい」


「はははははははははははは、これぞロマンではないか。こいつで最高の妹料理を作ってもらおうではないか!」


うん、いきなり開けたくない。

が、そのままにしておいたら悲惨な結果になる事は目に見えている。


仕方なしにドアを開くと天災さん(バカ)と彩綾が家の中で追いかけっこをしていた。


「……………お前等、何やってんだ?」


「あ、兄さん。東條さんの荷物を奪って外に捨ててください!」


「おい、真崎。貴様の妹にこいつで料理を作ってもらえるように頼んでくれ!」


彩綾が指さし天災(とうじょう)がつきだした透明のビニールにはパンパンに膨らんだ缶詰が一つ。

成る程、こいつが元凶なんだな。


一瞬で判断し天災(バカ)から袋を奪い取る。

中身は―――――シュールストレミング!?


思い出すのは一度大学時代に面白半分で持ってきたやつがいて、大きな破裂音とともに阿鼻叫喚となった爆弾缶詰事件。

この馬鹿はなんて危ないものを持ち込んできてるんだ。


「流石真崎(同士)、あまりの素晴らしさに声も出ないか。うをっ」


ビニール越しにパンパンに膨れ上がった缶詰を掴んで、東條の頭にその缶詰ごとビニールをかぶせる。


「こいつを大人しく持って帰るかこの状況で爆発させるか、二つに一つだ。さぁ、選べ」


「わ、わかった。わかった。オーケーここは大人しく持って帰る。だからこの袋を取ってはくれないか」


降参とばかりに両手をあげる。


「では――――――出直してこいっ!」


そのまま外に放り出す。


「30分だけ待ってやる。1秒でも遅れたらシルイットは無しだ。分かったな」


慌てて走り去る東條を確認してから扉を閉め、一息つく。


「―――――悪は、去った」


「はぁっ、はぁっ、はぁっ。………兄さんの言っていた危険の意味が初めて分かった気がします。次から東條さんは家に入れないようにします」


「あぁ、そうしてくれ」


余談だが、俺と東條がシルイットに向かっている最中、とある部屋の一室で爆発音と異臭騒ぎがあったらしいのだが、それは俺の預かり知らぬ事である。


まぁ、被害がうちじゃなくて助かった。



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