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関連した細かな話を数点行い、再度握手を交わす。
「ところで、ハヤト殿はギルドカードをまだ受け取っていないと報告を受けておりますが、近いうちにギルドの方まで受け取りに来ていただけないでしょうか?」
「ギルドカード………ですか?」
聞きなれない言葉にオウム返しで聞き返してしまう。
そういえばナストゥール商会でもギルドカードがどうこう言ってたな。
ガルフコーストさんがこめかみを押さえている。
多分、原因を察したんだと思う。
ミスティ、すまん。
バラしてしまった。
「あの子には後で説教しておきます。ギルドカードとは――――」
どうやら身分証のようなものらしい。
ただ、その証明が地方自治や国ではなく神様にというのがファンタジーだ。
神様の加護でそのカードには代表者と従業員や弟子の名前に各々の前歴が浮き出てくるの。
紛失防止機能も付いており、万が一落としたりスられたりしてもほぼギルドに戻ってくる。
提示部分も所持者の意のままに必要な項目だけが表示されるのだとか。
それとは別に個人のスキル等も確認できるので身分証と自身の能力確認も兼ねてほぼ全ての人がいずれかのギルドカードを所持しているらしい。
自身の能力とはTVゲームであるような能力値の数値化のほか、使用できる魔法や個人個人の能力なんからしい。
「そいつはまたオーバーテクノロジーな」
日本でもスパコンや端末を利用して個人記録を記録・表示、GPS機能を付けて紛失防止まではできるが腕力等の数値化や能力の文字化は難しいだろう。
可能であっても膨大なパターンの集積と数多くの事例パターンや体力測定で全力を出した結果が必要になるはずだ。
それが神様の前で誓うだけでポンと判るという。
この世界の文明は地球だと数百年は昔の技術に近い。
手軽な魔法やオーバーテクノロジーの産物が、この世界の技術の発展を妨げる要因になっているのではと思ってしまう。
「いかがされましたかな?」
っと、いかん。
「いえ、この大陸出身でない私にもそのカードが効果を示すのかなと考えてしまってました」
「ほっほ、それなら恐らく大丈夫だと思います。他の世か……他の大陸から来た人も皆、きちんと効果を示しておりますからな」
笑顔で答えるガルフコーストさん。
この後の予定としては店でのんびりお客さんと話すか、だれか女の子1人に道案内してもらってシルイットを散策するつもりだった。
折角なので早速ギルドカードを作成しよう。
ガルフコーストさんとデライトに少し待ってもらって表に向かう。
ラッセルは冒険者の人と、ミスティは恐らく商人であろう人達と話していた。
「ラッセル、接客中ごめんだけどちょっといいかな?」
近くの方にいたラッセルを呼ぶ。
「店長、どうしました?」
「うん、実はギルドカードってのを作らなくちゃいけないみたいで、今からガルフコーストさんとギルドカードを作りに行ってくるよ」
「えっ。………いや、違っ、その、すみません」
プロ顔負けの営業スマイルが崩れているぞ。
いや、ラッセルはプロだったな。
「うん、わかってる。全員分作ってくるから安心してて。ガルフコーストさん―――商業ギルマスが付いてるからね」
「あ、はい。……ごめんなさい」
日本で考えたら会社経由で発行しなければならないマイナンバーカードを放置してたって事だよな。
免許証や保険証といった他の身分証明書が無いことを考えたらミスティは一回怒られてきていいかもしれない。
「デライトも一緒に連れていくよ。お店の方、二人でお願いしときたいんだけど、いいかな?」
「はい、わかりました」
流石プロ。
直ぐに営業スマイルを取り戻した。
「うん、じゃゴメンだけどお願いします。手が空いてきたら外の屋台で二人分買って適当に済ましてね。お昼は店が出すから売り上げから支払ってね。かかった金額だけ台帳に記入をお願い」
「わかりました、ありがとうございます」
「うん、じゃあのんびりやって大丈夫だから、よろしく」
「はい、いってらっしゃい」
と、午後はギルドカードを作りに商業ギルドへ向かうことにした。
―――約1時間後、商業ギルドのとある一室―――
自分とデライトも外の屋台で昼食を済ませギルドカードを作るため、そのための装置が置いてあるという一室に通された。
本当はもう少し早く来られるはずだったのだが、ふとデライトの志望理由を思い出して人見知り克服の一環だとデライトにお勧めお2人前買ってきてもらった(同じ量だと足りないので実際にはデライトの3人前分頼んでおいた)。
外で買い食いする事もあまり経験がなかったようで、お目当てのものを購入するまでかなりの時間がかかってしまった。
店員に中々声をかけないのがじれったく感じ、途中でフォローしてしまったのはしきりに反省だ。
今後暫く、デライトの仕事の一つに皆の分のお昼の買い出しを盛り込んでおこう。
デライトがお勧めしてきたものはロングホーンという商品名のパン。
ホットドッグのバンズに野菜とケバブのような薄切り肉(味付けは塩ゆで)を挟み、トマトソースがかけられていた。
優しい味でなかなか美味しかった。
「ハヤトさん、こちらの水晶に手をかざしてください」
ガルフコーストさんがテーブルに置かれた水晶を指差す。
軽く返事をして言われたとおり水晶に触れた。
水晶から青白く発光する。
ほんのりと温かい。
光が水晶の中で凝縮され四角く形作る。
そのまま水晶から浮き出てきて、手の中にカードの感触が現れる。
なんか…………すげぇ。
「なんか…………すげぇ」
「はい、お疲れさまでした。これでギルドカードの登録は終わりですじゃ。カードの方を確認してみてくだされ」
言われたとおりカードを確認する。
記載事項は最低限らしいのでテーブルに置いてガルフコーストさんにも異常がないか確認してもらう。
商店名:真幸商会
雇用主:真崎 隼人(賞罰なし)
従業員:シルバー・ミスティ(賞罰なし)
ブラン・デライト(賞罰なし)
ホーラル・ラッセル(賞罰なし)
登録地:ベルナード王国シルイット
管理者:商業の神ジィ・ベル
「問題ないようですな。このカードを持って登録されている従業員の名前を呼ぶと従業員用のカードが複製されます。1人に一枚ずつ、同じ人に2枚目を発行することはできません。紛失した場合は大抵登録地のギルドに届いております。身分証明書にもなりますのでお三方に複製を渡すよう頼みますぞ」
無事に終わったようだ。
オーバーテクノロジーなのになんだろう、この便利というよりかゆい所に手が届くような微妙な効力は。
「後、従業員が辞められる際は回収しなくて大丈夫ですぞ。辞めると数日で霧散してしまいますからの」
……ほら、また。
「後、そのカードを自身の胸に当てますと総合力と称号・スキルを確認することができますぞ。まぁ、ほとんどの人は総合力だけしかありませんが」
総合力とは身体能力の総合的な数値で、冒険者ギルドにはこの数値で冒険者ランクが決まる。
ランク毎に油断しなければ比較的安全に討伐できる魔物、撤退も視野に入れ気をつけないといけない魔物がリスト化されている。
一応ランクの目安も教えてもらった。
モンスター一覧は飯のタネなので冒険者ギルドでないと教えてもらえないらしい。
~1500 Fランク
~4000 Eランク
~10000 Dランク
~30000 Cランク
~85000 Bランク
~200000 Aランク
それ以上 Sランク
オーヒラ・コーヘイという冒険者が提案したこの冒険者ランクと魔物リストのおかげで冒険者の帰還率が飛躍的に上がったらしい。
というかこの冒険者、名前からして日本人っぽいんだが(冒険者ランクってのも狩猟ゲームにあるし)事務所にある扉って結構点在するのだろうか。
有用なスキルは1つあれば上等なものらしい。
2つあればギルド職員やナストゥール商会規模の大きな店や職人部屋への面接条件を満たす。
3つになれば将来の近衛騎士候補や上級貴族以上の従者まで狙える様だ。
一部特殊なスキルもあり、魔法使い(メイジ)・僧侶・精霊使い(エレメンタラー)であれば魔法が使える様らしい。
称号はよっぽどの功績が認められて神様から授与されるものらしい。
実質的意味合いを持つものはほとんどないが、個人の箔付けにこれ以上ないものだとか。
たとえば店を出している者が『正直者』という称号を得たなら客足は増え、銀細工師が努力の末『真銀の理解者』という称号を得たならその者が手掛けた作品は珠玉の価値を見出す。
ただ、その後調子に乗ると称号がはく奪されることもあるのだとか。
また、不思議な称号が得られることもあるようで必ずしも称号を得たものが公開しているわけではないらしい。
称号の公開は任意でできるらしい。
公開設定するとギルドカードに表示されるのだとか。
せっかくなのでカードの機能を確認してみる。
名前:
マザキ・ハヤト(2513)
スキル:
言語理解・会計士・鑑定士・数寄者・調律者
称号:
『ラッキースケベ』―――扉を開けたら目の前に裸の女性が多数現れた者へ贈る称号―――
『男のロマン』―――常識的に入れない場所に非常識な方法で侵入した者へ贈る称号―――
『危険推定者』―――世界の常識や生態系を破壊する可能性のある人物に贈る称号(効果:スキルの一部が隠ぺい・使用制限)―――
『異世界旅行者』―――異世界と繋がる扉を所有する者に贈る称号(効果:扉の所有・使用可能)―――
ガンッっとテーブルに頭をぶつける。
「どうされました?何か不都合でもありましたかな?」
「…………ハヤト?」
二人が心配してくれる。
すまん、精神的に多大なダメージが……。
「いえ、なんでもありません……」
………変な称号がいっぱいあった。