表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/36

北門の鬼

 洛陽までの道のりは、控えめに言って地獄だった。

 旦那の厚意で馬車を用意してくれたんだが、荷馬車に毛が生えたようなもんだったので、乗り心地は悪かった。

 途中、楼桑村に寄って厚手の(むしろ)――(わら)で編んだ敷物――を敷いてからは、少しばかりましになったけど、サスペンションもゴムタイヤもない荷車(にぐるま)の揺れと衝撃は半端ない。

 馬車を引く馬もポニーをひと回り大きくした小さいやつなので、3人いっぺんに乗ると歩くより遅くなるから、交代で歩いた。

 正直、馬車に乗ってるのと歩いてるの、どっちが楽かわからんくらい、本当に乗り心地は悪かった。


『憲和、わざわざついてこなくていいんだぞ?』


 と劉備は言ってくれたんだけど、花の都洛陽だぜ?

 行ってみたいじゃん!

 なんて思ってついてきたけど、ほんと、留守番してりゃよかったよ。


「先生、見えてきたぜ?」


 杖をつきながらとぼとぼと歩いていた俺は、張飛の声で顔を上げた。


「おおー」


 まだ遠くに見えるだけだが、それでもわかるほど、その城壁は見事だった。

  北の幽州を出て南下し、冀州(きしゅう)をまるっと縦断してさらに数日。

出発から半月ほどが経っていた。


「さて、通れるかな」


 入場の列が進み、そろそろ俺たちの番が来るころだ。

 近くで見た城壁はやっぱり見事で、これは平成日本でも味わえない感動だった。

 漢帝国の首都、洛陽をぐるりと囲う城壁の北側の門に、俺たちは並んでいた。

 北から来たんだから北門にくるのは当然だ。


「都だってのに、貧乏くせぇのが多いなぁ」


 と、張飛が呟く。

 なんでもこの北門は、賄賂が効かないので富裕層は避けるらしい。

 なんでも、鬼みたいに怖い門番がいるんだとか。


「次」


 いよいよ俺たちの番だ。


「名は?」


 冷たい表情のまま、門番が質問する。

 なるほど、これが鬼の門番か……ってか、超イケメンじゃね?

 なんかビジュアル系バンドでボーカルできるくらいのイケメンだよ、まじで。

 背がちょっと低いけど、それはそれで悪くないな。


(おう)子伯(しはく)といいます」


 もちろん偽名だ。


「身分証は?」


 ここでいう身分証ってのは、通行手形みたいなもんだな。

 この時代、役人が身元を保証する文書がないと、旅はできない。

 習の旦那がその気になれば偽造も可能だが、そこから足が着いちゃまずいってんで、別のプランを用意していた。


「もうしわけありません。道中野盗に襲われてしまい、見ての通りの有様でして……」


 劉備は旦那に用意してもらった高そうな服を、適当に汚して着崩していた。

 俺と張飛も、ところどころ服を破ったりしている。

 つまり、洛陽に来る途中で盗賊に襲われ、身分証を失ったという体だ。


「悪いが通すことはできんな」

「そんな……わざわざ青洲の片田舎から兗州(えんしゅう)を横断してここまで来たのです! ひと目だけでかまいませんから、都を見せていただけませんか?」


 この旅程ももちろん嘘っぱち。

 ようは、泣き落としてなんとか入場させてもらうってのが、今回のプランだ。


「同情はするが、身分の不確かな者を都に入れるわけにはいかん」

「で、ではこれが身分証代わりになりませんか?」


 そう言って劉備は、腰に差したふた振りの剣を鞘ごと抜き、イケメン門番に提示した。


「これは?」

「我が家に伝わる宝剣でございます」


 これも習の旦那に用意してもらった者だ。

 旦那の何代か前の先祖が、借金のカタにぶんどったものらしい。

 鞘や柄に施された装飾は見事だけど、あくまで宝飾品なので、武器としては使えない。


「ふむ、雌雄で一対になっているのか……見事な剣だな」

「どうかお願いします、部尉(ぶい)どの。1日だけでもいいので、都を見物させてはもらえないでしょうか?」


 部尉ってのはこの門の警備責任者に当たる役職だ。

 つまりこのイケメンさん、若いけど結構偉い人みたいだな。


「ふむう、しかしだなぁ……」


 一応考えるそぶりは見せてるけど、こりゃなんかダメっぽいぞ?

 どうもこのイケメン部尉、かなり優秀みたいで、劉備のアルカイックスマイルに惑わされそうにないんだよなぁ。


「おい孟徳(もうとく)、そう意地の悪いことを言ってやるなよ」


 そのとき、ふと別の男がイケメン部尉のうしろから、別の男が現れた。

次回『ふたりの大物』明日2/19更新!


初日はおかげさまでジャンル別ランキング2位になりました!

引き続きブクマ、評価にて応援してくださると嬉しいです‼

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルファポリス

ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ