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三人が持つ力

 義勇兵(ぎゆうへい)ってのは、言ってみればボランティアの兵士だ。

 その兵士が集まってそれなりの規模になれば、義勇軍(ぎゆうぐん)となる。

 ボランティアだから、普通の軍人みたいに給料はもらえないし、国からの援助なども期待できない。

 つまり義勇軍を率いるということは、自分たちに従う義勇兵たちを養わなくてはならないということだ。

 軍の体を成すには、百人かそこらは必要だろう。

 それだけの人数を、二十歳そこそこの若造三人に集められるのか、集められたとして軍として維持、運用できるのか。

 普通に考えれば難しいんだが、劉備、関羽、張飛の三人は普通じゃなかった。


「旦那衆が百名は集められるようだ。もうすぐこの村に到着するらしいよ」


 劉備には、習の旦那のような地方有力者へのコネがある。

 有力者たちのあいだには独自のネットワークがあり、劉備はそういった人脈がもたらす力の恩恵を受けられるのだ。


「オレのほうでも五十人は用意できそうだ。資金もある程度は確保できるだろう」


 塩賊である関羽には、裏社会のネットワークがあった。

 生活必需品である塩の需要がなくなることはなく、塩は海水から無尽蔵に作ることができる。

 官憲の目をかいくぐって塩を製造し、秘密裏に流通させるというのは、決して楽な商売ではないが、実現できれば得られる利益は莫大だ。


「おれのほうも準備万端だ。情報と資金はうまく流れるようになってるぜ」


 意外だったのは、張飛が持つ肉屋のネットワークだ。

 肉屋のネットワークってなんぞ? と思われるかも知れないし、俺も正直“なんだそりゃ?”と思ったけどさ。

 でもこの国における肉屋のポジションを侮ってはいけない。

 かなり大きな、そして独自の流通網と、それにともなう情報網を持ってるんだ。


『知ってっか先生、あの太公望も肉屋だったんだぜぇ?』

『マジか!?』


 ある日そんな自慢話を、張飛から聞かされた。

 封神演義でおなじみの、あの太公望も肉屋だったらしく、その独自のネットワークを通じて周の文王とのコネを得たのだとか。

 それに、いまの時代、つまり三国志の世界にも、有名な肉屋がいることを忘れちゃいけない。


『もしかして、皇后の兄が出世したのって……?』

『街角でたまたま見かけたいい女を後宮に? 普通に考えてありえねぇだろ』


 霊帝(れいてい)こと劉宏(りゅうこう)の皇后、何氏(かし)の異母兄に、何進(かしん)という男がいる。

 後宮関係者が街角で見つけた美人の何氏を後宮にスカウトし、その影響で異母兄である何進は虎賁(こほん)中郎将ちゅうろうしょう――親衛隊長みたいなもん――に取り立てられた。

 単なるラッキーだと思っていたけど、どうやら何進は肉屋のネットワークを通じて美人の妹を後宮に売り込んだみたいだな。


「そういや今回の乱で、お前の大先輩は大将軍になったらしいな」

「へへ、すげぇよなぁ」


 同業者である何進出世の報に、張飛はどこか誇らしげな表情を浮かべた。


 なんにせよ、劉備、関羽、張飛は、三者三様に独自のネットワークを持ち、その力を使うことができた。

 ただ単に、義に厚い男が粋がって声を上げたところで、人なんて集まりゃしないのだ。

 仮に人を集めることができたとしても、集めた人たちを動かすには金がかかる。

 兵站(へいたん)の裏付けなしに、軍は維持できない。

 義理人情で集まって、ボランティア精神だけで命がけの戦いを続けられるような集団なんて、どこにも存在しないわけだ。


「すごいな、こいつらは……」


 この三人は、いずれ国が大きく乱れること予見し、自分たちの持てるネットワークをフル活用して、準備を進めていた。

 だからこそ、黄巾の乱という大事件を機に、動き出すことができたのだ。

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