プロローグ
今日から俺も高校生になるがとうとう10年前のあの事件以来主人公にしてはなんの変哲もない人生を送ってきた。
そうだ、主人公になってもう10年経つというのに特別な事など何一つない、変わった事と言えば独り言が増えたとか、2人目の妹が産まれたとか、その程度の事だ。
俺は本当にあの日主人公になったのだろうか、あれは全て俺の妄想だったんじゃないか。
最近ではそんな風に考えてしまう。
あの日の記憶は、この10年でかなり薄れてしまった。
そしてここからが本題だ。
漫画や小説の主人公達、俺もその役割を10年前に与えられた訳だが、彼等の大半は高校生ではないだろうか。
そして俺は今日、高校生になる。
つまり、10年の準備期間を終えて俺の主人公という性質が猛威を奮ってくるのではないだろか。
さっきは何の変哲もない人生を送ってきたと言ったが別にそれが嫌だった訳ではない。
むしろ、平和で安全な人生を大喜びで送ってきた。
しかし、それもここまでで、これから頭のおかしい組織と戦ったり、世界をひっくり返すようなテロに巻き込まれたり、人外の生物に襲われたり普通じゃない生活が始まってしまうのではないか、そんな心配が入学式当日になって溢れ出している。
あー、心配だ俺の高校生活がどうか平和で一般的なものでありますように。
そんな事を考えながら俺は着替えを済ませ、家を出た。
妹達の通う中学校も今日が入学式で確か昼からの登校と言っていたので寝ているのであろう。
高校までは徒歩で約15分、今は7時45分なので普通に通えれば余裕で間に合う。
家を出て数分後、道路沿いの道を歩いていた時だ。
「おぉーいぃーー!」
後ろから大声で呼ばれた。
通勤の時間なのだろうか、車もかなりの量が走っていたのだが、ハッキリ聞き取れる程の大声だ。
朝の早い時間という事を微塵も考慮していない聞き覚えのあるバカの声。
無視したかったがそうすると余計に絡まれるのは今までの経験からわかり切っているのでしかたなく振り向く。
案の定小学校からの幼なじみ葛西 萌が走りながらこちらに向かってきている、まぁそれは普通の事だ。
だがそれは、彼女の腕と脇の間に人間1人が収まっていなければの話だが。
彼女は俺の隣に来て止まった。
割と全力疾走に見えたが息一つ切らしていない。
「高校生になっても変わらずお元気なようでなによりです」
「そっちも変わらずクールでかーっこいいねー!」
敬語で馬鹿にしながら言ったのだが全く意に介さないようで、親指を立てながらウインクをしてくる。
それを無視しながら萌が抱えているもう1人の幼なじみに目を向ける。
「なにしてんの?」
萌が抱えているのは赤坂 氷河、萌と同じく小学生の時からの幼なじみなのだが。
「入学式くらいはちゃんと朝から登校させよーと思って家に起こしにいったのにねー全然起きないからとりあえず連れてきたのだー!」
高笑いをしながら言う萌。
かなりうざい。
確かに氷河は今日も寝坊するだろうとは思っていたが。
なるほど、流石は萌、まさか抱えて持ってくるとは、人間の発想とは到底思えない。
まぁバカなので仕方がない。
改めて氷河を見直して彼が制服を着ている事に気が付いた。
円城が1度起きて着替えたという可能性も考えたが、いやないだろう。
「こいつはなんで制服きてるんだ、起きなかったんだろ?」
「んー?さぁ。最初から着てたよー」
なるほど、このアホは寝坊しても間に合うように制服を着て寝たという訳か。
そんな、今まで通りの会話をしながら、俺と萌は高校に向かった。
高校につくと、校門の前にクラス分けが書かれた紙が貼られていた。
「ゆーちゃん!みてー3人とも同じクラスだよー!」
「うおっ、まじだ。お前らと1年同じクラスかー」
「うれしい?ねぇねぇうれしい?」
「はっ、別にうれしくねーし全然うれしくねーし!」
まぁ、友達が出来るかかなり不安だったので内心大喜びだったのだが、そんな事をこのバカに知られては一生バカにされる。
そんな思いに気づいたのか、気づいていないのか、萌はニヤニヤ顔をみてくるが。
常に笑顔な奴だからわからない。
教室に着くとまだ人はほとんどいない。
「早く着きすぎたみた…」
言い終える前に俺は窓際の席その一番後ろの席で寝ている女子生徒
に目を奪われた、いや、心を奪われてしまった。
顔の半分以上が枕にしている腕で見えないがその、整った顔付きは隠せない。
そして小柄で華奢な体格、雪のように白い肌、肩に届く程度に切られたツヤのある黒い髪、なんだあれは本当に人間か、人間があのレベルの美しさに達していいのかいやありえない、あれは天使、そう!天使に違いない!好きだ!好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好き
「ゆーちゃん、おーいー急に固まってどーしたのー?」
耳元で叫ぶ萌の声で現実へ引き戻される。
「えっ、いや、なんでもない」
目の前にあった萌の顔から目を逸らしながら言う。
そしてもう一度窓際の女子生徒に目を向ける。
だが、おかしい。
確かに、かわいいとは思うし、俺の好みのタイプではないだろうかとは思う。
だが、かわいいだけ。
すごくかわいいだけでさっきまでの感動を感じる程ではない。
ましてや、『内面をみてから判断しろが』モットーの俺が一目惚れするほどの魅力があるとも思わない。
なんだったんだ今のは、全く意味がわからない。
彼女は依然、窓際の席で寝続けている。
「魅了の魔法…?」
萌がそう呟いていたのはこの時の俺には聞こえていなかった。
この後起こる事件によって俺は入学からわすが1週間足らずで自分がこの物語の主人公なのだという現実を突き付けられる事になる。
今後続きは投稿する予定です。
誤字脱字あればすいません!