第04話 鑑定と偽証の使い道
※1/25偽証のスキルの説明に追加事項を加えました。
月明かりが変わらず地上を照らして、木々達はそよぎ、夜は更けていく。
話し合いを終えた教諭二人は、しっかりと六つのグループに分かれた生徒達を確認し、今後についての説明を行った。
一つ目、就寝の際には教諭どちらか一人とグループの一つが交代で見張りを行う事。
二つ目、規律を乱さず、単独行動は行わない事。
三つ目、始めに言ったように日の出と共に修也が周囲の探索に向かう事。
四つ目、何かこの現状についてや、変化などに気付いたものは速やかに教諭二人に報告する事。
五つ目、もし仮にこれが集団誘拐であり、犯人と遭遇した際は、反抗せずに大人しくしている事。
以上の五つが、教諭二人が話し合い、現状に置いて最低限必要な取り決めだと、判断した事項である。
他にも話し出したらまだまだ注意事項は出てくるだろうが、そんな事を一から十まで指示しようとすれば、窮屈さを感じ、反発する者が少なからず現れるだろう。
非常事態なのだから、そんな事はないと断言出来れば良かったが、あくが強く、自由奔放なこのクラスが全て素直に従ってくれるとは修也には思えなかった。
別に修也や八重子が、生徒達に信頼されていない訳ではない。
寧ろ、教師として生徒達との仲は良好と言えるが、生徒達は良くも悪くも行動力のある者が多いのだ。
よって、上記五つ(内、一つは少し違うけれど)が決め事として修也の口から説明された。
そして、修也の「じゃあ、精市のグループと俺とで見張りをするから、皆はもう寝ていいぞ」と言う言葉で、皆いそいそと横になる。
精神的疲れからか、皆身体に倦怠感を覚えていた為、気絶する前まで昼だったにも関わらず、修也の言う通りに生徒達は眠る体勢に入った。
「交代は一時間後な」と付け足す修也の声を聞きつつ、鞄やジャケットを枕代わりに頭を置く。
女子の中には「土の上に寝るなんて有り得ないわ」とぼやいていた者も居たが、残念ながらここにはベッドも布団も枕もなく、あるのは草と土だけ。
溜め息と共に、仕方なく寝転がる姿がちらほらと見受けられた。
精市のグループと修也は、最初の見張りと言う事で、隅に固まって座り、修也に「お先にどうぞ」と促された八重子もまた生徒達に混じり、横になる。
所謂、雑魚寝状態だ。
これがキャンプや、宿泊行事であったならば、どんなに良かったか。
八重子は小さく息を吐き、目を閉じた。
各々、寝られるもの、寝られないものに分かれながらも、身体を休める為に目を閉じる。
八重子は後者だ。
そんな中、雪菜はグループ内で横になりながらも、ステータスを開いていた。
目の前に表示されるのは、先程見たものと全く同じレベル、能力値、称号、スキル。
この事について、先生方に報告するか、否か、雪菜は悩みながらも、自らのステータスを見つめた。
(これが現実のものであった場合、ここは異世界の可能性がある。けど、これが私の幻覚だった場合、私はただの頭の可笑しい人間と言う事になり、ここは地球上の何処かである可能性が残る)
はあ、と雪菜は誰にも気付かれないように小さく溜め息を付いた。
(……鑑定)
雪菜は取得したてのスキルを、試しに空へと向けて使用する。
視線の先の空には、鑑定結果として、空の文字が浮かんだ。
(え、それだけ?)
雪菜は面食らったように、目を瞬かせ、ならば、と別のものへとスキルを使用してゆく。
木に使えば木。草に使えば草。土に使えば土。
当たり前のように、スキルは既に知っている総称のみを表示していく。
そして、最後に物は試しだ、と永久にスキルを向けた所──人間とだけ表示された。
永久が訝しげに辺りを見渡した後、首を傾げていたが、雪菜は特に気にする事なく、再びステータス画面に視線を移す。
(これって、もしかしてレベル上げないと使えない系スキル? まあ、レベル1から全部鑑定出来たら凄すぎか)
内心で苦笑しながら、雪菜は今度は、と『鑑定LV1』のスキル自体に鑑定を行う。
結果、スキルの文字下に文章が現れ、鑑定が成功した事を雪菜に知らせた。
『鑑定』
対象を鑑定するアクティブスキル。
レベルによって、鑑定出来る範囲が異なる。
但し、自分のステータスのみ例外であり、LV10の鑑定が可能。
LV1、対象の総称を鑑定する。
(なるほど。自分のステータスのみが例外。自分のスキルや称号が鑑定出来るなら、普通に使えるか)
雪菜は『鑑定LV1』に続き、称号を鑑定していく。
『異世界人』
異世界から来たものに与えられる称号。
『吟遊詩人』
『歌』のスキルをLV10まで上げたものに与えられる称号。
歌を用いたスキルを使用する際、威力を少しだけ高める。
『歌姫』
周囲に歌姫を名乗る事を認められたものに送られる称号。
歌を用いたスキルを使用する際、消費する魔力を半分にする。
『言語翻訳LV1』
言語を自動的に翻訳するユニークスキル。
LV1、世界の共通語を自動的に翻訳する。
但し、聞く、話す、読むまでは出来るが、書けはしない。
『歌LV10』
歌を媒介にしたユニークスキル。
LV1、歌が極々僅かに上手くなる。
LV2、歌がほんの少し上手くなる。
LV3、歌が少しだけ上手くなる。
LV4、歌が上手くなる。
LV5、歌が割りと上手くなる。
LV6、歌がもっと上手くなる。
LV7、防壁の歌声。歌っている間、結界を展開させる。
LV8、天使の歌声。歌う事で、対象のステータスを上昇させる。
LV9、悪魔の歌声。歌う事で、対象のステータスを低下させる。
LV10、失意の歌声。歌う事で、対象を落胆、又は鎮静させる。
『歌導術LV1』
歌を媒介にしたユニークスキル。
取得条件は『歌LV10』を習得し、『歌姫』の称号を取得する事。
但し、素質がないものは取得できない。
LV1、歌う事で少しだけ自然を操る事が出来る。
『偽証LV1』
ステータスを偽装する事の出来るアクティブスキル。
このスキル自体、偽装されており、見破る為には最低LV9以上の鑑定のスキルが必要。
尚、このスキルを見破れるか、偽装し切るかは、互いのステータスレベルに依存する。
LV1、ステータスのスキル、称号を一つずつ偽装出来る。
(んー、何とも言えないユニークスキル。歌、かぁ……後方支援って感じ? じゃあ、取り敢えず試しに『歌導術LV1』と『歌姫』に偽証発動)
また物は試しだ、と偽証のスキルを発動させる。
スキルは上手く発動されたのか、ステータス上、『歌導術LV1』と『歌姫』の横に偽証中の文字が浮かび上がった。
(んー、これで使えた? よし、スキルは使える、と……これ、どう考えても幻覚じゃないよね)
先生に報告すべきか。どうやって報告しよう。
雪菜はそう思い悩み、んー、と小さく唸る。
自分自身、幻覚ではないか、とステータス画面を見つめた手前、どう説明したら信じて貰えるのか。
中々に、難しい問題であった。
急にステータスが表示出来ると、スキルが使えるようになったと言った所で、怪訝な表情を浮かべられるのは必至。
頭が可笑しくなったのではと、変な目で見られるなんて、雪菜は真っ平だ、と思考する。
ならば、どう切り出すか。
そんな雪菜の悩みは、とある男子生徒の歓喜の叫び声により、掻き消される事になる。
「うおあああああぁぁぁぁッ!! 異世界きたーーっっ!!!」
声の主は、纏まりのない黒髪に黒目、背は並んで真ん中程度の男子生徒、バスケ部所属の加鳥晋也であった。
良く響いたその歓喜の叫びは、寝始めていた者達と、寝掛けていた者達の脳を叩き起こし、見張り役の視線を一身に集めた。
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以下、おまけ。
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永久「寝たか?」
正樹「あー、寝た寝た」
永久「じゃあ、お前、それ寝言?」
正樹「寝言だなぁ」
永久「寝言かぁ……いや、んな訳ないだろ」(笑)
正樹「ぐがー」
永久「今更かッ?! 寝たフリするなら端からやれよッ?!」
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