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【連載版】邪神に手駒として召喚されたらしいんですが(仮題)  作者: 龍凪風深
第二章 ダンジョンに潜るらしいんですが
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閑話 悪魔化の生命力


 蛙の迷宮(フロッグダンジョン)、最下層。

 血溜まりに倒れ伏す男。


 ぴく、ぴく──致死量であろう、赤塗れの男の指先が動く。


 「う、ぐ……あ、ぁ、ぁ…………っっ」


 悲鳴にも似た、苦悶の呻き。

 死んだと思われていた男は、どうやらまだ生きていたらしい。


 「ぐっ、ぞおぉ……殺じ、殺じて、やるっっ……!! 小娘共、があぁっっ!!」


 悪魔化デモンフュージョンのスキル故の効能か、再生されてゆく身体。

 それに伴い、全身に走る激しい痛みに耐えながら、怒りに任せて、男は吠えた。

 酷く乾いた声で、呪詛を織り混ぜるように。


 「カズヒサ」


 男の声以外、聞こえなかったこの部屋に、新たな声が加わる。

 それは、誰かの名前を呼んでいた。


 男は声の主を探して、じろりと視線を動かす。

 その先に居たのは、目深にフードを被った人物。


 「ダメじゃない。子兎ちゃんや色持ちに手を出しちゃ」


 声の高さから女性と判断出来る、彼女は男──カズヒサの直ぐ側まで歩み寄り、その顔に微笑を称えながら彼を見下ろした。

 楽しげでありながらも、何処か咎めるような声音でそう告げてから、「悪い子。悪い子」と笑う。


 「……っお、俺ば……じゃ、邪神様のッッ……!!!!!」

 「聞きたくないわ」


 カズヒサは目を丸くすると、再生途中故か、口から血液を滴らせながらも、慌てたように声を上げる。

 けれど、それは女に遮られた。


 女は「言い訳は可愛くないもの」と、カズヒサの首元にナイフを突き付ける。

 カズヒサは喉を引きつらせ、怯えた目を女に向けた。


 「わ、悪がったっ……も、もうじないっ……!」

 「ふふふ、そう、良かった」


 全身が震え出し、がたがたと奥歯が音を立てる。

 カズヒサは、女に恐怖していた。


 揺らぐ瞳をこちらに向け、謝罪するカズヒサに、女は満面の笑みを浮かべる。

 そして、


 「けど、貴方にはもう────二度目はないのよ?」


 笑みとは裏腹に、吐き出されたのはカズヒサにとっての絶望。

 耳に響いたのは、死刑宣告だった。


 「ぎぃ、が、が、あぁ、あッッ……!」


 汚い喘ぎ声が響く。

 否、断末魔に近いだろう。


 女は至極あっさりとした動作で、カズヒサの脳天にナイフを突き立てた。

 さくり、林檎にでもナイフを通すように、頭蓋を通過した刃先。


 「脳、頸動脈、心臓、神経……何処まで切れば再生しなくなるかしら?」


 女はニヒルに微笑み、ナイフを滑らせた。

 頸動脈を切り裂き、心臓を突き刺し、神経を断ち切る。

 手を、足を、もう再生しないように、ナイフで刺し、切り裂く。


 いつしか、カズヒサの声は聞こえなくなっていた。


 「あら、もう死んじゃった? 残念」


 動かなくなった身体。

 真っ赤に濡れた、魂の抜け殻。

 唯一無事な顔に、頭上から血が流れ落ちる。

 今度こそ、カズヒサは絶命した。

 最早、スキルの力を借りたとて、再生など出来よう筈もない。


 女はひゅっ、とナイフに付着した血液を払い、仕舞う。


 「悪魔化デモンフュージョンを使ったカズヒサを倒せるだけの力は身に付けたのね。でも、まだまだ足りない」


 既にこの場を去った、少年少女等を思い浮かべるように、女は目を閉じる。

 女は「倒すだけじゃダメよ?」と、誰にも聞こえないと知りながら、忠告するように呟く。


 「ねぇ、カズヒサ。貴方はやり方を間違えたのよ。もう少し上手く立ち回れば、長生き出来たのに。恨むべきは、敵か味方か。ふふ、英雄エローの愛は世界を救えなかったのだわ」


 両手を頭上へ掲げ、くるりと回って見せる。

 軽やかなステップが、女の愉快そうな心を表していた。


 これからの事を考えると、女は愉快で愉快で堪らなかった。


 争いが始まる。

 簒奪、略奪、侵略。戦争だ。


 ある者は、帝位を奪い。

 ある者は、金を奪い。

 ある者は、女を奪い。

 ある者は、国を奪い。

 ある者は、世界を奪う。


 これからの事を思うと、女の心は踊った。

 獣の渇望。

 飢えた牙は、血を求める。

 研がれた爪は、肉を欲す。


 全て喰らい尽くしてしまえ。

 全て引き裂いてしまえ。


 ────憤怒のままに。


 「ああ……可哀想な子兎ちゃん。可哀想な──。もしも、仲間内に敵が混ざっているとしたら、彼等は、彼女等はどうするのかしら?」


 ふふふ、と楽しげに笑う女の背後に、灰色の大きな尻尾が、ふさりと揺れていた。



.

結構前に書き上げたお話。

やっと、修正が終わったので上げて置きます。

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