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【連載版】邪神に手駒として召喚されたらしいんですが(仮題)  作者: 龍凪風深
第二章 ダンジョンに潜るらしいんですが
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第44話 勝つは歌姫かはたまた悪魔か


 (これ、本当に私のステータス? これなら、いける。けど……)


 ステータスを確認した雪菜は、目を瞬かせるも、直ぐに今は戦闘中だと首を振る。


 「Put a bullet in the gun」

 「この、くそ女くそ女くそ女アァァァァ?!!!!」


 男は余程頭にきたのか、怒りの咆哮を上げながら、翼を羽ばたかせて、雪菜に突っ込む。

 雪菜はそれを視界に捉えながら、歌い続ける。


 「くそっ、くそっ、くそっ……!! 何で、当たらねぇ……?!!」


 男は雪菜に拳を振り翳すも、往なされ、当たらず、ただただ苛立ちだけが募る。

 雪菜は歌による身体強化により上がったステータスを活用して、男の攻撃を見切り、対処していく。


 (魔物は、殺せた。けど、人間は…………。敵である事に変わりはない。こちらを殺そうとした事実も、変わらない)


 雪菜には、踏み切れない一線がある。

 その一線こそが、目の前に居る男だ。


 この男を、殺さずに倒す?

 ううん、それじゃあ、きっと駄目だ。

 殺さなければ、殺される。


 この男は、確かに私達を殺しに来たのだ。

 なら、ここで殺さなければ、後々に影響が出る。

 私が今この男を殺さずに倒せたとして、再び私達の前に現れた時、戦えないクラスメイトの誰かが対峙したらどうなる?


 雪菜は迷いを見せる思考と並列して身体を動かし、男の攻撃を躱して、足払いを掛ける。

 男は翼を駆使して、雪菜と距離を取るように後ろへ飛んで躱すと、悪態を付き、詠唱を始めた。


 「っだぁ、くそ! 黒き帳へと閉ざすものよ」


 それは恐らく、何らかの強力な術の準備だろう事は明白。

 雪菜は目を細めると、一気に加速して距離を詰める。


 「その悪辣なる意思に基づき、矛を落とせ!」


 シルビィ達の結界は維持したまま、自分の身体強化の精度を高める。


 私は私の今すべき事をしよう。

 この男を殺す事と、私達全員の身を守る事が同義ならば、迷ってはいられない。

 こんな訳の分からない世界で、死ぬ気なんてない。

 腹を、決めろ。


 「Defeat our enemies」


 一気に男の懐まで飛び込み、雪菜が男の顎目掛け、足を振り上げる。

 男はその攻撃を両手をクロスさせる事で防ごうとするも、間に合わず、鈍い音と共に蹴りが直撃。

 雪菜はそのまま、後ろによろけて、苦悶の表情を浮かべる男に追撃を喰らわせるべく、動く。


 「……っっ悪魔の槍(デモンズランス)!」


 雪菜の攻撃により、脳内が揺れる。

 男は頭を押さえながらも、完成しきった呪文を発動させた。

 それは、黒い光りを纏った大きな槍の姿をしており、追撃に動いていた雪菜の真上より現れ、その身を貫かんと降り落ちる。


 (……私の結界よりは脆い)


 けれど、雪菜は酷く冷静に、術の強さを判断し、間近に現れた槍に臆する事もなく、雪菜はダガーに結界を幾重にもコーティングし、その槍を叩き折った。


 ぱらぱらと、黒い欠片が地面を舞い落ち、溶けるように消えて行く。

 男は口元を引き攣らせながら、まるで化け物でも見るような目で、雪菜を見つめた。


 「嘘、だろ、おい。そんな……さっきまでと全然違うじゃねぇか?! 話が違う! 何でだよっ、こんな、こんな奴が居るなんて……?!! お前等、ここに来てまだそんなにっっ……?!!!」


 男は錯乱したように叫ぶ。


 (話が、違う?)


 雪菜は男の言葉に対し、僅かに疑問を持つも、ちらりとステータスに表示され始めた薬品の制限時間を確認すると、ダガーをコーティングする結界を一度解き、柄を持つ手に力を込めた。


 時間は有限。

 この時間が終わってしまえば、雪菜はこの男に勝てなくなる。


 「レベル差がある筈だろうがぁぁぁぁ?!!!」


 地を蹴り、再び距離を詰めて来る雪菜に、男が我武者羅に拳を振るう。

 雪菜はそんな男の拳を往なして、ダガーを男の頸椎目掛けて突き刺すも、ダガーは男の手により、寸での所で掴まれた。


 男の手からは血が滴り、互いにダガーを押し合う。

 が、途中で雪菜がダガーから手を離した事により、急に力の均衡は崩れ、男が前のめりになる。


 「っっ?!」


 一瞬目を丸くした男に構わず、雪菜は鳩尾に掌底を打ち込む。


 「っが!!」


 雪菜の攻撃をまともに喰らった男は、ダガーを地面に落とし、よろよろと後退する。

 今度こそ、雪菜は追撃せんと、歌導術ステラトラグディに新たな指示を加えて歌う。


 (強化版、似非風の刃(ウインドカッター)


 雪菜がスキルの発動場所を決めるように、男に向けて右手を翳すと、風の刃の生成を行う。

 歌により生み出された風の刃は、今まで使用していたものよりも強力に作用し、男の身体を後方へと吹き飛ばす。


 飛ばされた男の身体は、鋭利な風に切り裂かれ、多量の血液を垂れ流しながら、そのまま地面に叩き付けられた。

 けれど、まだ戦う意志があるのか、男は上体を起こし、「うあああぁぁぁッッ!!!!!」と叫び声を上げながら、こちらに手を向けて悪魔の風(デモンゲイル)を放つ。


 「Get ready now.」


 黒い風の刃が、雪菜に向かうも変わらずに紡がれる歌による結界により、それは届かない。

 男は、自分の術が結界に防がれるのを見た後に、がくりと糸が切れたように仰向けに倒れ伏した。

 男の身体から流れ出る血は止まらずに、まるでペンキでも零したかのように、地面を真っ赤に濡らしていく。


 「……止め」 


 雪菜は地面に落ちたダガーを拾うと、ぎゅっと握り直し、倒れた男の前へ歩み寄る。


 「は、別に刺さなくても、もう……」


 多量の血溜まりに横たわる男の姿を見下ろし、雪菜はそう呟く。

 そして、ダガーを持つ手をだらりと下した。


 放って置いても、この男は死ぬだろう。

 この出血量では、まず助からない。


 悪魔なのか、人間なのか、分からない男。

 死因は、きっと出血死だ。

 男を雪菜が殺す事実に、変わりはないが。


 (ああ、そういえば……この支払った代償は何処へ行くんだろう)


 ふと、一抹の疑問が脳裏を過り、そうして雪菜の意識は途切れた。

 最後に聞いたのは仲間の声。

 驚愕と焦りを織り交ぜたような、自分を呼ぶシルビィ達の声。


 力の入らなくなった身体は、どさりと地面に崩れ落ちた。





 『薬品の効能が切れました。歌導術ステラトラグディLV10が歌導術ステラトラグディLV6に後退しました』


 『スキルの効果が切れました。ステータスの上昇値が後退しました』


 『熟練度が一定値に達しました。偽証フェイクLV2から偽証フェイクLV3にレベルアップしました』


 『経験値が一定に達しました。レベルが14から15に上がります』


 『経験値が一定に達しました。レベルが15から16に上がります』


 『経験値が一定に達しました。レベルが16から17に上がります』


 『経験値が一定に達しました。レベルが17から18に上がります』


 『経験値が一定に達しました。レベルが18から19に上がります』


 『経験値が一定に達しました。レベルが19から20に上がります』


 『経験値が一定に達しました。レベルが20から21に上がります』


 『経験値が一定に達しました。レベルが21から22に上がります』


 『経験値が一定に達しました。レベルが22から23に上がります』


 『経験値が一定に達しました。レベルが23から24に上がります』


 『解放条件が満たされました。スキル、韋駄天パトゥサグリゴロスLV1を取得しました』


 『取得条件が満たされました。称号、歌導術師ローレライを取得しました』




.


大変、お待たせ致しました!

これにて、長かった加鳥くんの救出が終了です。

次回からは閑話を挟んだ後に、街に戻ります。



以下、おまけ。



 ◆◆◆◆◆◆


 帰還組の道中2。



 和泉「さっすが、幸村くん! 他の頼りになんない人達とは大違いだよね!」


 叶太「おい、辛辣か……!」


 鈴代「それを言うならお前もだろう、桃智。護衛役はどうした?」


 和泉「はぁ?」


 叶太「こっちも辛辣……?!」


 葵「お、落ち着いて……!」





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