第40話 vsフロッグキング、ファイ!
大変、お待たせ致しました!
蛙の迷宮の迷宮主は、三匹の蛙だった。
否、正しくは迷宮主一匹とお付きが二匹だ。
真ん中に、二足で立つ、王冠を被り、マントを羽織り、杖を持った緑蛙、左右には二足で立つ、兜を被り、剣を持った薄緑蛙。
雪菜は三匹に向かい、鑑定を使用する。
(迷宮主、蛙の王レベル25、蛙騎士レベル16、二匹……)
視界の内に、浮かび上がった文字を見付めながら、雪菜はダガーを引き抜く。
「迷宮主って一匹じゃないの~?」
「三匹、きつい」
「俺達三人で一匹ずつ相手をするぞ」
げ、と顔を引きつらせる勇人に、頷く裕司。
精市は、僅かに眉根を寄せると、そう言って「栗原さんは加鳥を捜索。シルビィさんは俺達の補助を。加鳥を見付け次第、離脱します」と、指示を出す。
四人は黙って頷くと、各自の役割の為に動き出した。
精市が蛙の王に、勇人と裕司が蛙騎士に向かい、シルビィは詠唱を始める
雪菜は壁寄りに駆け、「加鳥くん、居るっ?」と声を上げた。
だが、返事はない。
「加鳥くんっ!」
奥へと足を進ませて、先程より大きな声で名前を呼ぶ。
所々に大きな岩のある広いこの階層内に、雪菜の声が響く。
「っ……く、栗原さんんっ!!?」
「加鳥くん? 何処? 助けに来たから早く出て来て。逃げるよ」
奥から晋也の驚愕の声が聞こえ、雪菜はそう声を掛ける。
すると、大きな岩の影から、晋也が慌てて飛び出して来た。
「うおぁーっ、助かったあぁ……!! 栗原さんマジ女神、結婚して!」
「寝言は寝て言って」
「辛辣っ?!!」
「早く行くよ」
半泣きの晋也を連れて、雪菜は扉まで戻るべく足を動かす。
ちらり、と動かした視線には、自分と精市達三人に勇ましい腕を行使するシルビィと、己の得物をぶつけ合う三人と、蛙三匹の姿が映る。
「シンヤ様! ご無事だったのですね!」
「あ、はい、この通り!」
晋也が、シルビィに頷く。
雪菜は階層の真ん中で繰り広げられる戦闘を見付め、これ、離脱可能なの?、と眉根を顰める。
片や杖、片や片手剣で押し合い、弾き、また押し合う精市と蛙の王。
剣と剣で、互いに飛んだり跳ねたり斬り結ぶ勇人と蛙騎士。
蛙騎士より振るわれる剣を、器用に躱しながら、短剣二本を振るう裕司。
時々、ぶつかり合う得物が、互いに触れて傷を付ける。
(これ、相手が三匹も居たら全員で逃げるのは難しいんじゃ……?)
雪菜はそう内心で呟くと、取り敢えず蛙騎士を一匹討伐しようと、シルビィに「シルビィさん、加鳥くんは任せたよ」と告げ、勇人の元に足を進めた。
背後で「え?!」と声を上げる、晋也には構わずに。
「っ、重……!」
顔を歪めながら、勇人が振り下ろされた蛙騎士の剣を、受け止める。
ギリギリ、と押し合い、互いに弾き合う。
そこに、雪菜が「黒井くん、避けて」と割り込む。
勇人は少々目を丸くしながらも、バックステップで後ろへ下がった。
(歌導術、似非風の刃!)
勇人が下がったのを確認し、直ぐに歌を奏でる。
歌うのはアップテンポな曲で、それに合わせて蛙騎士を無数の刃と化した風が襲う。
(これくらいじゃ倒れないか)
風の刃に身体を刻まれながらも、蛙騎士が「ゲゴゴッ!」と鳴き声を上げて、雪菜へ突っ込んでくる。
雪菜は防壁の歌声に切り替え、斬り掛かってきた蛙騎士の剣撃を防ぐ。
「オレの事、忘れてない~?」
勇人が蛙騎士の背後に回り、下から斜め上に向けて剣を滑らせる。
だが、それはびよん、と跳び跳ねて回避され、跳ねた蛙騎士は勇人の背後に着地し、剣を振るった。
「人間なんて軽々飛び越えられる訳」
直ぐ様振り向き、剣撃を受け止めると、勇人は小さく呟く。
「階層主の跳躍よりマシじゃない?」
勇人と蛙騎士が互いに弾き合った瞬間に、雪菜が素早く地を蹴り、相手の懐に飛び込む。
ダガーを真っ直ぐに構えて、腹部を貫かんと動く。
それは見事に剣で防がれ、後方へと僅かに弾き飛ばされるが、その際にダガーを投擲し、今度こそ蛙騎士の腹部に突き刺さった。
「栗ちゃん、得物投げちゃダメ、じゃない?」
よろける雪菜を横目に、ダガーを突き刺され、短く悲鳴を上げる蛙騎士に、勇人が追撃を入れる。
振り下ろした剣が、蛙騎士の身体を斬り裂く。
次いで、血を流しながら、反撃をしようと蛙騎士の振るった剣を避け、剣の切っ先を喉へと突き立てた。
「歌使いながら近付けば回収出来たから、問題ないよ」
雪菜は言いながら、地面にどさり、と倒れ伏し、僅かに痙攣する蛙騎士に近付き、その腹部からダガーを引き抜く。
「そっかー」と勇人は頷いて、精市と裕司に視線を向けた。
「じゃ、オレ精ちゃんの加勢するから~。栗ちゃんは裕ちゃんよろしく~」
ひらりと手を振って、精市の元へ歩いて行く。
雪菜は小さく息を吐き、精市と裕司に視線を向けた。
蛙の王より突き出された杖先を、剣腹で受け止める精市と、蛙騎士の剣撃を僅かに掠りながらも躱し、斬り掛かる裕司。
(私は灰沢くんの加勢か)
雪菜は内心で呟くと、ダガーを握り直して裕司の元へ向かう。
「……っ!」
鋭い剣撃が裕司の頬を掠め、それと同時に、二本の短剣が蛙騎士の腹部を浅く切り裂く。
「ゲコオォ」と一鳴きし、蛙騎士が剣を振り下ろす。
裕司は少々屈み、短剣をクロスさせて受け止めると、足払いを掛けるように蛙騎士に蹴りを入れた。
蛙騎士の身体が、後方によろける。
裕司は受け止めていた剣を弾き、地を蹴ると、二本の短剣を深々と蛙騎士の両肩に突き立てた。
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取り敢えず、ここらで区切り。
以下、おまけ。
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晋也「……っっ」(びくびく)
蛙の王「ゲコゲコ」
晋也「……っっ?!!」(びくんっ)
蛙騎士「ゲゴォッ」
晋也「……っっっ?!!!」(がたがた)
蛙騎士「ゲゲコ」
晋也「……っ……っ~!!」(がたがたがたがたがたがた)
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