第38話 はじめてのフロアボス戦です
(鑑定)
雪菜が大蛙に向かって、鑑定のスキルを使う。
視界に映るのは、大蛙の上に表示された階層主、大蛙、レベル17の文字。
やっぱり格上か、と雪菜はダガーを握り直す。
「勇人、裕司は前衛! 栗原さんはシルビィさんの護衛をしつつ、歌で防御を!」
精市が指示を飛ばし、雪菜は自分は後衛か、と直ぐにスキルを発動出来るように、大蛙と三人を視界に捉えながら、シルビィを庇うように前に立つ。
「頑張ってください! 勇ましい腕!」
シルビィの付与魔法が、自分以外の四人に掛けられる。
「でかい、邪魔、奥、行きたい」
先制は裕司。
大蛙の腹部を狙い、二本の短剣を交差させるように振り抜く。
否、振り抜こうとした所で、嫌な予感を感じてか、裕司が攻撃の手を止めて、後ろへ飛ぶ。
同時に雪菜の歌が響き、大口を開けた大蛙の口内から大量の唾液が吹き出された。
汚い水音を立てて、防壁の歌声に防がれた唾液が、地面に水溜まりを作る。
「うわっ! 汚ぁ~!」
勇人が目を丸くしながらも、素早く大蛙の背後に回り込み、片手剣を振り下ろす。
が、それは大蛙の長く伸びた舌に手を絡め取られた事で、止められる。
「げぇ~っ!」と声を上げる勇人を、大蛙はそのまま、ずるずると引き摺った。
「力、強っ……!」
勇人は舌の絡まる右手から片手剣を落とし、左手に持ち変えると、伸びた舌に向かって、それを振り抜く。
すると、瞬時に舌は大蛙の口内へ戻る。
次いで精市と裕司が斬り掛かる。
大蛙は、今度は唾液を水鉄砲のように飛ばすが、これも雪菜の歌により阻まれた。
そして、精市の剣撃が大蛙の腹部を、裕司の剣撃が背中を切り裂く。
「浅い」
精市が呟き、今度は剣先を突き刺そうとした所で、大蛙が「ゲェゴォッ!」と大きく鳴いて、跳び上がった。
裕司が「選択、退避、一択」と後ろへ下がり、精市と勇人も同様に下がる。
(うわ、跳ねた)
雪菜は大蛙を視線で追いながら、目を細めた。
迷宮の天井ギリギリまで跳び上がった大蛙は、自らの重さに任せて垂直落下する。
大蛙は激しい音を響かせ、地面を揺らし、土煙を舞わせた。
襲い来る小さな地震に、五人は短く悲鳴を上げ、僅かに体勢を崩す。
「ゲェゴォォ!」
大蛙がまた大きく鳴き、跳躍する。
精市は大蛙を見据え、魔法の詠唱を開始していた。
「ちょ、それはなし」
「こ、こっち来ましたぁ?!」
真上──ではなく、雪菜達に向かって跳び上がった大蛙に、雪菜は慌ててシルビィの手を引き退避する。
「猛る炎よ、矢となりて飛べ。炎の矢!」
どしいぃん、と大蛙の落下に伴い、また地面が揺れた瞬間、詠唱を終えた精市が火魔法を放つ。
生み出された炎の矢が着地直後の大蛙に向かう。
だが、それは口から吐き出された唾液により消化された。
「火を涎で鎮火とか有り得ない~!」
炎の矢に気を取られていた大蛙の頭上へと飛び乗り、勇人がその勢いのままに片手剣を頭の頂点に突き刺す。
途中で、頭を貫かれる痛みでか、大蛙が激しく身体を左右に揺さぶる。
それにより、勇人は「う、わ、おあぁ」と、頭上より地面へ投げ出され、空中で一回転すると、手と膝を付いて着地した。
「勇人! 蛙、頭、剣、生えたまま!」
大蛙の頭上に、三分の一程埋まったままの片手剣を指差して、裕司が声を上げる。
勇人は「わかってる~!」と、丸腰ながら駆け出す。
精市はそんな二人を横目に、再び詠唱に入り、シルビィもまた、そろそろ切れるであろう付与魔法の詠唱に掛かる。
(防御力は高め。舌の出し入れが早い。跳び上がりは厄介)
雪菜は大蛙と三人を観察する。
──歌導術の疑似風の刃でダメージを与えられるだろうか。
いや、今試すには誤射が怖いか。
雪菜は大蛙に斬り掛かる裕司と、刺さったままの片手剣を回収しようとする勇人を視界に捉え、そう思考する。
雪菜の後ろで詠唱の終えたシルビィが、再び勇ましい腕を発動した。
「ッッ……?!」
大蛙が前足を上げると、自分を攻撃する二人に向けて振り下ろす。
二人はぎょっとして左右に飛び退き、落下程ではないが、地面に下ろされた前足が、地面を揺らした。
「燃え盛る業火、それは炎帝の鉄槌、貫け。業火の槍!」
二人が退避したと同時に、精市の詠唱が終わり、大蛙の頭上に大きな槍状の炎が浮かび上がり、その身体を貫かんと落ちる。
今度は躱せずに、火魔法に身体を焼かれた大蛙が、苦悶の悲鳴を上げてのた打つ。
「?! また、こっちにッ?!」
「シルビィさん、下がってて」
地面をのた打ちながら、こちらに向かってくる大蛙に、シルビィが声を上げる。
雪菜はそうシルビィに声を掛けて、地を蹴った。
裕司が「栗原」と、名前を呼ぶのが聞こえて、雪菜は「ごめん、いいとこ取りする」と言って、足を進める。
(こっち来たから)
大蛙に向かい、歌導術により、風を操作、加速し駆ける。
途中伸びて来た舌を防壁の歌声に変更した歌で弾き、また歌導術に戻すと、風の力を借りて、相手の頭上へと跳躍。
そして、勢いのままに頭上に突き刺さったままの、片手剣の柄へと着地する。
足裏で思い切り踏み付けられた片手剣は、ずぶ──と深く、大蛙の頭に剣身を全て沈み込ませた。
「……っと」
雪菜は片手剣の柄を踏んだ後、そのまま後ろへと跳び、バク宙の要領で回転し、体操選手よろしく地面に着地する。
それが止めになったのか、大蛙は、よたよたと身体をよろけさせた後に、地面に倒れ伏した。
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フロアボス戦です!
相手が蛙って、書き辛いですね……(汗)
そして、主人公のいいとこ取り(笑)
次回更新は明日19時以降をよていしております!
以下、おまけ。
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晋也「…………何処、ここは?」
(きょろきょろきょろ)
晋也「下層? 何もなっ…………?!!!」
(ぎょっと目を剥いて、後退る)
晋也「……た、たすけて」(泣)
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