第03話 グループ分けをして、これからを考える
(はっ?! ちょ、取得されたのッ?!)
永久と、その後ろに連れられた男子生徒と女子生徒に、ちらりと視線を向けた後、目を丸くして更新されたステータスを凝視する雪菜。
ステータス、スキル欄にはしっかりと『偽証LV1』が追加表示されている。
取得するか悩んでいたものが、永久に声を掛けられた拍子に何故か勝手に取得されてしまったようだ。
「……ステータス、クローズ」
肩を落とし、項垂れながらも、雪菜はまた小さく誰にも聞こえないように、恐らくステータスを閉じられるだろう言葉を唱える。
そして、目の前に表示されていたステータスは、言葉に反応するように消えた。
「取り敢えず、緑川さんと正樹連れて来たぞ?」
一人項垂れる雪菜に気が付いていないのか、はたまた気付かない振りをしているのか、永久が二人を雪菜達の前に押しながら告げる。
「え、えと……青瀬くんに誘われて……」
「トワに誘われたから来たんだけど、トワのグループに居んの栗原さんと茶越さんだったんだ」
丁度お尻くらいまでの長い緑色のお下げ髪と、髪と同様の色合いをした垂れ目に、弱々しい印象を受ける女子生徒──料理部所属、緑川いのりが、雪菜等の反応を窺うように見つめる。
その隣では、スポーツ刈りの黒髪に、黒い瞳の快活そうな男子生徒──サッカー部所属、山下正樹が、物珍しそうに二人、特に雪菜を見て呟く。
「青瀬くん」
「え、栗原さん、怒ってる?」
「……タンスの角に小指ぶつけて」
「なんでっ?!」
恨めしげに自分を睨む雪菜に、永久は首を捻り、何かしたかと、挙動不審に陥り、助けを求めるように美夜に視線を向ける。
けれど、美夜は親指を立て、グーサインを送るのみであり、助ける気はないようだった。
「あ、あのっ……!」
ふと、いのりが意を決したように声を上げる。
四人は何だ、といのりへと視線を移した。
「ど、どうして……どうして、皆、そんなに、いつも通りなの? 不安じゃ、ないの? 怖くないの?」
目尻を下げ、弱々しげに紡がれる言葉に、四人は顔をきょとんとさせる。
「俺、外面に出てないだけでめっちゃブルってるんだけど」
「あー、俺は一周回って、なんか落ち着いたんだよ」
正樹、永久、と順にいのりに告げ、次いで女子二人も口を開く。
「私は夢心地なんだと思う。現実感がなさ過ぎて、感情が追い付いてない感じ」
「んー、あたしは集団の安心感からかな? ほら、こんだけ人数居たら大丈夫そうじゃない? 先生も居るしね」
何でもないように答える雪菜に、少し苦笑い気味に答える美夜。
いのりは「そっか」と呟いて、スカートの裾を握った。
「大丈夫、いのりん?」
「うん……訳が分からなくて怖いけど、頑張る」
心配そうに顔を覗き込む美夜に、いのりは小さく頷く。
胸中の不安を取り除く事は出来ないけれど、誰かが近くに居る事はとても大きい。
いのりは何となくではあるが、永久達の傍に居れば大丈夫だと、根拠もなくそう感じた。
「青瀬くん、お疲れ。じゃあ、グループはこの五人でいい?」
雪菜が永久に一言告げてから、確認するように問い掛けると、永久は「あんがと、栗原さん」と返し、残りの三人は静かに頷く。
「あ、でもでも! 空手部のトワちゃんとサッカー部のまさっきーが一緒のチームで大丈夫なの?」
ふと、美夜が挙手しながら、永久と正樹を交互に見遣り問う。
それに、正樹が「文化部の女子三人に、運動部の男子二人なら平気じゃないか?」と言い、次いで永久が「護身系の部なのは俺だけだし大丈夫じゃね?」と、何とも軽く返す。
運動部はなるべくばらばらに、と精市が言っていたのはチーム編成に偏りが出来ない為の配慮であり、運動部が絶対一人でなければならない訳ではない。
生徒、三十人中、運動部員は少なくとも六人以上は居るのだから、チームによっては一人から二人入る事になる計算だ。
「もし問題があったら、赤坂くんが指摘するんじゃない? そしたら、何処かの文化部の子と交代したらいいよ、青瀬くんが」
「何で、俺? そこは正樹じゃね?」
「トワ、お前なっ……」
ちらりと永久に視線を向け、雪菜が至極平淡に告げる。
永久は首を傾げた後に、仲間を売るが如く、正樹の名を差し出し、正樹はそんな永久に、呆れたような、軽蔑したような目を向けた。
「じゃあ、グループはこれで決まり、かな?」
「うん、いんじゃないかな!」
今度はいのりが確認するように、四人に問うと、美夜がにこやかに頷いた。
そして、「んじゃ、よろしく」と軽く挨拶をし、他のグループ編成が終わるのを、座って待った。
その間の会話は、「ここはどこの森だろう?」と言う疑問から始まり、「樹海ではないか?」「日本ではある?」などの、疑問に頭を捻って終わる。
勿論、誰からも答えは出なかった。
五人が雑談を行う中、程なくして、グループ分けが終了する。
まとめ役たる精市により、五人一組、六グループは個々に小さく円を作るように集まり、地面に座った。
一グループ目、赤坂精市(生徒会長及びクラス委員長)、水家鈴代(水泳部所属)、灰沢裕司(帰宅部所属)、小西愛衣(文芸部所属)、阿笠昌治(帰宅部所属)。
二グループ目、黒井勇人(副生徒会長及びクラス副委員長)、名取南奈(演劇部所属)、黄谷真弥(裁縫部所属)、一之瀬啓太(野球部所属)、九重雅(茶道部所属)。
三グループ目、栗原雪菜(声楽部所属)、茶越美夜(写真部所属)、青瀬永久(空手部所属)、緑川いのり(料理部所属)、山下正樹(サッカー部所属)。
四グループ目、桃智和泉(弓道部所属)、久東貴李(理科研究部所属)、幾島葵(図書部所属)、立花怜奈(図書部所属)、加鳥晋也(バスケ部所属)。
五グループ目、天宮朱里(剣道部所属)、藍崎仁(テニス部所属)、綾辻林檎(美術部所属)、御堂満瑠(美術部所属)、高城叶太(放送部所属)。
六グループ目、白石幸村(剣道部所属)、藤沼陽太郎(帰宅部所属)、影山紗月(オカルト研究部所属)、本條歩夢(バレーボール部所属)、宮地晃(新聞部所属)。
以上が分けられたグループの面子である。
「俺と勇人のグループ以外は運動部が二人。まあ、こんな所か」
ぐるりと六つのグループを見渡し、精市が呟く。
「では、これからの行動は今決めたグループで行って貰う。単独行動は勿論禁止だ。各自、先生方の話が終わるまでその場で待機」
精市の次の指示が飛び、皆それに従うように地面に大人しく座り、各々で待機中の時間を潰すように話し始める。
話題はやはり、今置かれている状況についてが多い。
中にはライトノベルの話や、異世界転移なんて単語もちらほらと聞こえるが、不安そうな問い掛けも同様に聞こえる。
「帰れるのか?」「大丈夫なのか?」と。
半々、と言った所だろう。
担任たる修也への信頼感と、集団的安心感、それに生徒会長たる精市からの指示により、酷く混乱し、慌てる事はないものの、不安を抱くものは少なくない。
けれど、怯えるものばかりではなく、冷静に現状を見つめようとするものも居れば、「ここは異世界なのではないのか」と興奮するものも居た。
正に千差万別。
精市は、話し合いを続ける教諭二人を横目に、これからの事を思って小さく溜め息を吐く。
夜はまだまだ、始まったばかりのようだった。
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グループ分け完了です!
次回更新は、仕事前に出来ましたら朝8時か9時、出来ませんでしたら昼の12時を予定しております!
以下、おまけ。
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雪菜「緑川さん、大丈夫?」
いのり「え? あ、うん……」
雪菜「そう? ならいいけど」
いのり「皆が居るからだいじょ──」
永久「ばあっ!」(肩ぽん!)
いのり「いやあああぁぁッ!」
雪菜・美夜「「やめい!」」(頭殴!)
永久「っであ?!」
美夜「トワちゃんがごめんね、いのりんんん……!!」
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