第34話 レベルが低い時のレベリングは結構早い
三階層目。
十一人で固まって居らずとも、問題ない事が分かり、雪菜達は二手に分かれ、手分けして褐色蛙狩りを開始した。
レベルの高い褐色蛙を狩る雪菜、シルビィ、美夜、雅、永久チーム。
周囲の蛙や、幼蛙を狩る勇人、啓太、正樹、いのりに、幼蛙限定でたまに戦う南奈と真弥チーム。
勇人のチームが、些か心配ではあるが、見えなくなる程離れて狩る訳ではないし、平気であろう、と言うチーム分けである。
そして、チーム内で連携を取りながら、魔物を討伐していく。
「勇ましい腕!」
褐色蛙二匹と対峙し、シルビィが自分以外の面子のステータスを上昇させ、雪菜が歌導術で突風を起こし、舌を伸ばせないように、動けないようにする。
その後、一匹を雪菜が、もう一匹を永久が追い風の勢いに乗って蹴り飛ばす。
「っと、九重さーん!」
「動くな。美夜、止め」
地に転がった褐色蛙をダガーで切り裂き、虫の息になった所で止めに、永久が雅を、雪菜が美夜を呼ぶ。
雅、美夜はそれぞれダガーを振り被り、「やあっ!」と褐色蛙の腹部を突き刺した。
「うし、これで七匹だな」
褐色蛙が絶命したのを確認して、永久が呟く。
「この調子なら直ぐに依頼達成出来そうですね?」
「トワちゃんとせつなんが止めを譲ってくれるから、あたし達も効率よくレベル上げ出来るしね」
シルビィが笑い、美夜がそう言いながら、ダガーに付いた血液を払う。
「レベル上がってる」
ふと、雅がステータスを開き、表示された内容にぽつりと零す。
レベルが6まで、上がっているようだった。
「お、みやびん! レベル上がったんだ!」
「……茶越さん、私の名前をおやびんみたいに言うのやめて」
「えー、みやびんって、可愛くて良くない?」
「はあ?! 何処がッ?!」
雅の呟きを拾った美夜がにこりと笑い掛けると、雅は顔を顰めた。
そんな雅に、美夜が首を傾げて告げると、今度は目を丸くしたかと思うと、声を荒らげる。
「ん~、みやびんって響きが……?」
「可愛くないっ?! 変な呼び方しないで!」
ふむ、と頭を捻り、またあだ名呼びをする美夜の呟きに、雅は目を吊り上げる。
美夜は「ごめんごめん、雅ちゃん」と苦笑した。
雅は「分かればいいの、分かれば」と、小さく溜め息を吐く。
「……はぁ……っ」
美夜達を眺めながら、いや、美夜、別に可愛くないよと内心で呟きつつ、雪菜が疲れたように、浅く呼吸した。
(……ほんと、疲れるの早いな。体力ないせいか)
感じ始めた疲労感に、自嘲する。
今まで切羽詰まっていた為、あまり気にならなかったが、雪菜は体力がない。
ステータスを見てもそれは明白である。
(レベルが上がれば、体力値上がるし。後は走り込みでもする? 異世界で? ……いいや、さっさと片付けて帰ろう)
雪菜は一本と半分程度、採取の終わった小瓶を確認する。
そして、不意に少し離れた場所で戦う勇人達に視線を向けた。
(……あれ? 一之瀬くんは?)
蛙を相手取る勇人。
幼蛙と対峙する正樹といのり。
その後ろで、三人の戦いを見学する南奈と真弥。
雪菜の目に映る景色には、居る筈の啓太が足りず、きょろきょろと辺りを見渡す。
(あ、居た)
雪菜が視線を彷徨わせると、勇人達から離れた位置で一人、蛙を相手する啓太を発見する。
助けに行った方がいいだろうか、と雪菜はダガーに手を伸ばしたが、程なくして啓太が蛙に止めを刺すのを確認し、やめた。
「セツナ様?」
「! ……何かありましたか? シルビィさん」
「あ、いえ……何を見てるのかと思いまして」
「すみません。ぼんやりしていたみたいです」
「そうですか。お気をつけくださいね? あまり魔物が強くないとは言え、ここは迷宮の中ですから」
柔らかく笑むシルビィに、雪菜は「はい、気を付けますね」と苦笑を返した。
「さて、さくさく油採取しちゃいましょうか」
「はい!」
雪菜が、シルビィと共に次の獲物を探すように歩き出す。
その頃には、啓太は勇人達の元に戻っており、討伐も終えていた。
「後、八匹か?」
「八匹だねぇ」
「美夜さん、レベルは?」
永久が首を傾げた。
「ふむ、聞いて驚け、見て笑え! 何とレベル5だぁ!」
「いつから、美夜は何処ぞの三色鬼に……!」
「みーちゃんと呼んでもいいのよ?」
「呼ばねぇー。てか、俺レベル6!」
「……せつなんには負けてるじゃん!」
「それは言わないお約束っ……お、男としてのぉっっ……」
口元をにやーとさせた、渾身のドヤ顔を披露する永久に、美夜が唇を尖らせ、声を上げると、およよ、と泣き真似をし始める永久。
それを見た雪菜が、あの二人は何やってるんだ、と呆れたような視線を向ける。
「茶越さんも青瀬くんも真面目に出来ないの?」
雅の眉間に深く皺が刻まれる。
緊張感のない二人に、お怒りのようだ。
先程、美夜に向けたのより、幾分怖い顔で、低い声で、二人を睨む。
二人は思わず固まった後、目を瞬かせて顔を見合わせた。
「いや、あの、九重さん? 俺等、ちょっとね、あんまり緊張感あり過ぎるのも良くないと思って……!」
「ほ、ほら! 常に張り詰めたままだと、パンクしそうって言うか、ね……?」
明らかに怒った風の雅に、これはまずい、と二人が慌てて弁明する。
雅は「それで?」、と目を細めた。
二人は無言で、目を泳がせる。
「九重さん」
「……何、栗原さん? 今、この二人と話してるんだけど」
「あんまり怒んないであげて。二人が黙っても気持ち悪いだけだから」
九重さん怖いなぁ、とシルビィと二人で見付めていた雪菜だが、助けを求めるような美夜と永久の目と、不覚にも目が合ってしまい、仕方ない、と間に割って入る。
明るい性質の二人が黙って、大人しくなったら気味が悪い。
二人だって、空気を張り詰めなければいけない時はそうするし、今はそうしなくても問題ないだろう、と雪菜は考える。
「き、気味が悪い……」と、傷付いたような二人を見ない振りで、雪菜は続ける。
「今、近くに魔物は居ないし。あんなだけど、別に二人は気を抜いてはいないよ」
「そうです。お二人共頼りになりますよ? ミヤビ様」
「あれで? ……そう、ならいい」
雅は、「はあぁぁ」と深く溜め息を吐くと、眉間の皺を消し、口を閉じた。
シルビィが困ったように笑い、雪菜が「黒井くんに胃薬贈った方がいいかな」と真剣な声で、小さく呟く。
美夜と永久は、安堵するように肩を下ろした。
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雅は怒りっぽい。
そして、険悪にならないように頑張りたい美夜と永久。
そろそろ何かが起こりそうな予感……。
次回更新は明日19時以降を予定しております!
以下、おまけ。
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林檎「……暇だわ、叶太くん」
叶太「え、何で俺に言うの? そう言うのは満瑠にさ……?」
林檎「満瑠は今居ないじゃない」(ぷくーと頬を膨らます)
叶太「……捜しに行っ」
林檎「嫌よ」
叶太「俺まだ話してる途中!」
林檎「面倒だもの」
叶太「……………………はぁ」
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