第33話 階段前で魔物が通せん坊する事ってないよね
雪菜達は二階層の蛙を討伐しつつ、下層への階段を探した。
主に蛙の討伐を請け負っていたのは雪菜、勇人の二人で、その次に、永久、正樹、啓太ときて、美夜、シルビィ、いのり、雅の順である。
南奈は近付いて来た蛙を一瞥し、「キモい!」と真弥に抱き付き、身動きの取れなくなった真弥は苦笑を零し、毎回二人に近付いた蛙は勇人が怠そうに片付けていた。
結果、南奈と真弥の討伐数は零である。
それに、雅が苦言を零していたが、南奈は「ふん」と聞く耳持たず、間に挟まれた真弥が勇人に助けを求め、また宥めた。
だが、雅と南奈の険悪な雰囲気は消えそうにない。
二人の仲を気にしつつ、一行は二階層目を探索する。
この階層に居るのは、蛙と幼蛙だけらしい。
魔物を討伐しつつ、進んだ先──三階層へと続く階段は、二階層目の突き当たりにあった。
今度も雪菜達三チームを先頭にし、一行は階段を下りて行く。
今回は、また口喧嘩になるのが分かっているからか、南奈も大人しく下りる。
「ストップ」
ふと、階段の半ばで雪菜が立ち止まった。
それに倣い、皆も足を止め、首を傾げる。
「うわ~、最悪じゃん」
「え、どうしたの、勇人?」
雪菜がじっ、と階下を睨み付けていると、勇人が眉を潜めて声を上げた。
唐突な勇人の言葉に、南奈が目を瞬かせ、問い掛ける。
「ん~、何か階下、階段の目の前に一匹居るみたいなんだよねぇ」
「は? やだ、どうすんの?」
はぁ、と小さく息を吐き出し、勇人より返された返答に、今度は南奈が眉根を寄せた。
「ここは栗原さんにお願いする所じゃない? ねぇ?」
啓太が人の良さそうな笑みを、雪菜に向けて言う。
「……私と美夜、シルビィさんでもう少し下がって様子見るから。残りは待機。倒せそうなら、倒して呼ぶよ」
雪菜は少し考えるように視線を伏せた後、美夜とシルビィを連れて様子見に行くと告げる。
勇人が「オレも行こっか~?」と問うが、雪菜は「あんまり多いと、階段狭いから」と苦笑し、首を横に振った。
勇人は「そっかぁ」と引き下がり、他に何か意見のある者も居らず、雪菜はシルビィと美夜を連れ、三人で階段を下りて行く。
足音を立てないように、ゆっくりと。
もう直ぐ階下かと思われる所まで歩いて行き、一度立ち止まると、美夜が「あ、待って。ちょっと見えれば、鑑定出来る筈!」と、階下を覗き、目を凝らし、鑑定を行った。
そして、鑑定結果を雪菜に告げる。
レベル7
名前:名無
種族:褐色蛙
性別:雄
スキルポイント:20
体力値:80/80
魔力値:22/22
物攻値:38
魔攻値:16
物防値:27
魔防値:16
俊敏値:16
器用値:28
精神値:8
幸運値:2
通せん坊でもするように、階段の真下に陣取っていたのは目的の魔物であった。
(私より物攻が高い。攻撃を貰うと危ないな。物防もそれなりにあるし、体力もある……魔防は低めだから、魔法で攻められればいいけど、私魔法使えないしな。……あ)
雪菜はどうしようか、と思案した後、ふと思い付いた作戦に、これで行くか、と口を開く。
「シルビィさん、付与魔法掛けて貰える?」
雪菜がそう声を掛けると、シルビィが「はい」と頷き、雪菜に勇ましい腕を掛けた。
「じゃあ、私が倒すから待ってて」
雪菜はダガーを引き抜くと、二人にそう告げて、歩みを再開させる。
美夜が「え? あ、頑張ってね、せつなん」と笑い掛け、シルビィが「お気をつけて」と声を掛けた。
階段をゆっくりと下りて行き、雪菜は丁度相手が見えた所で歌い出す。
使用するスキルは歌導術。
階下で待つ、蛙より一回り程大きな褐色の蛙、褐色蛙を見据え、雪菜はそのまま駆け出す。
響く歌声と共に、周囲の風が逆巻く。
「ゲゴォッッ?!」
そして、雪菜の歌に合わせて集まる風が、褐色蛙の身体を、僅かに後方へと吹き飛ばす。
悲鳴を上げる褐色蛙に向かい、雪菜はその腹部を狙って、数度蹴りつける。
反撃のように伸ばされた舌を躱し、また風で身体を吹き飛ばし、階下から完全に褐色蛙を退かした。
「階段を通せん坊はない。通行の邪魔」
歌を止め、そう呟くと、雪菜は次いでダガーで褐色蛙を斬り付ける。
伸ばされた舌を切り落とし、時折、水鉄砲のように口から吐き出される唾液を躱しつつ、数度斬り付け、止めのように深く腹部にダガーを突き刺す。
どちゃり──絶命し、地面に倒れた褐色蛙に、雪菜はハッとして、素早く小瓶を取り出すと、ガマの油を採取する。
採取出来たのは、瓶に五分の一程度。
「この感じだと、後十四匹か」
雪菜は小さく呟き、小瓶を仕舞い直すと、褐色蛙から魔石を剥ぎ取り、階段へ「下りて来ていいよ」と声を掛けた。
階段を下りて来る複数の足音を聞きながら、雪菜はステータスを開く。
『経験値が一定に達しました。レベルが8から9に上がります』
『熟練度が一定値に達しました。歌導術LV1から歌導術LV2にレベルアップしました』
ステータスを開くなり、そう表示された文字に、意外とスキルの上がりは早いのか、と見付める。
レベルの上がった『歌導術LV2』は、自然を操れる度合いが上がったらしい。
どの程度かは、まだ分からないが。
(これ、レベル上げたら何が出来るようになるんだろう?)
思い浮かんだ素朴な疑問に、思わず件のスキルを凝視する。
歌のスキルは、見た所、レベルを高くして初めて使える、所謂レベルが上がるまでは使えないスキルだったようだし、歌導術を上げれば凄いスキルになったりするんだろうか、と。
「せつな……んお?! 蛙より大きかったんだね」
「これが褐色蛙ですか。わたくし、初めてです」
いち早く階下に下りて来た二人に、雪菜はステータスを閉じ、頷く。
続いて、残りの面子も階下へと辿り着き、「三階層目……」と辺りを見渡す。
「おー、見事に撃破だねぇ。そんな栗ちゃんにはオレから蛙殺しの称号を上げちゃお~」
「え、いらない」
「じゃあ、切り裂き蛙?」
「もっと、いらない」
下りて来るなり、褐色蛙と雪菜を見比べ、勇人がにこやかに笑う。
雪菜は告げられた、いらない称号を即答で拒否する。
そんな雪菜に、勇人が「え~」と不満の声を洩らすと、永久が「栗原さんには氷の女王の称号のが似合うだろ」と告げ、正樹が「毒舌と鋭い切り返し、故に凶器の女王でも可」と悪乗りし出す。
勇人も勇人で「それい~」と、乗り始め、雪菜は絶対零度の冷たい視線を三人に注いだ。
「栗原さん、目が据わってる」
「うん、知ってる」
いのりの言葉に、雪菜は頷く。
「うわー、蛙キモい。何か、大きくなってるし! これ栗原さん一人で倒したの? もう栗原さんだけでこの迷宮攻略できんじゃない? ね、まやや?」
「いや、南奈。それは流石にね。危ないよ」
褐色蛙の死骸を横目に、南奈が顔を顰めると、真弥が苦笑する。
「…………馬鹿みたい」
馬鹿なやり取りをする勇人、永久、正樹。
それを冷めた目で見付める雪菜に、その側で笑う美夜、いのり、シルビィ。
雅はそんな七人を見付め、誰にも聞こえないような声で小さく呟いた。
(案外行けるかも。俺、栗原さんと組むべきだったか……勇人が使えると思って組んだけど、今ん所一番強いのは栗原さんだし。失敗失敗。まあ、取り敢えず俺のレベル上げしねぇと)
一番最後に階段を下り切った啓太が遠目に皆を見渡し、南奈の言葉を聞いて、内心で呟く。
そして、「折角の異世界だもんなぁ」と舌舐めずりして笑った。
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階段前で通せん坊する蛙(笑)
ないですよね、ダンジョンで階段塞ぐ魔物とか。
と、考えて通せん坊させました。
これから、主人公のレベルや、スキルが上がっていきます!
そして、南奈の言う通り、主人公一人でダンジョン攻略できそう、と考えてしまう作者(笑)
次回更新も明日の夜19時以降を予定しております!
以下、おまけ。
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美夜「せつなん、行っちゃった……」
シルビィ「そうですね、お一人で……」
美夜「一人……」
シルビィ「はい」
美夜「…………」
シルビィ「…………」
美夜「………………」
シルビィ「………………」
美夜「せつなん、強いのは知ってるけど。やっぱ心配」
シルビィ「ミヨ様……」
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