第32話 Dランク依頼、ガマの油を採取せよ!
異世界生活、六日目。
昨日、冒険者ランクDに、ランクアップした雪菜は修也と八重子にそれを報告した。
その際、また危険な事をしたのか、と疑われたが、事の経緯を説明し、納得して貰い、本日は新たにDランクの依頼である、ガマの油採取の依頼を受けていた。
受付嬢により渡された、小瓶三本に蛙の迷宮、二階層以降から出現する褐色蛙の油を採取する依頼だ。
報酬は銀貨三十枚。
日付が変わった事により、また迷宮に潜る組と、お休み組が逆転した為、雪菜達三グループは今、迷宮に来ている。
修也、八重子にはDランク依頼に付いても報告済みだ。
「危険だと思ったら逃げろ」、と言う言葉と共に、雪菜が渋々OKをもぎ取っていた。
ただ、二階層以降のレベルがどの程度か分からない為、総合レベルの高い二グループと合同で行く事になる。
蛙の迷宮、一階層目。
二グループ及び、三グループの合同チームは見付けた下層階段の前に居た。
「……行くよ?」
皆一様に階段を見下ろす中、不意に雪菜がそう言って、一人先に階段を下りて行く。
それに続くようにシルビィが「あ、セツナ様!」と追い、「せつなん、早い~」「く、栗原さん……!」と、美夜といのりも階段へと踏み出し、永久と正樹も「マジ、栗原さんクオリティ」「何だ、それ」と笑いながら歩き出す。
「栗ちゃん、肝っ玉~」
先を行った三グループの背を見付め、勇人がからりと笑う。
「ねぇ、黒井くん。笑ってないで追い掛けないとじゃない?」
肩上程度に切り揃えられたさらさらの黒髪と黒目に眼鏡、背丈は低く何処か地味な印象を受けるが、刺々しい雰囲気のある女子生徒──茶道部所属、九重雅が目を細めて言う。
きっと精市と同じクラスでなかったら、彼女は今頃委員長をやっていたのではないだろうか。
勇人はそんな雅に、「ん、そーだねぇ」と頷く。
「っえ、ね、ちょ、勇人ー! やっぱ行くの?! あたし行きたくないッッ!!」
「は? 何言ってるの、名取さん。二階層以降に行くって決まったでしょ?」
「っ眼鏡、五月蝿い。あたしは勇人に聞いてんの!」
南奈が怯えたように勇人に声を掛けると、代わりのように雅が返事をする。
雅のさも当たり前のような言い方に、南奈は眉を顰め、少々声を荒げて返す。
「眼鏡なんて名前じゃないって、何回言えばいいの? 物覚え悪すぎ」
「あぁ?! あんたなんて眼鏡で十分でしょッ?!」
片や冷めた目で、片や目を吊り上げて、険悪な雰囲気で言い合う様はまるで、水と油だ。
真弥は二人を呆れたように見つめ、「黒井くん」と助けを求めるように勇人の名前を呼んだ。
「まーまぁ、二人共。栗ちゃん達見えなくなっちゃってるからさぁ、早く行かないと~?」
勇人は心底面倒臭そうに頭を掻いた後、仕方なく二人の間に割って入り、仲裁する。
二人は渋々引き下がると、「だから、こいつとはグループを組みたくなかった」とぼやく。
最初こそ、一緒のグループじゃなかったこの二人。
グループ分けの際に、上手く入れずに一人で居た雅を勇人が誘った結果がこれである。
(仲悪いのは知ってたんだけど、ここまでとはな~。完全に、オレの選択ミスだなぁ)
勇人は互いにそっぽを向く二人を横目に、小さく息を吐くと、階段を下った。
二グループが階下に着くと、流石に置いて行ったりはしないようで、雪菜達が階段前で待っていた。
「あ、あの大丈夫でしょうか……?」
階上での言い争いが聞こえたのか、シルビィが怖ず怖ずと勇人達に声を掛けた。
勇人は「問題ないよ~」と、柔らかく笑って見せる。
が、後ろで雅と南奈が醸し出す、険悪な雰囲気は消せそうにない。
「さくさく進めちゃうつもりだけど。何かあるなら今聞くよ」
雪菜が内心で、あーぁ、ギスギスしてると呟きながら、一応、と言ったように問い掛ける。
すると、南奈が「はぁーい」と挙手したかと思うと、「あたしと真弥は、全然戦えないから、栗原さん戦闘お願ーい」と両手を合わせて告げた。
「まあ、二階層以降に予定があるのは私だから、基本的な戦闘は私が請け負うよ」
南奈のお願いが想定内だったのか、雪菜は至極あっさりとそう返した。
南奈は「わぁ、流石栗原さん! ありがとー! まやや、良かったね」と、真弥を抱き締める。
真弥は「そうだね、南奈」と、少々苦笑い気味に南奈を抱き返す。
そして、雪菜が次いで「他に何かある?」と全員に問うた所、「特には」と首を横に振った為、話は終わり、三グループを先頭とし、二階層を歩き出した。
二階層目は見た目も広さも、一階層目と余り変わりはない。
「美夜」
「鑑定!」
階層を進んで行くと、前方に小学生程度の大きさの、黄色い線の入った緑蛙を発見。
雪菜が美夜の名を呼ぶと、美夜が透かさずスキルを使用し、「蛙、レベル4だよ」と鑑定した内容を告げる。
それを聞くが早いか、雪菜はダガーを引き抜いて近付く。
始めはゆっくり、続いて早足の後、駆け出す。
「勇ましい腕!」
シルビィが雪菜に、ステータス上昇魔法を掛ける。
それを見た焦げ茶色の目と黒髪の、背の高い男子生徒──野球部所属の一之瀬啓太が口笛混じりに、「お、これってあれか、付与魔法って奴だったか?」と呟いた。
「舌、飛ばすな。蛙」
雪菜に気が付いた蛙が、「ゲゴォッ!」と長い舌を身体目掛けて伸ばす。
それを素早くダガーで切り落とし、苦痛の悲鳴を上げる蛙の頭に踵落としを叩き込み、開いた口を強制的に閉じさせると、次いで脳天にダガーを突き刺した。
ずぼ、とダガーを引き抜くと、蛙の身体は重力に従うように地面へと倒れる。
雪菜の背後で、南奈が「は? 激強じゃん!」と声を上げ、真弥と雅が目を瞬かせ、啓太が「へぇ」と洩らす。
勇人は、「栗ちゃん、強い~。これ、オレ等足出纏いじゃない?」と首を傾げていた。
「奥にまだまだ居るけど、皆もレベル上げする?」
蛙の魔石を剥ぎ取りながら、雪菜が確認するように問い掛ける。
シルビィが「はい、出来たらレベル上げを手伝って頂きたいです」と言うと、いのり、美夜も「私も」と挙手し、永久が「あ、俺も蛙倒してみるかな」と言い、正樹が「おし、トワ、俺達のコンビ力を見せてやろーせ」と笑う。
「山下くん、コンビ力かコンビネーションね」
「いいだろー、別に。人間はフリーダムアゲインなんだよ」
「再び自由を? 山下くんはいつも自由だと思うけど」
正樹の言動に美夜がツッコむと、正樹が力強く返す。
それに雪菜は首を傾げ、そう言った。
正樹は「俺、日本人だから、英語ワカリマセーン」と笑い出し、永久に「じゃあ、使うなよ」とけらけら笑われる。
(……うわー、三グループ平和的だぁ。羨ましー。……今からでも、移れないかなぁ。オレ、リーダーだけど。九重ちゃん誘ったのオレだけど)
勇人は雪菜達のやり取りを羨ましそうに見つめ、内心で切実に呟いた。
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Dランク依頼、受注です!
まだまだ主人公の敵じゃないですね(笑)
レベル差4!
そして、レベルは他より高いものの険悪な二グループ(一グループ、四グループ除く)。
これから何をやらかすのやら……。
次回更新も明日の19時以降を予定しております!
以下、おまけ。
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修也「あいつ等、大丈夫だろうか」
精市「栗原さんが居れば、大抵何とかなりそうですけどね」
修也「……人は見掛けによらないな」
精市「はい、そうですね」
修也「声楽部の歌姫はクラス一の戦闘員だったとは」
精市「今の所は彼女のレベルが一番高いですが、その内越しますよ」
修也「男子の威厳か? そうだな、俺も強くなる必要がある……」
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