第02話 ステータスとスキル、身に付けていたらしい
「五人一組。不足の事態を想定し、男女混合で分かれて貰う。仲の良い者同士で組みたいのは分かるが、護身の心得のある者、運動部の者はなるべくばらばらに混ざるようにして欲しい」
淡々とグループ分けの指示が告げられ、精市の「よし、分かれてくれ」と言うGOサインにより、生徒達は動き出す。
運動部がどう集まろうかと思案する中、何の縛りもない文化部から、仲の良い者同士で集まってしまうのは、仕方ない事なのだろう。
精市は静かにクラスメイト達を見守る。
恐らく、上手くグループ分け出来ずに余る生徒が居る。
そう考えた精市は、余ったクラスメイトとグループを組むつもりであり、暫くは動かないようだ。
(グループ分け、て言われても何処に入ったものか……)
雪菜は首を捻り、ぐるりとクラスメイト等を見渡す。
文化部の括りである声楽部の自分に縛りはない。
なら、仲の良い者と組めばいいか、と雪菜は一人の女子生徒の元へ近付く。
「美夜、組も?」
「うんうん、OK! あたしもせつなんと組もうと思ってたから!」
雪菜が、青色のリボンのカチューシャを付けた短い茶髪に茶色の瞳、写真部所属の女子生徒──茶越美夜に一緒に組まないかと話を持ち掛ける。
美夜は雪菜を自分専用のあだ名で呼びながら、軽く了承した。
二人は幼馴染みであり、小学校から高校に至るまで何故か、ずっとクラスが同じと言う、何とも不思議な縁で結ばれていた。
昔から持ちつ持たれつで仲の良かった二人にとって、一緒であるのは嬉しい事であり、割りと安心出来る事である。
その為、この二人がよく共に行動するのは周知であった。
「私と美夜とで文化部二人。後は、誰を誘うか……」
「男子も入れなきゃだから……あ! トワちゃーん!」
「お? 呼ばれて来まして、トワちゃんでっす!」
首を捻る雪菜の横で、美夜が視界に映った青い髪に青い瞳を持つ、背の高い空手部所属の男子生徒──青瀬永久こと、通称トワを呼ぶ。
グループ分けを遠巻きに眺めていた彼は、何とも陽気なノリと、にこにこ笑顔を浮かべ、二人の前に来る。
どや顔と共に行われた永久の敬礼ポーズに、雪菜は冷めた視線を投げ掛けた。
「青瀬くん、回れ右」
「うぉっ、栗原さんってば酷ぇ。トワちゃんはもうブロークンハートよ!」
言葉の割りには、けらけら、と喉を鳴らして笑う永久に、雪菜は追撃の如く「呼び間違えたの。青瀬くん青瀬くん、お帰りください」と、無表情で告げた。
けれど、それは特に永久には効いていないようで、「いや、俺こっくりさんじゃねぇんだけど!」と尚も彼は笑う。
「まあまあ、せつなん、落ち着いて。こう見えてトワちゃん、強いし! いざと言う時は囮や肉壁に出来るんだから!」
えっへん、胸を張って雪菜にそう話す美夜に、永久は遂に笑みを引っ込めた。
「いやいや、美夜さん。何言っちゃってんの? 明らかに栗原さんより酷いぞ? そんな事されたら流石のトワさんも泣いちゃうからね? 死んじゃうからね?!」
「あはははっ、冗談だよ~」
慌てて抗議する永久に対して、今度は美夜が笑いながら告げる。
永久は「冗談に聞こえねぇよ」と、一人肩を竦めた。
「で? 俺はグループに誘われたんだよな?」
「不本意ながらね」
「栗原さんんん?!」
「あははははっ! そー、あたし達と組んで欲しくて誘ったの!」
雪菜の塩対応と、爆笑する美夜に、永久は「さいですか……」とテンションを下げた。
見るからに急降下した永久のテンションに、これは不味いかと、フォローを入れる。
「ごめんごめん、嘘。ちゃんと、青瀬くんが頼りになるの分かってるから誘ったの」
「……マジで?」
確認するように問い掛ける永久に、雪菜が頷くと、永久は「いよっしゃあぁ!! あの声楽部の歌姫に頼られちゃったよ俺ぇ!!」と、急降下した筈のテンションを急上昇させ、ガッツポーズを取る。
雪菜はあの、てなんだと、内心でツッコミつつ、自分のフォローは間違っていたのか、と口元を引きつらせ、いつの間にやら校内に広がった、声楽部の歌姫と言う自分の異名が出てきた事に僅かに眉根を寄せた。
「うし! 二人のグループには喜んで入るぜ? それで、残りの二人は誰入れるか決めてるのか?」
「「いや、全然?」」
集まった人数は三人。
そして、一グループに必要なのは五人。
残り二人の目処に付いて問い掛ける永久に、二人は顔を見合わせて一言。
「あー、うーん、了解。じゃあ、俺適当に二人連れてくるな?」
僅かの苦笑の後、永久がそう提案した。
二人は再び顔を見合わせると、「お願いしまーす」と手を合わせる。
「んじゃ、行ってくるわ」と離れて行く永久に、二人は「いってらっしゃーい」と手を振った。
(……さてと、青瀬くんが戻ってくる前に調べなきゃなぁ)
小さく息を吐き出して、内心で呟く。
ポケットに忍ばせた手の指先が、先程のメモに触れている。
「どったの、せつなん?」
「ごめん、考え事。ちょっと待って?」
「あ、うん、了解。お口チャック!」
ステータスとユニークスキル。
メモの言葉が気になった雪菜は、よく読む小説の内、ライトノベルに分類されていたもの達の内容を思い出しながら、自分に目に見えるステータスと言うものがあるのか、検証するつもりであった。
難しい表情で黙り込んだ雪菜に、美夜が怪訝そうな視線を向けるも、雪菜に謝罪に加えて考え事だと告げられ、口を閉じた。
雪菜は美夜に悪いな、と思いつつもステータス表示の検証を行う。
「ステータス、オープン」
隣の美夜に聞こえないように、細心の注意を払いながら、小さく呟かれた言葉。
ゲームや漫画、小説なんかでよく見掛ける単語。
巷で流行りの異世界転移もののライトノベルであったなら、こう唱える事で目の前に自らのステータスが表示される、世界システムが多い。
流石に、現実にそれはないだろう。
そう考えていた雪菜は、目の前の光景に至極あっさりとそれを否定された。
(うわぁ、嘘だ。本当にステータス表示されたんだけど。じゃあ、ここは何処ぞの異世界って事?)
最後に「ないわー」、と内心でぼやき、雪菜は目の前に表示された半透明のステータス表示を見つめた。
レベル1
名前:セツナ・クリハラ
種族:人間
性別:女
スキルポイント:10000
体力値:8/8
魔力値:150/150
物攻値:8
魔攻値:13
物防値:5
魔防値:15
俊敏値:22
器用値:10
精神値:30
幸運値:7
称号
『異世界人』
『吟遊詩人』
『歌姫』
スキル
『言語翻訳LV1』
『歌LV10』
『歌導術LV1』
(ああ、小説の読み過ぎで私の頭が可笑しくなった可能性もあるのか)
雪菜はぼんやりと、低いのか高いのかも分からないステータスを見つめる。
恐らく、魔力値と幸運値以外は低いのではないだろうか。
(ユニークスキルって、この『歌LV10』と『歌導術LV1』ってやつかな? スキルポイントは多分、スキル取得に必要なポイントだと思うけど……)
雪菜は首を捻ると、スキルの詳細が表示されないかと、じっとスキルを見つめてみる。
すると、ステータス表示に変化が現れた。
『表示不可。鑑定を取得してください』
ステータスにはそう、追加表示が行われ、取得可能スキル一覧が表示された。
(へぇ、何か、何処ぞのゲームでありそうなステータス表示じゃない? んー、じゃあ『鑑定LV1』取得、と)
内心で呟くと、ステータスが更新される。
『スキルポイント3000を消費して『鑑定LV1』を取得しました』
ステータスからスキルポイント3000が減り、残り7000となる代わりに、スキル欄には『鑑定LV1』が追加された。
(後、7000か。何これ、『偽証LV1』?)
『鑑定LV1』取得の後、表示された新しいスキルにふむ、と雪菜は顎に手を添えた。
消費するスキルポイントは1000で取得出来るのだが、それの使い道は分からない。
雪菜はどうしようか、思案する。
(いや、本当、これ幻覚だったりしないよね?)
最終確認のようにステータスを、スキル一覧を見つめる雪菜────の肩に、唐突に手を置くものが一人。
「二人見付けてきたぜ、栗原さん!」
「っっ?!!」
声にならない悲鳴を上げながら振り返った先には、二人のクラスメイトを連れて、にこやかに笑う永久の姿があった。
そして、ステータスには『スキルポイント1000を消費してスキル『偽証LV1』を取得しました』と言う、文字が表示されていた。
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以下、おまけ。
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永久「よお、一人目!」
一人目「は? 一人目?」
永久「ちょいと面貸してなー」
一人目「おま、いつからヤの付く自由業になったんだよ、トワ」
永久「いやいや、なってねぇよ。……お! 二人目ー!」
二人目「…………えっ?」
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