第25話 第一回クラス代表会議の結果が出たそうです
「私の報告はもう済んだ筈なんだけど」
雪菜がちらりと教諭二人を見ると、八重子が「栗原さんの報告はまだ大雑把にしか聞いてないと思ったんだけど……」と呟き、修也が「細かい所は聞いていないな」と告げる。
確かに、雪菜はギルドに登録し、依頼を受け、魔物に襲われたとしか話していなかった。
それにより、五人のグループリーダーから一斉に視線を貰う事となり、雪菜は小さく溜め息を吐く。
「ギルドの細かい説明は省きます。登録する時に受付の方に聞いてください」
そう前置きをして、雪菜は語り始める。
ギルドの登録に、大雑把なギルドのシステム。
他国に渡る為には、Dランク冒険者以上のギルドカードが必要になる事。
今日、小軟水体の討伐依頼と薬草採取の依頼を受け、その帰りに小鬼に襲われ、逃げた事。
Aランク冒険者に助けられた事。
ギルドでの手当てと、報酬の事。
小鬼の集落が発見され、街が襲われる可能性がある事。
その為、討伐隊が組まれ、明朝に掃討戦が行われる事。
また所々、省きながらも雪菜は今日一日の濃い体験話を語った。
「栗原、一ついいか?」
「何でしょうか、遠野先生?」
「お前達のグループは、生き急ぎすぎじゃないか?」
はあぁぁ、と深い溜め息を吐き出す修也に、雪菜は苦笑した。
修也は、「俺が許可したのも悪いのか」と頭を抱える。
「栗原さん、あんまり危険な事は……」
「中田先生。この異世界じゃ、何処に居ても危険だと思いますよ?」
諭すように告げる八重子に、雪菜は苦笑気味に言う。
八重子は「だとしても、気を付けてね」と心配そうに返し、雪菜は小さく頷いた。
「話は分かった。ありがとう、栗原さん。では、第二議題、まあ、これは第一の延長になるが……この街での一週間の行動について話そう」
「あ、待って待って、精ちゃん!」
「何だ、勇人?」
「まだ俺の聞きたい事、栗ちゃんに聞いてない~」
にこっ、と緩く笑った勇人に、精市は首を傾げ、「質問なら早めに頼む」と促した。
「あんね、俺凄い気になったんだけど。栗ちゃんの今のレベルって何レベ~?」
勇人が小首を傾げ、当人を除くこの場の全員の視線が雪菜に向く。
「黙秘権を行使します」
「いや、これは警察の取り調べでもなければ裁判でもないけど?」
真顔で即答する雪菜に、貴李は苦笑し、「まあ、黙秘権は人権の内ではあるが」と続ける。
雪菜はちらりと修也を見た。
「栗原、もうこの際洗いざらい吐いたらどうだ?」
自分に向けられた視線に気が付いた修也が、再び溜め息を吐く。
「洗いざらいと言われても……はぁ。8、レベルは8まで上がったよ」
殿を務めた際に、討伐した小鬼は十体。
恐らくレベルが高かったのであろう。
自室でステータスを見直す雪菜の目に飛び込んできたのは、レベル8の文字。
今日だけで、一気にレベルが7上がった事になる。
「く、栗原さん、因みに倒したのはその弱いって言う小軟水体だけ?」
「……小軟水体六体と、小鬼十数体。討伐しましたよ」
八重子が恐る恐ると言った風に問い掛けると、雪菜は肩を竦めて言った。
「栗原ちゃん、て随分と強かったのね」
ほう、と感心するように林檎が呟く。
雪菜は「まあ、護身術程度なら出来るかな。兄が自衛官で色々教わったと言うか、自分の身は守れるようにしとけと言われて叩き込まれたと言うか……そんな所?」と曖昧気味に零す。
「ああ、そう言うこと」
「自衛官仕込みとか、そりゃあ栗ちゃん強いよねぇ」
幸村と勇人が納得したように頷く。
「栗原、お前……生き急いでるんじゃなく、死に急いでるのか」
呆れたような表情を浮かべ、修也は本日何度目かの溜め息を吐いた。
「確かに。討伐隊が組まれるくらいなんだから、小鬼は厄介なんだろう? それを女生徒が討伐するなんて、死に急いでるようにしか見えないね」
「別に死に急いではいないよ。不足の事態になったから対処しただけ。それに、小鬼が脅威になるのは五体以上の群れからで、一、二体なら男子なら討伐可能な筈」
貴李の言葉に雪菜が弁解するように告げる。
「栗原さんが強いのは分かったが……次に進んでも問題ないか?」
このまま雪菜の話が続きそうな雰囲気を、精市が破るように咳払いする。
そして、方針についての話し合いを再開しないか、と声を掛けた。
皆は各々、ああと頷いたり、苦笑したりしながら、それを了承して、精市の話に耳を傾ける。
また、修也と八重子も「すまないな」「ごめんね?」と見守りの体勢に戻った。
「栗原さんの話を踏まえた上で、先程言ったこの街の滞在中、一週間で何をするか。また、何をすべきか。それをこれから考えたい」
引き続き議題は今後の方針だ。
ただ、内容はこの街で一週間やる事と、限定的である。
「はいはーい!」
「勇人」
「一週間、宿屋でダラダラだらけよ~? めっちゃ寝たーい」
「却下」
元気よく挙手した勇人だったが、精市に即答でばっさり切られ、「ガビンッ……!」と声を上げ、項垂れる。
「俺は生活費と炉銀を稼ぐべきだと思うが?」
「わたしもそう思うけど……取り敢えず、皆ギルドに行くんでしょう?」
「そうだね、国を渡るのに必要らしいし。おまけに、僕等が不審に思われずお金を稼ぐ方法は冒険者になる事だろう」
「一週間、て期日の事もあるしね」
精市が話を進めるように告げると、それに林檎と幸村、貴李が乗る。
「では、生活費と炉銀を稼ぐ為にもギルドの登録はするとして……問題は依頼だな」
お金を稼ぐ為に、ギルドに登録するのはいいが、依頼を選別しなければ危険ではないか。
精市はそう思考し、頭を捻る。
「ギルドに登録したては採取系の依頼しか受けられないよ。ああ、小軟水体討伐依頼なら受けられるけど」
「採取、にしても採取するものの見分けに困るわ」
「そう、そこが問題だね。私のグループは採取は美夜のスキルあってだったし」
例え、この世界の住民に取って、薬草を見分けられるのが当たり前だったとしても、異世界人で自分達にはそんな事無理な訳で、そうなると各グループに鑑定のスキルが必要になる。
「んー、薬草と毒消し草の見分けなら、教えられるけど」
「なら、最初はその採取の依頼を受けてお金を稼げばいいんじゃないかい?」
考えるように呟く雪菜を見て、幸村が提案を口にする。
「そうだな。最初はそれでいい。第二の方針はギルドに登録し、お金を稼ぐ事。ああ、付け足すようで悪いが、後、この世界についてを学ぶ。と言う事でいいだろうか?」
精市がぐるりと見回すと、全員「異議なし」と頷く。
「では、最後。第三の議題、スキル、レベルについて話そうか」
第一、第二が今後の方針と来て、最後の議題はスキルとレベル。
この世界で目覚め、いつの間にか身に付けていた不思議な力について。
「スキルは使いこなせた方がいいだろうね」
「んー、自衛が出来るに越した事はない」
「イヤよ。スキルとレベルを上げるには戦わなきゃならないんじゃないの? わたしはお断りだわ」
「俺は~、うん、だらけたい~」
スキル、レベルアップをするべきと考えるのは幸村と貴李。
それを拒否するのが、林檎と勇人。
精市はこのメンバーの中で、唯一レベルが上がっている雪菜に、最後の意見を聞くように、視線を向けた。
「私的には、スキルもレベルも上げるべきだと思う。さっき小鬼の話をしたように、この世界には魔物、て言う人間を襲う生物が存在していて、場合によってはそいつ等は街を襲う。その時、自衛が出来ないのはまずい。それに、この街を出るのにも、この国を出るのにも、魔物に出会し、襲われるリスクがある。ギルドの依頼をこなすのだって、注意してても魔物と戦う事になる可能性は零じゃない」
淡々と語る雪菜に、「確かに」と皆頭を悩ませる。
林檎は尚も、「イヤよ。そう言うのは男子の仕事でしょう?」と首を横に振った。
その姿はさながら、我が儘なお姫様のようだ。
彼女は、綾辻財閥のたった一人の愛娘、お金持ちのご令嬢なのだから、多少我が儘なのも、お姫様のようなのもある意味仕方ないのかもしれない。
それを許容するかは、別問題として。
「綾辻さん。誰も女生徒の綾辻さんを一人で戦わせたりはしないよ」
宥めるように精市が言った。
林檎はぷくー、とハリセンボンのように頬を膨らます。
「勇人の意見はただのだらけ病として処理するとして……戦える可能性及び、そう言ったスキルのある者、戦う意思のある者は、スキル、レベルを共に上げる為に魔物を討伐する事、でどうだろう?」
精市の最終確認に幸村、貴李、雪菜は「異議なし」と答え、林檎と勇人は「わたしが戦わなくていいのならいいわ」「戦う意思のない俺に、だらけ時間が提供されるなら~」と似たような事を言って頷く。
精市は意欲的でない二人に苦笑しながら、修也と八重子に顔を向け「と、決まりましたが?」と会議結果についての意見を求めた。
「……ああ、問題ないだろう。俺の考えと大差ない。魔物討伐については生き急ぎたいのか、とツッコミたい所だが、郷に入っては郷に従え、ではないが、この世界で生きる為にそれが必要である事は、栗原の話で大体は理解した。確かに、危険だらけの世界で自衛出来ないのは問題だろう。帰り方を探す為に、何処に行かなければいけないかもまだ分かっていないし、そこが危険でない保証もない。軍人の件もあるしな。だが、無理強いも無理もしないのを大前提として欲しい。全ては、自分を生かす為の行動である事を忘れないで欲しい」
修也は椅子から立ち上がると、極めて真剣な表情で語った。
会議結果について、肯定的のようである。
生徒達と、それに八重子も真剣に修也の話を聞いた。
「俺の話はこんな所だが……中田先生、何かありますか?」
突然話を振られ、八重子が「私ですかっ?」と肩を跳ね上げた。
「遠野先生の後に話す事ってあまりないように感じるけど……。私はこの通り、頼りない教師かもしれない。けど、皆と一緒に帰り方を探す為に尽力したい。ただ、今の貴方達に言って置くことがあるとしたら、仲間と命を大切にしてください。それは、貴方達にとって掛け替えのないものです」
修也が椅子に座り直し、変わりのように八重子が立ち上がる。
そして、教師としてこんな可笑しな状況の中でも、それだけは覚えていて欲しい、と願いを込めて言葉を紡ぐ。
「先生方、ありがとうございます。この会議内容、先生方の言葉、全て代表として選出された俺達が責任をもって伝えます」
精市がそう二人に会釈し、残り五人もそれに続いた。
こうして、第一回クラス代表会議は幕を閉じる。
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以上で会議終了です。
次回は反省会……?
代表
カリスマ→精市
だらけ病→勇人
歌姫→雪菜
お嬢様→林檎
色気→貴李
儚げ→幸村
で、お送りしました(笑)
次回更新も明日、19時以降を予定しております!
以下、おまけ。
◆◆◆◆◆◆
シルビィ「セツナ様は?」
美夜「んー、お話し合いに行きましたよー」
シルビィ「お話合い、ですか?」
美夜「うんうん」
いのり「多分、この街の滞在期間とかそんな事だと思うよ?」
シルビィ「そうなんですか!」
二人「「そうなんです」」
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