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【連載版】邪神に手駒として召喚されたらしいんですが(仮題)  作者: 龍凪風深
第一章 異世界に召喚されたらしいんですが
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第20話 料理スキルの本気を見よ


 「っきゃぁ!」


 小鬼ゴブリンが笑いながら美夜に向かい、棍棒を横薙ぎに振る。

 美夜は、反射的にそれをダガーで受けるも、力負けして、身体が横に転がった。


 強かに打ち付けた臀部でんぶが痛みを訴えるが、そんな事に意識を逸らす余裕は今の美夜にはない。

 もう一体の小鬼ゴブリンと交戦する永久から、「美夜っ! 逃げてろ!!」と声が上がる。


 「あ、あたしッ……」


 体勢を立て直そうとするも、一歩遅い。

 小鬼ゴブリンが棍棒を振り上げ、いのりが「茶越さん!」と声を上げた。


 「っ……?!」


 咄嗟に頭を両手で庇うように覆い、目を瞑る。

 美夜の耳に、ばきんっと鈍い音と──歌声が響いた。


 「わ、わたくしだってぇ……!!!」


 慌てて目を開けた先に見えたのは、自分に張られた雪菜のスキルによる結界と、弾かれて地面に転がった小鬼ゴブリン、それにシースナイフを逆手に握ったシルビィ。


 先程まで怖気づいていたシルビィが、小鬼ゴブリンに向かい、その肩を思い切りシースナイフで突き刺した。


 「シルビィさん! それじゃ、倒せない!」


 魔力残量の問題から歌を中断した雪菜が、対峙していた小鬼ゴブリンの胴体に蹴りを入れながら、シルビィに叫ぶ。


 シルビィは「は、いぃぃ!」と突き刺したナイフを引き抜き、今度は首を突き刺さんと動かす。

 けれど、今正に殺されそうになっている相手が、大人しくそれを受け入れる筈もなく、小鬼ゴブリンが勢いよく振り返り、その勢いのままに棍棒を振るった。


 「っ……?!」


 シルビィは振るわれた棍棒を、持ち前の兎の瞬発力で躱す。

 が、足をもつらせ、その場に尻餅を付いた。

 転んだ拍子に、手からナイフが転がってゆく。


 「ッシルビィさん?! っと、倒れとけ!!」


 シルビィ、美夜の様子を気に掛けながら、小鬼ゴブリンの棍棒を躱していた永久が、相手の隙を付いて足払いを掛けると、慌てて二人の元へ駆け出す。


 その視界には、肩から血を流す小鬼ゴブリンが標的をシルビィへと戻し、彼女に向かって棍棒を振り上げるのが映る。


 「っ死んで」


 視界の端で、恐怖に顔を青褪めさせたシルビィと、腰が抜けたように座ったままの美夜が映り、雪菜は唇を噛むと、自分に向かって振り回される棍棒を躱しながら、小鬼ゴブリンの足に向かってダガーを投擲。


 ざくり、と突き刺さったそれに小鬼ゴブリンは苦痛の悲鳴を上げ、一瞬攻撃の手が緩む。

 僅かに生まれた隙に、雪菜は一気に踏み込み、小鬼ゴブリンの首元に回し蹴りを見舞い、地面に転がすと、素早くダガーを引き抜き、首を掻き切った。


 その際に抵抗のように、棍棒をぶつけられた左足が痛みを訴え、小鬼ゴブリンから吹き出した鮮血が、手や衣類を汚したが、構わずに、残りの小鬼ゴブリンを倒すべく駆け出す。


 「っひ、わ、わたくし、っ……!」

 「し、シルビィさん逃げて!」


 魔物の知識はあった。

 魔物が倒される所を見た事もあるし、護身術も習っていた。

 だから、レベル6になったのだ。

 でも、実戦経験はなかった。


 自分には小鬼ゴブリンはまだ早かったんだ、と静かに感じながら、シルビィは涙目で目の前に迫る棍棒を見つめた。


 動く気力はもうない。

 恐怖に縮こまるシルビィに、美夜が叫ぶ。


 「ふ、ひゃッ?!!」


 棍棒がシルビィを殴り付ける──。


 寸前、永久がシルビィの襟首を思い切り引っ張って回避。

 棍棒はシルビィの足の間、地面を殴打した。


 永久はそのまま、素早くシルビィの身体を後ろへ転がすと、降り下ろした体勢の小鬼ゴブリンの両手に踵落としを決め、どっと棍棒が地面に落ちる。


 透かさず、踵落としを決めた足とは逆の足で小鬼ゴブリンの首元を狙って蹴り伏せ、倒れた所で、二度ほど心臓にダガーを突き刺した。


 「っは、っは……!」


 真っ赤に染まったダガーを握り締めたまま、永久が荒い呼吸を行うが、「トワちゃん、まだ終わってない!」と言う美夜の声と、次いで背後から響く雪菜の歌声に、慌てて振り返る。


 振り返った先に見えたのは、先程地面に転がして来た小鬼ゴブリンがこちらに向かって弓を射る瞬間。


 けれど、矢は当然の如く雪菜の結界に阻まれて地面に転がり、その最後の小鬼ゴブリンも雪菜の手により沈黙した。


 「……はぁ、はぁ、はぁ」


 魔力残量、5。

 体力残量、3。


 目に映るギリギリの数値を見ながら、雪菜は荒い呼吸を整えようと肩を上下させる。


 (怪我は、山下くんだけ……?)


 雪菜はダガーや手に付着した血を拭い、ホルダーに戻すと、正樹の元へ向かう。


 『経験値が一定に達しました。レベルが3から4に上がります』

 

 『経験値が一定に達しました。レベルが4から5に上がります』


 と、その間、雪菜のステータスが更新を告げていた。


 「く、栗原さん!!」


 半泣きの美夜とシルビィ、自分同様に荒い呼吸の永久、と安否を確認するように順々に視線を移していた雪菜を、いのりの焦ったような声が呼ぶ。


 「や、山下くんがっ……!」

 「シルビィさん、回復魔法って使える?」


 顔を土気色に染め、「う、あ……」と呻き声を上げる正樹に雪菜はシルビィに声を掛ける。

 シルビィは「はいぃ!」と、急いで何とか這ってこちらに来ると、「や、矢を抜いて頂けませんか?」と雪菜に告げた。


 雪菜は頷いて、矢の上部を折ると、引き抜かんと掴む。

 それを永久が「待って、栗原さん」と制止する。


 「俺がやるから」


 永久がそう交代を申し出る。

 力的な関係から、女である雪菜より男である永久の方が適任だろう、と雪菜は大人しくそれに応じた。


 「抉らないように、真っ直ぐに抜いて。シルビィさんは抜けたら直ぐに治癒して」


 雪菜の言葉に、永久とシルビィが頷く。

 いのりと美夜は、不安そうに四人を見つめた。


 そして、正樹に刺さった矢が引き抜かれる。

 シルビィが素早く「治癒の光を灯せ! 小回復ファーストエイド!」と二回、回復魔法を使用すると、傷は殆んど塞がっていた。


 その間、雪菜は体力回復薬小ライフミニポーションを取り出す。


 「こ、これで大丈夫……?」


 いのりが不安そうに問うのに、シルビィは「お、恐らく……」と曖昧に返す。

 雪菜は「体力回復薬小ライフミニポーションを使おう」と告げて、いのりに正樹の頭を押さえて貰いながら、小瓶の口を正樹の口へ付ける。


 「山下くん、飲んで。回復薬だから」

 「う、あ、あぁ……」


 まだ意識はあったらしく、正樹は雪菜の言葉に小さく頷いて、体力回復薬小ライフミニポーションを飲み込んだ。


 けれど、顔色が良くなった様子はなく、依然呼吸は浅く早く、僅かに身体が痙攣しているように見える。


 「美夜、山下くんを鑑定アプレイザルして」


 雪菜は眉根を寄せて、美夜に告げる。

 美夜は「う、うん!」と慌てて鑑定アプレイザルを使い、顔を青褪めさせた。


 「ど、毒……状態異常、毒って……」


 震えた声で美夜が言った。


 「そ、そんな……!」

 「! 小鬼ゴブリンの武器には獲物を弱らせる毒が塗ってある事があるって……! あああッ、な、何で忘れてッ……!!」


 いのりが絶望した顔をして、次いでシルビィが顔を歪めて悲痛に叫んだ。


 「解毒はッ……?! 解毒出来る奴は居ないのかッ?!」


 永久が声を荒らげる。

 美夜がはっとして、籠から毒消し草を取り出すが……。


 「毒消し草ある、けど……どうやって使えばいいのッ?」

 「せ、煎じて飲ます筈です!!」

 「煎じるって、どうやって?!」


 困惑する美夜に、シルビィが答えるが、美夜は更に困惑する。

 煎じる、なんて今ここで出来る訳もなく、ただただ焦り、切迫した雰囲気だけが、この場を包む。


 「なら、早く街に帰るぞ……!」

 「だ、駄目です! 間に合いません!!」


 永久が言いながら、正樹を背負おうとする。

 それをシルビィが止めた。

 正樹の様子からして、街までは持たないと判断したのだ。


 「じゃあ、どうするッ?」と、永久がシルビィを見る。


 「きゅ、解毒キュア調薬カムパウンドのスキルはありませんか?!」


 シルビィが必死に頭を働かせて、現状を打開出来そうなスキル名を上げた。


 「私は歌くらいしか持ってない」


 雪菜が苦虫を噛み潰したような顔で告げると、その他の者も同様に首を横に振った。


 「ど、どうしたらッ……」

 「一か八か、街に行くしかないだろ」


 シルビィが顔を真っ青にして狼狽する中、永久が再び正樹を背負おうとする。

 けれど、それを今度は雪菜が腕を掴んで止めた。


 「栗原さん、何で止めるッ……?」

 「緑川さん、ステータスを呼び出して」


 目を細めた永久の問いを無視して、雪菜はいのりに声を掛ける。

 いのりは「は、い!」と慌ててステータスを呼び出す。


 表示されるスキルは『ヴェルトゥLV10』『料理クックLV5』の二つ。


 その間も、正樹は身体の痙攣が酷くなり、「う、あ、うあ……」と苦しそうに、呻く。


 「確か料理クックのスキルがあったよね? 毒消し草に使えるか試してみて」


 煎じる、煮詰める。

 雪菜は毒消し草を食材として、料理クックと言うスキルを活用出来ないかと考えて、告げた。


 シルビィと永久から、困惑の声が洩れる。


 これが駄目なら、街まで死物狂いで走るしかない。

 雪菜はそう思考しながら、いのりの反応を見つめた。


  「……え?」


 いのりは雪菜の指示に従うように、毒消し草を美夜から受け取り、言われるがまま料理クックを使用しようとした。


 『毒消し草を料理しますか?』


 毒消し草なんて料理出来ない。

 そう思っていたいのりの頭に、文字が浮かぶ。

 いのりは慌てて、「は、はいいぃ!!」と激しく頷く。


 「み、緑川さん?!」

 「イノリ様?!」

 「! ちょっ、光って?!」


 目を見開く、美夜、シルビィ、永久の視線の先には発光する毒消し草と、それを持ついのりの両手。

 上手くいったのか、と雪菜もいのりを凝視する。


 『毒消し草の料理に成功しました。それにより、解毒剤アンチドーテが完成しました』


 いのりの頭に、再び文字が浮かんだ。


 「わ、え……解毒剤アンチドーテ?」


 ちゃぷん──手に液体の感触が現れて慌てて、手をお碗の形にすると、そこには緑色の液体が溜まっていた。


 「この瓶に入れて、山下くんに飲ませて」


 解毒剤アンチドーテと言う言葉を聞いた雪菜が、先程空いた瓶を差し出し、いのりの手の中の液体をそこに入れるように促す。

 少々零しながらも、瓶に収まったそれをいのりが、永久に正樹を支えて貰いながらも、慌ただしく飲ませた。


 その光景をシルビィが茫然と見つめる。

 「料理クック? ユニークスキル? 調薬カムパウンド以外で調合のスキルなんてあった……?」と。


 「正樹、正樹……平気か? 意識あるか?」


 解毒剤アンチドーテが効いたのか、痙攣が治まり、正樹の顔に僅かに赤みが差す。

 永久が声を掛けると、「すぅすぅ」と寝息が聞こえてきて、ほっと肩を撫で下ろした。




.

取り敢えず、ゴブリン討伐完了!

料理スキルの活躍回でした!


お試し版、追い付きました!


次回、更新は日付が変わった頃に投稿を予定しております!



以下、おまけ。


 ◆◆◆◆◆◆



 南奈「中ちゃん先生、あれ食べよ!」


 八重子「あれは、りんご飴?」


 南奈「ぽいよね~」


 八重子「異世界でりんご飴って、変な感じするね」


 南奈「うん、何か変だね?」


 八重子「買ってみようか」


 南奈「よし、行こー!」



.

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