閑話 国王ガルシアと国軍大佐マリク
軍事国家アルトロメリア、王城。
謁見の間にて、王座を前に、マリクとイリス、両名が跪き、頭を垂れていた。
「面を上げろ」
王座に座するは、炎のように真っ赤な癖のある長髪に、赤茶色の瞳をした男性──アルトロメリア国王、ガルシア・V・アルトロメリア。
ガルシアより許可の下った二人は「はっ!」と、顔を上げた。
「申し開きはあるか?」
ガルシアの平淡な声が、この室内にやけに響く。
やっべ~、これどうすんですか~、、と言いた気に口元を引きつらせたイリスを尻目に、マリクは自らの口角を上げる。
「いやはや、陛下。先に伝令した通りですよ」
「ほう?」
はっはっはっ、と今にも笑い出しそうな笑顔でマリクは言う。
それに、ガルシアの瞳が細められ、イリスがイリスちゃんの休暇が終わたー、と内心で諦めたように笑った。
「地を揺らすものに妨害されまして、任務は失敗致しました。私共もそれはもう命からがらで……」
軍服の袖を伸ばし、にやけた口元を隠すと、マリクはよよよと泣き真似をする。
「茶番は要らんぞ。余の命を覚えているか?」
「はい、しかと」
「なれば、何故このような結果になった? お前ならば完遂出来ずとも失敗まではしないような、簡単な任務であろう?」
ガルシアの鋭い眼光が、マリクを射抜くも、マリクは何処吹く風。
隣でイリスは、素知らぬ顔で、会話の成り行きを見守った。
今回、ガルシアがマリクとイリスの両名に、命じた任務は一つ。
狼の森に設置された召喚陣より、召喚された邪神の手駒を保護し、自分の前に連れて来る事、だけである。
「陛下は私を買い被りすぎでは?」
「買い被っているつもりはないが?」
まるで睨み合うように、二人が見つめ合う。
「……はぁ」
先に視線を逸らし、折れるように溜め息を吐いたのはガルシアであった。
「そうだな、余の買い被りすぎであったかもなぁ、マリク?」
「えぇ、えぇ、そうですとも? ガルシア様?」
片や諦めたような、呆れたようなガルシアに、片やふふふふと楽しげに笑うマリク。
何とも言えないその光景に、イリスは一人苦笑する。
(あーあ、本当、腹の探り合いならイリスちゃんの居ない所でやってくださいよ~)
この二人はいつもこうだ、とイリスは小さく溜め息を吐く。
ガルシアも、マリクも毎回何かしら企んでは、互いに腹の探り合いをする。
腐れ縁。昔馴染み。なんて、言葉の似合う二人の関係。
本人達と両親、それにマリクの直属の部下であるイリスくらいしか知らない関係。
「ならば、再び命を下す。国軍大佐マリク・スーヴェル、並びに国軍中佐イリス・ロックバレー」
──今回逃がした邪神の手駒を保護し、余の前に連れて来い。
見付けるまで、保護するまで、帰還は許さない。
ガルシアはそう、淡々と命令を下した。
二人は静かに、大人しく、「はっ!」と頭を垂れる。
下を向いたマリクの口元が、三日月を描いた気がした。
◆◆◆◆◆◆
あれから、謁見の間を後にしたマリクとイリスは、人の居ない城内の廊下を歩く。
足取り重く、暗い雰囲気のイリスとは対照的に、マリクの足取りは実に軽やかであった。
「う~、う~、う~」
「何を駄々っ子のように唸っているんです、イリス?」
「う~、だって~! 大佐のせいでイリスちゃんの休暇が~ッ!!? 明日お休みだったのに、イリスちゃんまた遠出なんてぇ~ッッ!!? イリスちゃんのぐーたら生活はぁ~ッッ?!!」
うわーん、とまるでこの世の終わりのような表情を浮かべたイリスが、泣言を零す。
それに、マリクは笑いながら言う。
「はっはっはっ、人は道連れ世は地獄と言うではありませんか」
「いや、言わないです」
諺のような可笑しな事を言い始めたマリクに、イリスは思わず真顔になり、標準口調でばっさり返す。
「そうでした?」
「少なくともイリスちゃんは知らないです~」
すっ惚けたように問い返すマリクに、イリスは口調を戻して告げる。
「まあ、いいではありませんか。さあさあ、邪神の手駒を捜しましょう」
「はーい。て、大佐また陛下の命に背くつもりじゃないですよね~?」
「はて? 何の事やら?」
また惚けるように首を傾げるマリクに、イリスら 目を細めた。
「何かやるなら、イリスちゃんの知らない所でしてくださいよ~?」
素知らぬ顔でそう告げるイリスに、 マリクはくすりと笑った。
「善処しますよ。殺さないようにね」
脅しが現実にならないように、精々足掻いてくださいな? 邪神の手駒?
マリクはこれからの任務の事を考え、楽しげに言った。
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これもカットした話です!
どの辺に入れようか迷ったお話。
国王と大佐と中佐のお話。
次回、更新は日付が変わった頃に投稿を予定しております!
本日は閑話に付き、おまけはお休みです。
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