第16話 宿屋が決まってくつろいでたらレベルアップに気が付いた
シルビィを同行者として迎え入れた後、一同はグループを三つに分け、宿を探した。
修也とシルビィ、雪菜の居る三グループ、怜奈の居る四グループ。
精市の居る一グループ、勇人の居る二グループ。
八重子と、叶太の居る五グループ、歩夢の居る六グループ。
と、分け方は以上だ。
本当は安全面の確保の為にも、固まっていた方がいいのかもしれないが、宿に泊まるに当たり、三十二人と言う人数は多く、宿屋を取れる可能性が低くなると言う事で、こうなった。
三つに分かれる際、教諭の居ないチームが出来てしまう事に、修也が僅かに渋ったが、精市と勇人の二人が混ざるのであれば、と妥協する。
常日頃、生徒会会長、生徒会副会長の業務をこなす二人が一緒であれば、他の者よりまだ危険はないか、と。
そうして、一同は宿屋を探し、見付けたのが猿の尻尾亭、泳ぐ魚亭、豚の丸焼き亭の三軒である。
雪菜の居るチームが猿の尻尾亭に、精市の居るチームが泳ぐ魚亭、八重子の居るチームが豚の丸焼き亭に泊まれるように手続きを済ませた。
宿泊料金は何処も同じだったようで、一泊簡易朝食付き、一人銀貨三枚。
延長可能、との事らしいので、今回は三泊取り、金額は合計銀貨二百八十八枚。
金貨五枚と銀貨三十八枚であった。
但し、自分の費用は自分持ちであるシルビィは除く。
金銭については全て、唯一お金を所持している精市持ちで、「手元にいくらもないのは何かあった時に困る」と全員に金貨二枚を分配。
修也が、一先ず金銭面の解決策が見つかるまでの借金制とし、皆それを受け取る。
ただ、借金制と言っても、利子はない。
精市の行いは商売ではなく、善意であるから。
お金の分配も終わり、一同は宿屋の部屋で一息着く。
集合の呼び出しは叶太の担当だ。
部屋割りは、勿論男女別のグループ別で、教諭を加える形になる。
猿の尻尾亭。
四人部屋、栗原雪菜、茶越美夜、緑川いのり、シルビィ。
二人部屋、幾島葵、立花怜奈。
三人部屋、遠野修也、山下正樹、青瀬永久。
三人部屋、桃智和泉、久東貴李、加鳥晋也。
泳ぐ魚亭。
三人部屋、赤坂精市、水灰沢裕司、阿笠昌治。
二人部屋、黒井勇人、一之瀬啓太。
三人部屋、 名取南奈、黄谷真弥九重雅。
二人部屋、家鈴代、 小西愛衣。
豚の丸焼き亭。
三人部屋、中田八重子、 天宮朱里、 綾辻林檎。
二人部屋、影山紗月、本條歩夢。
三人部屋、藍崎仁、御堂満瑠、高城叶太。
三人部屋、白石幸村、藤沼陽太郎、宮地晃。
と、この通りだ。
◆◆◆◆◆◆
雪菜、美夜、いのり、シルビィの四人は借りた部屋の中、ベッドに腰掛けて、休んでいた。
宿の従業員に水を貰い、四人は各々のんびりと過ごす。
「ステータス、オープン」
雪菜は鑑定使用の成果が出てはいないか、とステータスを開く。
レベル2
名前:セツナ・クリハラ
種族:人間
性別:女
スキルポイント:6000
体力値:6/10
魔力値:55/170
物攻値:9
魔攻値:18
物防値:6
魔防値:20
俊敏値:27
器用値:11
精神値:31
幸運値:7
称号
『異世界人』
『吟遊詩人』
『歌姫』(偽証中)
スキル
『言語翻訳LV1』
『歌LV10』
『歌導術LV1』(偽証中)
『鑑定LV2』
『偽証LV2』
『経験値が一定値に達しました。レベル1からレベル2にレベルアップしました』
『熟練度が一定値に達しました。鑑定LV1から鑑定LV2にレベルアップしました』
『熟練度が一定値に達しました。偽証LV1から偽証LV2にレベルアップしました』
ステータス画面には、そう表示され、数値が上昇していた。
(レベルが上がってる……鑑定と偽証も。あの男達を伸したから?)
雪菜は目を瞬かせて、ステータスを見つめる。
レベルの上がった『鑑定LV2』は、名前までの鑑定が可能となり、『偽証LV2』は偽証出来る称号、スキルの数が一つずつ増えていた。
(へぇ、やっぱり使えばレベル上がるんだ)
じゃあ、取り敢えず『異世界人』 に偽証使って置こう、とスキルを使用すると、雪菜は用は終わった、とばかりにステータスを閉じる。
すると、不意にシルビィが声を上げた。
「あの!」
三人の視線が、一斉にシルビィに向き、シルビィの肩がびくりと反応する。
「えぇと、ですね。わたくしはレベルが6なのですが……皆さんのレベルをお伺いしても?」
シルビィの問いに、三人は互いに顔を見合わせた。
その顔には、一様に「どうする?」と書かれている。
「……ご不快でしたら、ごめんなさい」
困ったような雰囲気の三人に、何かまずい事を聞いたのか、とシルビィが肩を竦めた。
そんなシルビィに、美夜が慌てて「ごめん、あたしレベル1なの!」と声を上げ、いのりが控えめに「私も、1なんです……」と告げる。
「私はレベル2かな」
これは私も答える流れか、と雪菜も口を開く。
それを聞いたシルビィが眼を瞬かせて、「え、え、本当に? 旅の方ですよね?」と困惑している。
美夜といのりも、つられるように困惑し、助けを求めるように、雪菜に視線を向けた。
雪菜が「私?」と自らを指差し、首を傾げると、二人は力強く頷く。
「説明が遅れてごめんなさい。私達、旅を始めたばかりなんです。それで、ここらでレベル上げをしてから次の街に行こうと決めていて……もし急ぎのようでしたら、今からでも同行の話を取り止めて頂いても構いません」
雪菜は仕方ない、と口を開き、それらしい事を淡々と語る。
まあ、事実、雪菜がこれからやろうとしている事な為、別段間違いでもないのだが。
「そうだったんですか! 失礼致しました。いえ、このまま同行させて頂きます。わたくしもレベルを上げようと考えていましたので。それに……わたくしを同行者にしてくださる方なんて他には……あ、いえ! 何でもありません!」
言葉尻が小さくなっていったかと思うと、ぱっと表情を変え、何でもないように笑ったシルビィに、三人は首を傾げる。
「こちらからも質問いいですか?」
「はい、わたくしに答えられる事であれば何でもどうぞ?」
「私達は国を出た事がありません。なので、国境の渡り方が分からないのです。必要なものはありますか?」
雪菜の質問は割りと直球だった。
もしかしたら、不審極まりない質問になる事を承知しながらも、何れは聞かなければならない事ならば、いつ聞いても大差ないと、思い切って問う。
「ああ、旅始めの方ならば知りませんよね」
シルビィが苦笑を浮かべた後に、語り始める。
雪菜の問いは、どうやら可笑しな質問ではなかったらしい。
「国境を越える為に必要なものは、ギルドカードか国から発行されます通行証のどちかになります。ギルドカードの方はランクD以上からでないといけませんし、通行証は国が許可しない限りは発行されません。どちらの入手が楽か、と問われるとギルドカードの方だと思われます。通行証は商人の方や貴族の方でしたら容易に取れるかと思いますが、村人の方などでは先ず難しいでしょう。それでなくとも今は、邪神の騒動により、国境警備が厳しくなっておりますし……」
淡々と分かりやすく説明していくシルビィに、美夜が「ほー」と手を叩き、いのりが「ぎ、ギルドカード?」と首を捻る。
シルビィが付け足すように「ギルド連盟への加入はお済みですか?」と問う。
三人はまた顔を見合わせ、首を横に振った。
「まだでしたら、この後参りませんか? わたくしも丁度、この街で加入しようと考えていたんです。他の方々も加入されていないのでしたら……人数が多すぎると受付で手間取ってしまいますので、何回かに分けて参りましょう!」
「ふふふ」と、楽しそうに笑うシルビィの提案に、雪菜は「そうですね」と頷く。
美夜といのりが、「え、勝手に決めていいの?」と言う顔で雪菜を見ると、雪菜は「先生方に報告しなきゃね」と声を掛けた。
二人は小さく「うん」と返す。
それからは、四人共他愛ない会話に花を咲かせた。
「シルビィさん、て美人ですよね」と呟いたいのりに、「せつなんだって負けないくらい綺麗だもん」と美夜が張り合ってみたり。
美夜がシルビィの耳を触ろうとして逃げられたり、その後、雪菜にもふられて、真っ赤になったり、そこをいのりに救出されたり。
ふと、頭に響いた叶太の「あー、テステスー、全クラスメイト及び先生方に通達です! これより中央広場に集合! 以上、豚の丸焼き亭より、高城叶太からでした!」と言う呼び出しがあるまで、談笑は続けられた。
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主人公レベルアップです!
そして、漸く16話目まで来ました。
17話目で、いよいよギルドに行きます!
次回、更新は夜の7時に投稿を予定しております!
以下、おまけ。
◆◆◆◆◆◆
雪菜「もふもふもふ」
(シルビィの両耳を雪菜がもふる)
シルビィ「ぴいぃッ?!」
美夜「あ、あたしももふりたい!」
シルビィ「や、やめてッ……くだぴゃいッ……!?」
いのり「わ、わーッ!! 止めたげて、二人ともーッ?!!」
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